3.村のはずれの林
この村のはずれにある野原とその周辺の林と河原の一帯は安全で、危険な獣や魔物どころか野生の動物も出てこないので、子供だけで遊ぶにも良いし、人も早朝と夕方仕事に行き来する人が通るくらいなので、魔法の練習場所としても最適だ。
早速、4人で林に向かう。
スーラとカーラは、初めて子どもたちだけのお出かけだからか、とても楽しそうにしていた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん早く早く」
手をつないで駆け出していく2人を見ながら、俺とサランは、妹たちが転ばないか、ハラハラしながら、ついていった。
しばらく遊んでいると、スーラが何かの気配を察知したようで、慌ててカーラの手を引っ張って、こちらに戻ってきた。
「お兄ちゃん、なんか怖いのくるよ!」
しばらくすると、林の奥から馬のかける音が聞こえてきた。
怯えるサランと妹たちを林の奥の茂みに隠し、俺は、少し離れた木の陰に隠れた。
そこからは林を突っ切る街道が見渡せるので、近づいてくる一団を監視していた。
10人ほどの盗賊団で派手な帽子をかぶった女が指示を出していた。
「追いかけてくるあいつらをやり過ごしたら、アジトに戻るからね。いいかい、まだ、この辺りの村と敵対するのはまずいから、決して、村に足を踏み入れるんじゃないよ。わかったかい?」
「はい!黒鳥姉さん」
あの帽子についている羽が黒鳥なのか?とりあえず黒鳥姉さんは30代だと思われるが、化粧が濃くて、美人なのかどうかはわからない。
ただ、彼女の言動からこの町を狙ったというわけでもなさそうだったので、少し安心していた。
とその時、彼女たちが現れた林の奥でまた違う音が聞こえてきた。
馬車のような車輪の音も聞こえる。
「あいつらこちらに来ましたぜ。姉さんどうしましょうか?」
「奴らもこの村の中まで踏み入れて敵対するようなことはしないだろう。少し林の奥に入ってやり過ごすよ」
女盗賊?たちは俺たちがいる場所から反対側の奥に向かって、姿が見えなくなった。
そこに馬に引かせた屋根のない荷台に乗った20人ほどの集団が現れた。
正規の軍隊のように整った装備をしておらず、いかにも傭兵団のような格好をしていた。
「隊長、奴らの姿が見えません!村の中まで踏み込みますか?」
「まあ待て、奴らも村の中までは入っていないだろう。盗賊団が村にかくまってもらえるとも思えんしな。仕方ない、一旦、拠点に戻るぞ」
踵を返して戻って行く彼らの一番後ろにいた銀色鎧の男がふらっと林の中に入ってきた。
このままではサランと妹たちが見つかると思ったので、慌てて、その男の前に立ちふさがった。
「隊長、ガキがいましたぜえ。どうしましょうか」
片手でエリをつかまれて、隊長の前まで連れていかれた。
「おい、この村の子供か?」
銀色鎧が問いかけるが、本当のことを言うべきか迷っていると、隊長と呼ばれる男が、にやにやしながら、突然手を振り上げて、俺の肩に何かを突き刺した。
「ぎあああああ!」
痛みで変な叫び声が出たが、何が起こったか全くわからなかった。
手で肩に触れると黒い羽根のついた矢が刺さっていた。
「隊長!いきなりどうしたんですか?」
「こんなところにいるのは村のガキか、村に来た大人についてきたガキに決まっているだろう。今このガキは黒鳥の矢が刺さって、命が危ない。数時間もすれば死ぬだろう。そうなれば、村の人間は黒鳥の矢を使ったやつと敵対するだろうな」
銀色鎧は、隊長の行動に目を見開いて驚いていたが、説明を聞くと妙に納得した感じでうなずいていた。
「とどめは刺さない。たかが子供に何本も矢を放つ盗賊なんて不自然だからな。この傷なら歩けないだろうが、念のためコダラ実の汁を塗って、しゃべれなくしておけ」
舌に何か液体のようなものを塗られるとしびれて感覚がなくなったが肩の痛みで気にしてられない。
俺を林の街道の上に投げだすと、傭兵団は元来た道を戻っていった。
痛みであえいでいるとサランたちが茂みから出てくるのが見えたが、同時に後ろから声が聞こえた。
「なんてこった。あいつらひでえことしやがる。こいつがここで死ねば、私らは容疑者だね」
女盗賊が手下たちと話しながらこちらに向かってきている。
サランたちは見つからないようにまた隠れたようだ。
サランいい判断だぞ。
「今こいつを連れて村に入ったところで誰も私らがやってないって信じてくれないだろうねえ。仕方ない。こいつを拠点まで運びな。間に合うかどうかわからないが、このまま死体となって、ここで見つかるよりは、いいさ。誘拐と誤解されるかもしれんが、治療した後なら、生きていても死んでしまっても村との対立は避けられるだろう。さあ、いくよ!」
馬に乗せられて、サランと妹たちが隠れている茂みを確認し、彼女たちが出てこないことを祈っていたら、意識がなくなった。