30.侵攻
「春には南部砦に出発することになりそうだ」
レーバルさんが言うには、夏の出発は中止になったが、やはり、砦と国境警備の軍団と入替は必要で、まずは3、4軍が、5、6軍と入れ替わることになったようだ。
ただし、グランドブルグの治安維持の人員は減らせないので、5,6軍がグランブルグに戻ってきて、治安維持業務を引き継いだ後に、レーバルさんたちが出発することになったらしい。
最近は獣人国とも王国とも小競り合いを起こすこともなく、国境は平和だそうだ。
俺の軍事顧問かつ訓練教官が居なくなるのは大変なので、いっそのこと軍をやめて、うちで働いてくれないかと頼んだが、もう数年したらまた誘ってほしいと断られた。
まだ、軍でやり残したことがあるようだ。
俺たちは、この1年、街の治安維持に協力し、レーバルさんの上司の騎士団長にもよく覚えてもらえていた。
その騎士団長が今度来る5、6軍に俺たちの戦闘訓練を頼んでくれるそうで非常にありがたい。
グランドブルグに5、6軍が到着し、軍の引継ぎも順調に進んでいるように見えた。
そろそろレーバルさんの出発も近づいており、居なくなるのは寂しいが、無事に帰ってくるように祈って、盛大に送り出すことにした。
そんなタイミングで事件が起きた。
獣人国が宣戦布告をし、国境を越えて進軍してきたのだ。
グランドブルグ侯爵領は、帝国の南東に位置し、南東を連合国の獣人国、南西を王国のラッシュ領に接しており、帝国国土防衛の責任を負っている。
領都グランドブルグは、領土の東側にあるので、獣人国に近い。
帝国首都もグランドブルグから北へ馬車で8時間ほどのところにあり、もともと帝国がこのあたりから発祥した国で西に領土を広げていったから、全体的に東側が発展している。
帝国軍そのものは領土拡大が続く西側中心に配備されており、首都とその周辺の防衛については、有力貴族に任されていた。
「どうにもはめられた感じがするなあ」
軍団長としておそらく夜も眠れないほど忙しいにもかかわらず、レーバルさんが訪ねてきてくれた。
彼が言うには、昨年のストラデスさんが亡くなった盗賊の襲撃、衛兵団の反乱の事件は、今回の獣人国進軍の布石の可能性が高いらしい。
確かに南部砦と国境警備には通常4軍が配備されているが、今は交替で2軍しか残っていない。
あの反乱と襲撃が無かったら衛兵団が街の治安を守っていたはずだからこういう事態になっていない。
国境からグランドブルグまで、行軍で約3週間かかるので、今から2軍で国境に向かうよりも、6軍そろって、グランドブルグで敵を待ち構えた方がいい。
ただし、ここは首都が近いので、懐深くまで入られるというのが怖いのだろう。
政治の中枢からは迎撃に出ろというプレッシャーが日に日に高まっているようだ。
「こんな時にもう一つ何かあると一気に状況が悪くなりそうなんだよな……」
優秀なのに疲れた中年軍人の雰囲気で、フラグなんて立てると……
なんて心配をしていると、盗賊の大軍団が領内に侵入したという情報が入ってきた。
王国ラッシュ領と接する国境は山脈地帯になっており、昔から盗賊被害が多発していた。
王国、帝国共に被害を受けていたので、お互いに相手国を非難していた。
どちらかの軍隊がいざ本腰を入れて退治しようとするとそれぞれ反対側の国に逃げるので、外交問題になることを恐れて、深追いはできなかった。
もともと何か示し合わせていたのだろうか、獣人軍が国境を越えてグランドブルクに向けて進軍を開始すると、盗賊団もすぐさまグランドブルグ軍南部砦に向かって進行した。
南部砦駐屯軍と国境警備軍として軍務を続けていた領主軍第7、8軍の2軍は連携して、盗賊団に対応することにした。
よって、獣人国軍は国境からグランドブルグまで、何の障害もなしに侵攻できた。
侵攻からちょうど3週間、グランドブルグの南に獣人軍約800人の姿が確認できた。




