6.母
パドラは生まれた時から私のおっぱいが大好きだった。
おっぱいを吸っていればすぐに泣き止みご機嫌だった。
ただ、パドラが3歳の時、生まれたばかりの妹2人と一緒に祖母のおっぱいを吸って喜んでいると聞いたときは少し寒気がして、心配になった。
きっとママが恋しかっただけだよね?
そんなパドラも成長し鑑定の儀を迎えた。
鑑定の儀では2つの魔法の才能が発現していて、さすが私の息子と思わず叫びそうになった。
鑑定の日の午後、早速魔法の練習に2人の妹を連れて隣の家のサランと一緒に出掛けて行った。
魔法はそんなに簡単に使えるようにならないから、今度しっかり教えようと考えていた。
私の仕事は鉱山でけがをした鉱員を治療することだが、このところ、鉱山に新たな人員の補充が少なくなったため、鉱員が休んでいる夜の間に、できるだけけがを回復させ、翌朝から働けるようにする必要があって、夜勤を続けていた。
私は仕事に行く準備をしていたところにサランと娘2人が泣きながら家に帰ってきた。
泣いて何を言っているのかわからないスーラとカーラに比べて、サランは割としっかり状況を教えてくれた。
羽の帽子をかぶった女がけがをしたパドラをどこかに連れて行った。
パドラがけがをした理由はわからない。
鎧を着た男たちもいたけど、どこかに行ってしまった。
以上の情報から、シャープクロウのカルメラの顔が浮かんだが、今、私の村は彼女たちと対立しているので、すぐにでも彼女たちの拠点に行きたい気持ちを抑えて、村長に相談した。
村から使者を立てることになったが、シャープクロウと周辺の村々がもめている原因の一つが生命魔法使いである私の治療で、連れ去られたのがその息子のパドラであることを考えると、少し慎重にならざるを得ない。
もどかしく感じながらも使者のやり取りを繰り返し、ようやくパドラの無事が確認でき、迎えに行くことが許されたところで、迎えが中止になった。
シャープクロウのアジトと村は馬で2,3時間の距離だが、その街道に素性のよくわからないレッドビートルという傭兵団がキャンプを張り通行料を徴収し始めたそうだ。
縄張り内で通行料をとるなど、シャープクロウに喧嘩を売っているようなものなので、対決は必至、事が落ち着くまで、往来を控えることにした。
数日後、思ったよりもあっさりと街道が通れるようになり、約束された日にシャープクロウのアジトに着いたら、傭兵団にアジトが落とされていた。
いや、首謀者はグリーンベアーとかいうまた他の盗賊団らしいけど、そんなことはどうでもよかった。
「息子が中にいるのよ。私を中に入れて」
私は焦って、アジトを取り囲む盗賊団や傭兵にお願いしても全く中には入れてもらえなかった。
しばらく外で待っていたが、どうやらシャープクロウのメンバーはほかの場所に移されて、その後解放されるということだったので、一旦、村に戻ることになった。
翌日、事態はさらに混迷する。
今度は、領主軍と雇われ冒険者の一団が、グリーンベアーとレッドビートルを襲ったのだ。
パドラが連れ去られたと思われる、昨日まではシャープクロウのアジトだった拠点にも領主軍が襲撃した。
この襲撃のあと、盗賊団グリーンベアーと傭兵団レッドビートルは完全に瓦解し、どこへともなく、ちりじりに敗走していった。
領主軍は何かを調べているのか占領した拠点をすぐには解放しなかった。
領主軍による盗賊団・傭兵団襲撃から5日ほどたって、領主軍が去った後の拠点を隅々まで探したが、シャープクロウのメンバーもほとんど見つからず、私はパドラの行方を完全に見失ってしまった。