31.獣人
グランドブルグ防衛戦がいつ始まるのか、街全体が緊張しているとき、黒猫耳のシラランが俺を訪ねてきた。
彼女も獣人だから、これから始まる獣人軍との戦闘ではいろいろ思うところがあるのではないだろうか?
「私、獣人国のスパイなんです」
隠密10の人間が普通の人ではないよね。
「あの、勘違いしないでください。今回の進軍とは関係ないというか、どちらかというと進軍させないためにいろいろ調べてきた側です」
戦争を回避しようと動いていたらしい。
今回獣人国軍が国境を越えて進軍してきた理由が、いつものごとく、獣人の奴隷解放だった。
獣人国では、ここ数年の間に子供の獣人が何十人もさらわれていたそうだ。
帝国、王国、そして、仲間であるはずの連合国内にも多くの調査員を派遣して、さらわれた子供たちを探してきたが、最近このグランドブルグに連れてこられたという話が、獣人国側に伝えられたらしい。
その情報は、グランドブルグから連合国内のとある国に亡命してきた、数名の元衛兵団員がもたらしたものだ。
うーん。何かつながったかな……
「実際に娼館や町全体の食料の流れなどいろいろ調べましたが、この街に獣人を大量に隠しているような証拠はありませんでした」
なるほど、孤児院と食堂に居れば、この街の大体の食糧事情は調べることができる。
俺の生命魔法と院長の土魔法のおせわになっていない農家はない。
ほぼすべての農家から収穫の1~2割程度の野菜が届くから、町全体の野菜の流通が手に取るようにわかる。
「裏社会の情報も簡単に入ってきたので、どこかで獣人が被害にあっていればすぐ分ったでしょう」
パドラ組が街のもめごと処理にあたっているからな……そういう事件もすぐ情報が入っただろう。
「私の報告を待たずして、いきなり進軍を決めた理由がわかりませんが、少なくとも私はこの情報を侵攻軍に伝えなければなりません。ご助力をおねがいできませんか?」
すぐにレーバルさん、バーンズさんに孤児院まで来てもらい、マーラ院長を交えて意見を聞いた。
軍や領主などがいきなり動くよりもシラランの雇い主として、話を持って行った方が、獣人側もいろいろ動きやすいのではないかということで、俺が単独でシラランとエーナを連れて、獣人軍まで行くつもりだった。
エーナを残すと人質を取っていると疑われて、シラランの話を聞いてもらえない可能性があったからだ。
翌日の早朝、レーバルさんがこっそり東門から出られるように手配してくれたので、俺と、シララン、エーナの3人で獣人軍が滞在している地点まで向かった。
街から馬でおよそ1時間の距離だった。
シラランが話をするとすぐに軍の司令官と面談ができるようになった。
「うーん、我々の聞いていた話と違いすぎて信じられん」
トラ耳司令官はシラランの話を聞き困惑しているようだった。
「私はバレンシア皇女殿下の指示で動いています。一度殿下に問い合わせて、撤退の検討をお願いできないでしょうか?」
おっと、ここでなんか皇女がでてきたぞ。シラランさんや、仲間だったら情報開示は確実にね。
「うむ。今我々も攻め手がなくてな。我々800人に対して、敵は、街の中と周辺の駐屯地合わせて600人。攻めきるには少し足らんのだ。情報を本国に送って、判断を仰ぐとしよう。お前さんでもいいが、誰かひとり人質として連れていくことは可能かの?」
軍の行軍では国境からグランドブルグまで3週間だが、馬で飛ばせは、1週間とかからないだろう。
往復で2週間、何とか衝突を避けるためには、やるしかないだろう。
「わかりました。人質は私でいいと思いますが、一度街に戻って相談させてください。」
「よかろう、では2日後にまたここで」




