39.家族の戦い
最初に異変に気付いたのは、鉱山で治療のアルバイトをしているときだった。
この国の奴隷は、衣食住と命の保証がされているので、一時的に経済的理由で、自分を担保にして金を借りて奴隷になる人間も結構いた。
しかし、犯罪奴隷については、そんな保証もなく過酷な環境に置かれることも多い。
鉱山で働く奴隷もそんな犯罪奴隷が多かった。
あるとき、奴隷の供給が少なくなった。
供給が一時的に少なることはあっても大体すぐに元に戻るのに、半年たっても少ないままだった。
ジーン、カルメラなど手配側の人間は、私が治療するから奴隷の交換が減ったと言っていたが、鉱山から領主への申請では必要奴隷数を減らしていなかったので、明らかに供給できる奴隷の数が減ったのだ。
そんな時、パドラの失踪事件が起きた。
必死に行方を捜して、鉱山組織などの力も借りて、盗賊団や怪しい組織にもいろいろ接触した。
連合国へ多くの奴隷が引き渡されているうわさを聞いて、パドラも奴隷として売られたのではないかと思い、連合国まで調査に行った。
巧妙に隠されていたが何とか奴隷たちの行き先を追いかけると、スラテリア神聖国という国にたどり着いた。
スラテリア教というよくわからない宗教を信奉している国で、ラッシュ領から奴隷は流れていたが、不定期に数十人規模で、小さな子供もいなかった。
少し滞在して、パドラにつながる情報はないと判断して帰ろうとしたとき、同じ王国のスライドバレン辺境伯領との物流の規模が異常に大きいことに気がついた。
神聖国はラッシュ領とは直接つながっていないが、スライドバレン領とは細い山脈でつながっている。
その山脈を大量の荷馬車が行き来していたので、気にはなったが、パドラの行方を捜すために一度ラッシュ領に戻った。
半年ほどたって何も手掛かりがつかめず、憔悴していた私たち家族にサランちゃんの父親で私と同じ鉱山で技師として働いてるサルバーレさんが家に訪ねてきた。
何でも獣人国は誘拐された人などを探すネットワークを持っており、今後、パドラらしき子の情報が入ったら教えてくれるというのだ。
代わりに私が獣人奴隷の情報を得たらすぐ教えてほしいと言われたので、喜んで了承した。
それから2年ほどして、結局有力な情報を得ることができないまま、サランちゃん親子は獣人国に引っ越していってしまった。
私の父母、シドとライラは元冒険者で腕っぷしには自信があった。
孫が生まれてからは好々爺になっていたが、実は娘である私には結構厳しい。
ある日、私がパドラ捜索に夢中になるのはわかるが、もっと下の子たちの気持ちに寄り添えと怒られた。
娘たちと話すと兄がいなくなった不安、母の私も外出ばかりでいない不安で押つぶされそうになっていたので、2人に謝りながら祖父母に感謝した。
情報が入りやすいということで、私たちはラッシュビルに家を借り、私と娘が家に残って、父母がパドラを探す旅に出ることにした。
それから2年、父母は、昔冒険者として活動して地理に詳しい、西側の王都周辺地域で捜索を行っていたが、何の手掛かりもなかった。
パドラの失踪当初、私たちは、連合国の神聖国まで調査を広げたが、その後は、王国内での捜査に力を入れた。
国をまたぐと最初に奴隷の情報が入ったように、何かしらの記録や人々の話になることが多いが、ラッシュ領に隣接する連合国の獣人国は奴隷などの売買を禁止しているし、北の帝国に行くには山岳地帯を越えなくてはいけない。
山岳地帯超えることもできるが、帝国は軍隊をおいて国境警備をしているので、たとえ盗賊でも簡単に侵入できないだろう。
すでにパドラ失踪から4年以上たち、一度これからのことも踏まえてじっくり考えようということになり、学校の夏休みを利用して、父母、娘と一緒に故郷の村に戻ったある日、娘2人の様子がおかしいことに気づいた。
母のカンでピンときたので、問い詰めると、村の林の奥に、逃げてきたと思われる獣人の子供が5人ほど隠れていて、娘たちは食事を運んだりしているようだ。
事情を聴くと、彼らは獣人国で拉致され、スライドバレン領に連れてこられ、そこで捕らえられていたが、連れてこられて1週間ほどたった時、スキを見て逃げ出して来たそうだ
家でこっそり保護をして、すぐにサルバーレさんに教えてもらっていた組織に連絡をとり、無事獣人国に保護されていった。獣人国には感謝され、パドラ捜索にさらに力を貸してもらえることになった。
聞けば近年獣人の拉致事件が頻発しており、拉致されたものが王国内で見つかったのは初めてだが、帝国内では頻繁に見つかっているということだった。
彼らが捕らわれていたスライドバレンの屋敷には、すでに証拠となりそうなものは何も残ってなかったそうだ。
スライドバレン領に何かありそうな感じがしたので、その後は領都クレイビルにも拠点をおいてスライドバレン領を中心に捜査を開始した。
娘たち2人とも魔法の才能が有ったので、ラッシュビルでは、貴族も通うような上級の学校に入れることができたのだが、ある日、他の生徒が獣人を馬鹿にすると言って怒って帰ってきた。
うちの娘は幼いころサランちゃんに遊んでもらった記憶もあるので、獣人に対して友好的だが、その生徒は獣人を馬鹿にして、同級生の獣人をいじめていたらしい。
聞くとその生徒はスライドバレン領から来た転校生で、スラテリア教の信者だそうだ。
昔、行った神聖国のこと頭に浮かんだ。
スライドバレン領の領都クレイビルで、じっくりと調べてみるとそれまでは感じなかった違和感があった。
まずは、スラテリア教の広がりとその宗教の異質さだ。
スラテリア教は人族至上主義で獣人、エルフ、ドワーフなどの亜人を下等とする。彼らは教義上、下等な亜人を奴隷として使用することも禁止しているが、蔑まれ、暴力を振るわれたり、被害は頻発しているようだ。
以前、気になっていたスラテリア神聖国との大量の荷物の動きなどを中心に2年間ほど調査を行った結果、スライドバレン辺境伯の秘密が暴かれた。
辺境伯はパドラと同じケモミミスキーだった。




