40.敵との戦い方
母の長い話を聞いて、俺をずっと探してくれたことに感動していた。
スラテリア神聖国では隣の獣人国から獣人の子供を攫い、それをスライドバレン伯爵に送るかわりに金銭を得る。
スラテリア神聖国は、その金を使って巨大な宗教モニュメントを建設中で、ラッシュ領から奴隷が減ったのはこの建設事業に連れてこられたということだ。
スラテリア教は獣人蔑視、奴隷禁止の宗教だから、獣人国から拉致犯として疑われてはいなかったし、蔑視されるのが鬱陶しいからあまりかかわらないようにしていたようだ。
スライドバレンとスラテリアの関係がようやくわかりかけてきたときに、母は、同じようにスライドバレン伯爵を調べていたリーリン師匠たちと出会ったそうだ。
あの日、俺を人質にして、リーリン師匠たちに仕事を依頼した人は、スライドバレン領の領都クレイビルの商業組合の幹部から依頼を受けた冒険者で、与えられた仕事は、領内に秘密裏に連れてこられる獣人の居場所や領主と隣国との取引関係を調べる仕事だった。
そして、リーリン師匠たちから俺の話を聞いた母は、俺がまだグランドブルグ近郊にいるのではないかと思い、サラと2人でグランドブルグに向かおうとしたが、衛生兵反乱・盗賊襲撃、獣人軍侵攻が重なり、入国を断念した。
帝国に侵攻していた盗賊団のカルメラがグランドブルグに行くことを聞きつけ、俺の様子を見てきてほしいとお願いした結果、俺がカルメラに拉致されてここにいる。
ケモミミスキーには粛清を、それが母、家族の目的だが、ここ2年ほどは、伯爵と神聖国の妨害が激しくなり、なかなか捜査が進展しなくなったそうだ。
戦力を結集して、事態を打開しようと、手を組める可能性のあるリーリン師匠たちと接触したいと思っていたところに、ナレンダ師匠が俺の所在を突き止めて探しに来てくれたということだった。
「正直、私や娘に対して、直接の攻撃も増えてきて、少し危険も増えてきているのよ。でも私たちは領主にとらわれている獣人たちを解放したいの。一緒に戦ってくれるかしら?」
「もちろんです!」
母さんやスーラとカーラを狙うだと!万死に値する。母の言葉に俺は力強く答えた。
「私たちも乗りかかった船だから協力するよ~」
リーリン師匠も協力を約束してくれた。
「でもさ~敵さん、かなり勢力拡大してるよ。もうラッシュも危ないんじゃない?」
リーリン師匠は、昔、ラッシュビルの冒険者組合に所属し、領主のクエストに参加して、盗賊退治に協力するなど、昔からの知り合いがここにはいる。
「4年前に領主が息子に変わったんだけどさ~なんか昔クレイビルに留学していたらしくて、スライドバレンの領主と仲いいんだって。スライドバレンに息子を留学させたんだから前の領主もどっちだったかわからないわねえ」
「ラッシュ領内で何かの活動が行われていたという話は聞きませんが、前の領主も今の領主ほどではないにしろ、スライドバレンに協力していたと思います。ただ、ここ数年、スラテリアの工作は、帝国と獣人国に対して活発でした。獣人国内で帝国が拉致犯だという意見を大きくして、自分たちへの目を反らさせようとしました。この策謀は成功し、獣人国に帝国に侵攻させるところまで行きましたが、結果として、戦争は回避されました。それをうまく利用したのが、クレイビル商業組合など反領主派で、盗賊団を支援し、獣人国出兵のタイミングで、カルザン共和国を設立、スライドバレンに協力していると思われるラッシュ領の力を削ぐため、鉱山など重要拠点を含む地域を分離させたのです。」
母がいろいろ背景を教えてくれる。
「私の依頼者であるクレイビル商業組合は、領主を倒すことが目的だけど、もう一つは、獣人国との戦争を避けるために獣人を平和的に獣人国に返そうとしていたんだよ。どうやらスライドバレン領主がとらえている獣人というのがスライドバレン領内じゃでなく、他の場所に隠しているのではないかということで、いろんなところを探したけど、結局見つからなかったんだよね」
「母さん、師匠。今のところ、敵はスライドバレン領主、ラッシュ領主、スラテリア神聖国というところですね。仲間は、クレイビル商業組合、カルザン共和国と俺たちということでいいですか」
「ラッシュビル冒険者組合も今のラッシュ領主には反感を持っているから、協力してくれるかもね~」
「獣人国は、獣人捕虜次第で敵にも味方にもなりえるけど、何とか接触して、味方になってほしいわね。あとお父さんとお母さんの王都にいる友達が協力してくれるって。結構力があるらしいわよ」
じいちゃん、ばあちゃんの友達か、強い冒険者なら会ってみたい。
そこでカルメラが意見を言った。
「正直、カルザンは今内部が分裂しておるから、あまり期待しない方がいいさ。先にカルザンの内部闘争が起きるかも知れないねえ。あと、敵味方は数ではなく戦力で見るべきで、敵はスライドバルド辺境伯領主軍8軍とラッシュ領主軍4軍を動員できるんだ。辺境伯軍は外敵への備えだが、その外敵たる連合国をスラテリア神聖国が抑えることができるなら、全軍動かせるだろうねえ。こちらは、カルザンの盗賊軍のみ、しかも分裂しているから、どれだけ動員できるかわからないしねえ。まあ、うちのダーリンだったら12軍相手でも無双だろうけど(ハート)」
最後の無茶ぶりはいらないが、その通りだ、とても戦える戦力ではない。
「まずは仲間を増やしましょう。リーリンさんには冒険者組合を、パドラ達にはカルザンをお願いするわ」




