49.サキ
スライドバレン辺境伯はケモミミスキーでありながら、オトコノコスキーだった。
風上にも置けない奴だ。
あまりのことに放心して何も言えない俺を見て、作戦の成功で感動して何も言えないと勘違いしてくれたようで、俺はゆっくり休むと一言絞り出してその場を去った。
サキを呼んで、黙って抱きしめてもらって、一緒に寝た。
サキは黙って頭をなでてくれた。
少し涙が出た。
翌日、獣人軍の救出部隊が到着した。
彼らは、すでに救出が終わっていることに驚いていたが、お礼が言いたいと面会を求めてきたので、屋敷であった。
トラ耳司令官とシラランが居たが、初めて見る人もいた。
「初めまして。獣人国第一皇女バレンシアと申します。この度は獣人救出にご助力いただき、御礼申し上げます」
きれいな白猫耳だった。
サキと同じだ。
隣にいたサキがピクリと反応する。
ん、やはり知り合いか?
「あなたの隣にいる獣人、サキさんとおっしゃいましたか、少し話をさせていただけませんか?」
バレンシアさんが突然お願いしてきたが、サキを見るとうなずいたので、許可を出す。
「あなたも私と同じ白い猫耳ですが、実はこれ白ではなく銀色なのです。この色の猫耳は獣人国でもごく少数しかおりません。それは王族であることの証なのです」
やっぱりそう来たか……サキは王族か……
「私には6歳ほど年が離れた妹がいました。幼いころ離れ離れになってしまいましたが、今20歳になっていると思います。12ほど年前、誘拐事件が起こり始め、その時から、男の子が多く誘拐されましたが、少数、女の子も誘拐されていました。1度誘拐されると男の子はほとんど見つかることがないのですが、誘拐された女の子は奴隷として外国で、特に最近は帝国内で見つかることが多かったのです」
なるほど、帝国に濡れ衣を着させて出兵した工作ってやつだな。
「私の妹も、ちょうどそのころ、8歳の時に誘拐されましたが、これまで見つかっていません。単刀直入に言いますが、あなたは私の妹ではないかと思っています。あなたに何か心当たりはありませんか?」
サキは、俺と会った時、10歳だったが、その一年ほど前に先日ケモミミランドまで開通した坑道で大けがしているところをカルメラに拾われた。
命を救ったのは薬師のおばばで、傷を治したのは俺だ。
サキはそれ以前の記憶はないと言っていたが……
必死に問いかけるバレンシアの姿をみて、サキは少し申し訳なさそうに
「ごめんなさい。何もわからないの……」
と声を絞り出した。
「パドラの呪術ならできるかもね~」
その日の夜、久しぶりに現れたリーリン師匠は、サキとバレンシアのことを聞くとそう言った。
そういえばノラに記憶操作とか、記憶封印とかいろいろ教えてもらった。
「でもね~記憶をなくすってことは、辛い記憶を自らの身を守るためにあえて消していることもあるから、記憶が戻ると辛いこともあるかもよ~」
うーん……不安だな。
リーリン師匠は、反領主の戦いで冒険者の力を借りるためラッシュビルに行っていたが、獣人捕虜奪還の報告を聞いて、急ぎ帰ってきたらしい。
「領主側は騎士団に戦闘準備を命じたみたいよ。と言っても、獣人を攫っていたことを明らかにはできないし、ましてや獣人国が獣人捕虜を奪還したのなら、それを理由に戦いなんてできないから、すぐには動けないだろうね~。獣人国を相手にするなら王家が納得するだけの材料がいるから~」
まだ、時間はあるか……
で、サキの話、どうしようか、本人に聞いてみるか。
「パドラとずっと一緒に居られるなら今のままでいい」
可愛くて抱きしめた。
サキは俺の4つ上、20歳のお姉さんだ。
「バレンシアさんも必死そうだから、パドラが、何があっても一緒にいると約束してくれるなら呪術を使ってもいい」
もう一回抱きしめて、感極まって耳を舐めた。
正直、バレンシアさんの必死さが気になっている。
他の獣人たちも口が重くて、サキについては何も言わないし、サキが教えてと言っても土下座して、ご容赦を~と言われてしまう。
仕方ない、ちょっとやってみるか。
サキを呼んで記憶操作を始めることを伝える。
念のため、リーリン師匠、ナレンダ師匠、母さん、カルメラ、ばあちゃんに一緒にいてもらう。
抱きしめて、ゆっくりと術を唱え、魔力を流していく。
ノラは丸薬を触媒としてよく使うが、丸薬触媒は呪術ではポピュラーなやり方のようだ。
しかし、俺は、自分にかかった呪術を解くというやり方で呪術を使い始めたので、触媒無しに直接魔力で術をかけていく。
昔、俺が自分の記憶を封じられていた時、前世の俺の記憶があったおかげで、客観的に封印された記憶を感じることができたが、今回はその経験が役に立っている。
少しずつ、サキの記憶に魔力で触れていく。
古い記憶から順番思い出させよう。




