5.傭兵団と盗賊団
カルメラたち盗賊団はシャープクロウと名乗っており、親玉はジーンという45歳くらいのおじさんだ。
彼はそれほどしゃべる方ではないが物腰が軽く、とても慕われているように見えた。
カルメラとは非常に長い付き合いだそうだが、ジーンは彼女に対してだけは一歩引いた位置で、常にカルメラを立てているような態度をとっているように感じた。
シャープクロウは俺たちの村を含めたこの地域一帯に古くから住み着いた義賊のような存在で、主な収入源は、鉱山の人と資材の分配でだそうだ。
ところが近年この鉱山利権をめぐって、村々と衝突することが増え、その最中、傭兵団が攻撃を仕掛けてくるようになったそうだ。
さすがに村単独で傭兵団を何日も雇える経済力はないので、どこかの村が傭兵団を雇った可能性は低いと考えているが、確かめる方法もなくお互いに疑心暗鬼が続いていたところに、俺のけがとアジトでの治療という事態になり、信頼回復の一助となることが期待されているようだ。
「なんだ、あんたラスーンの息子なのか?わかっていたら最初から余計な気を使わなくてよかったな」
カルメラは、どうやら母のことを知っていたようだ。
カルメラに聞いて、初めて知ったが、母の仕事は鉱山でけがをした鉱員を治療する生命魔法使いだった。
ラスーンがけがをした鉱員を鉱山で治し始めたので、鉱員の入替が減り、シャープクロウの収入が減少した。
それを補うために手配料を上げようとしたことで村々から反発を食らって今に至るらしい。
母親が原因か……俺たちのために働いてくれているので俺は感謝しか言えん。
「あんたが生命魔法を使えるのも納得だ。それにしてもサキの傷をよく治してくれた。お前の嫁にやるから、欲しかった持ってきな」
突然のことに思わず口にしていた果実ジュースを吹き出した。
サキは顔を真っ赤にして、ちらちらこちらを見ていた。
「まだ6歳ですよ。嫁とかいわれても困ります」
と慌てて言ったところで、怒声が聞こえたかと思うと、一気に何人もの人が、部屋に入り込んできた。
「ライコス!あんたどういうつもりだい?」
カルメラは大きな偃月刀を構えて先頭に立つ男をそう呼んだ。
「カルメラ、悪いがシャープクロウは今日でお終いだ。お前がシャープクロウのメンバーを束ねて俺の下に下るなら幹部として歓迎しよう」
その言葉を発した直後、突然、ジーンがどこからか現れ、ライコスを襲った。
何とか偃月刀で、ジーンのナイフ攻撃をかわしたライコスは、
「ノラ!こいつをやれ。命令だ」
と叫んだ。
ノラというのは傭兵団の隊長の名のようで、ノラ隊長は、素早く抜刀して、ジーンに近づくと、まるでライコスと一緒に一刀両断するごとし、鋭く剣を一閃した。
ライコスが慌てて何か言おうとしたが、文句を言う間も与えないほど、素早く連続で剣が振られる。
ジーンは防戦一方となったが、一瞬のスキをついて、窓から外に消えていった。
強いな……ノラ隊長。
「さあ、カルメラ、ジーンは去ったぞ。どうする?」
ライコスがそう叫んだとき、ノラ隊長が俺を見て、不敵な笑いを上げた。
やはりノラ隊長は俺に矢を刺したやつだ。
俺は恐怖で震えが出た。
「なるほどここに連れてきて治療したか。いい選択だが、こいつが生きて村に帰ると、傭兵団は村との対立が避けられない。私は窮地に立たされるわけだ。カルメラ、こいつの存在は、俺に対する脅しになるぞ」
剣の刃をたたきながら、ニタニタ顔で近寄ってくるノラ隊長に対して、カルメラが声を上げる。
「やめろ、もうすぐこの子の母親が迎えに来ることになっている。傭兵団はその子の負傷について知らぬ存ぜぬを通せばよい。母に真相を話さないよう約束させればよい」
カルメラはライコスにけん制されて動きが取れず、代わりにサキが俺の前に立とうとしたが、ノラ隊長に軽く押されて、しりもちをついてしまった。
「ここで判断を誤ると組織を危険に晒す。ここはこうさせてもらう」
ノラ隊長が、何か丸薬のようなものを俺の口にいれて、飲み込ませた。
続けて、手を額に当てて何か呪文のようなものを唱えると、額が焼け付いたように熱くなり、俺の意識は真っ暗になって、倒れこんでしまった。