7.冒険者リーリン
私は、リーリン。
ラッシュ子爵領の領都ラッシュビルを中心に活動する冒険者で、水と生命の魔法を操る有力な魔法使いだ。
冒険者ギルドには私のような、高ランク冒険者が十数名集められていた。
「領主様からの強制クエストだ。依頼内容は、北部で勢力を増す盗賊団グリーンベアーと傭兵団レッドビートルの壊滅作戦のサポートだ。ラッシュ領騎士団の4軍全軍で当たるらしい」
その作戦の規模に驚きが広がる1軍約100名、4軍で400名だ。
各軍の上位10%は高ランク冒険者にも劣らない強力な士官が含まれる。
それに領都の高ランク冒険者十数名を加える
盗賊団と傭兵団の規模はそれぞれ約100名で、砦攻略であれば、数の上では領主側の過剰戦力というわけではないが、ただの盗賊団に上級冒険者や騎士団の士官クラスの戦力を持つ人間がそれほどいるとは思えない。
「領主様からの指示は「徹底的に殲滅せよ」だ」
私は騎士団3,4軍と共に、昨日、グリーンベアーが新たに占拠した拠点への襲撃を請け負った。
元はシャープクロウという組織の拠点で、今回の殲滅目標にはなかったが、前日に突然占拠したようだ。
その拠点にグリーンベアーとレッドビートルの主力が集結しているという情報があったので、こちらも戦力を終結させて一網打尽にすることにした。
情報通り、拠点にはグリーンベアーの頭目ライコスと傭兵団隊長ノラ、そして盗賊団と傭兵団の主力部隊それぞれ50人ほどがいた。
突入した騎士団4軍と冒険者の精鋭部隊は、領主の指示通り、全員の殲滅を始めた。
拠点攻略開始とともに、士官と冒険者10名ほどで先回りし、ライコスとノラをとらえ、縛り上げた。
ライコスとノラは全身縛られ、猿轡をはめられた状態で身動き取れないようにされており、目の前で彼らの部下たちが殺されていく様子を口や縛られた手から血を流しながら見ていた。
殺戮ももう終わると思われたころ、隠し部屋から大勢の奴隷と思われる人が見つかった。
皆それほど健康状態には問題なさそうに見えたが、6歳の男の子が目を半開きにして、同じく半開きの口からよだれを流して立っている姿が気になった。
調べてみるとこの少年は、呪術で記憶が操作されており、自分のこともわからない状態になっていた。
この呪術を施したのは、先にとらえた傭兵団のノラということが分かったので、騎士団の人間が術を解くよう指示をしたが、にやにやするだけで全く聞くそぶりがなかった。
業を煮やした騎士団長は、指を折る拷問を始めたが、いうことを聞かない。
仕方ないので、私が水魔法で呼吸ができないようにして、気を失ったところを回復魔法で意識を戻したり、目を見開かせて高圧の水をぶつけて目をつぶしてから回復させるなどの拷問を繰り返した。
ノラの表情からはにやにやは消えたが、うつろな目で私をにらみつけるだけで、決して少年の呪術を解こうとはしなかったので、ノラのつぶれた右目と折れた右手は回復させないでそのままにしておいた。
「お前ら、絶対に許さねえ、絶対に復讐してやる」
ライコスは床に自らの額を何度もぶつけて血だらけになりながらずっと怨嗟の言葉を吐いていた。
ノラは片目になった左目だけで、うつろな感じで回りを見ていた。
生き残ったのは彼ら2人を含めた数名の幹部のみ、すぐに領都ラッシュビルに移送されることとなり、騎士団と冒険者による盗賊団、傭兵団壊滅作戦は成功で幕を閉じた。
騎士団はまだ調査が残っているようだったが、私たち冒険者は報酬を受け取って、自由にしてよいということだったので、早々に立ち去ることにした。
呪術を受けている少年について、生き残った奴隷たちに聞くと、サキという10歳くらいの獣人の子が世話を申し出たので隣で面倒を見させた。
獣人は隣の連合国内で国を作って暮らしているものが多いが、獣人国とかかわらないで、他国で普通に暮らしている獣人も、都市に行けば相当数いる。
まれに他国で奴隷にされていることもあるがそれが見つかると大変だ。
獣人国は、奴隷となった獣人を解放するために、外交的、軍事的に圧力をかけてくるので、争いが絶えない。
何年も血みどろの争いを繰り返し、少しずつ獣人の奴隷はかなり減ったように思うが、獣人が奴隷であることは厄介な問題に発展する可能性がある。
この獣人のサキも、呪術を受けて記憶をなくしている少年も、シャープクロウの女幹部が瀕死の状態で拠点に連れてきて、治療していたらしいが、その女幹部も含めてシャープクロウのメンバーは騎士団突撃の混乱の中で拠点から逃げ去り、誰も残っていなかった。
「私、この子の呪術を解いてみるわ」
私は、大量の虐殺を見たせいか、冒険者稼業にすぐに戻る気分になれず、休暇を取りながら、この少年の世話をすると傭兵団長に申し出た。
「奴隷たちはすぐに解放される予定だから、少し待ったら、身内が名乗り出てくるかもしれん」
騎士団長は少し様子を見てから連れていくように言うが、私はすぐにでもここを離れたかった。
「サキという子が言うには、昨日、親が迎えに来る予定だったけど、結局来なかったらしいのよ。盗賊団のことだから身代金を吹っ掛けたのかもしれないけど、呪術に侵された子を引き取ることを躊躇したかもね」
少し思案した騎士団長だったが、
「わかった。すぐ連れて行ってもいいぞ」
と言ってくれた。
「サキという奴隷が少年の世話をしてくれるので一緒に連れて行くわね」
「ああ、獣人の奴隷は扱いに困るからな、連れてってくれるなら逆に助かるさ。他の団員に見つからないように裏からこそっと出て行ってくれ」
こうして、1人の少年と1人の少女を連れて、私は盗賊の拠点を後にした。