20.デリバリー
食堂の配達員待機所に到着する。
娼館から歩いて15分というところだ。
皆で先ほど土魔法で作ったテーブルを囲む。
椅子もテーブルも非常に高評価だった。
明日からの出前事業について、食堂側の人間とも打ち合わせをする。
食堂側は俺のよく知っているタクトという14歳の孤児院から働きに来ている子だった。
「配達員はここにいる10人だが、交代休憩を考えると同時に配達できるのは8か所だ。今希望者は何人いるんだ?」
「30人というところだな」
一人3~4軒配達が必要になる。
スープの容器を見せてもらうと丸太をくりぬいた、ただの筒だった。
木製の外観を生かしたまま、フチ限界まで容量を広げ、土魔法と火魔法で中をガラス繊維コーティングにしたら、保温性が上がった。
「これで一度に2軒分運ぶことが可能だろう。各家で器に移せばいいから空容器の回収も必要ないからな。マルク、タクト、皆で効率的な運搬ルート、注文の受け方などを明日の夜までにみんなと話し合っておいてくれ」
2人に任せて、俺は院長のところに向かった。
「娼館がつぶれた理由かい?」
リーリン師匠の別荘が襲われた事件の前に、街で勢力争いが起こっているようなことを聞いた記憶があったし、カレンちゃんの話も引っかかったので、聞いてみた。
「男と女と金を扱う以上、娼館というのはトラブルが多い仕事でね。どうしてもうまく回していくには後ろ盾が必要になるのさ。権力と戦闘力と両面でね」
何となく少し深い話になりそうな気がする。
「グランドブルグは帝国第3の都市で、首都とも近いから、いろんな人が流れ込んでくる。1年ほど前に流れ込んできたのは、隣国を追い出された盗賊団だった。でもそいつらちっともこのあたりで勢力を増やそうとしていなかった。まるで何かを探して回ってるという感じだったな」
ライコスやノラのことだと思う。
「とはいえ、盗賊団は暴力を持っている。何もしないと言っても存在すれば何かに影響を与える。この町の中堅の娼館が、店を守ってくれていた用心棒組織ともめて、外にいた盗賊団に乗り換えようとしたんだよ。当然そんなことは許されるわけがなく、店と用心棒組織はいくつかの同業を巻き込んで、対立して抗争にまで発展してしまった。その後、外にいた盗賊団組織は忽然と消えちまって、その結果、お前さんがひいきにしている黒鳥館に女たちが集まることになったということさ」
あの娼館は黒鳥館というのか、知らなかった。
今の話は将来娼館を経営することになったときのために覚えておこう。
最後に一つ聞いておく。
「明日から薬膳スープデリバリービジネスを始めますが、後ろ盾は必要ありませんか?」
「孤児院と黒鳥館が後ろ盾なんだ。これ以上求めても何も出てこないよ」
どうやら、孤児院と娼館は後ろ盾として十分のようだ。
翌日から始めたデリバリービジネスは順調だった。
デリバリー店の店名は黒鳥デリバリーになった。
娼館とのつながりを少しアピールして、余分なトラブルを減らすためだ。
2日目にはうわさを聞いた住人達から注文が殺到し、配達先が30軒だったのが、一気に60軒まで増えた。
急遽考えた対策は、少し離れた位置に屋台を置き、デリバリーの距離を短くするとともに、買いにこれる人は持ち帰りもできるようにしたことと、孤児院と娼館の8歳児までを動員したことだ。
1週間後には、注文は日当たり100軒に達したが、何とか回せるようになり、店も落ち着いてきた。
「はー、大変だったねー」
カレンちゃんは御指名No.1の売れっ子デリバリー嬢だ。
本当にスープをデリバリーして一言二言話すだけで、指名が入る。
末恐ろしいことだ。
セラフィとエノアも毎日数件の指名が入る。
血筋だろうか……
男子連中は、スピードと正確さを武器に黒鳥デリバリーの評判を上げてくれる。
みんな一生懸命だがとても楽しそうに働いていた。
食堂から少し離れたわき道に何人もの人が集まっているのに気が付いた。
近づいてみると黒鳥館の娼婦たちだった。
自分たちの子供が働いているというのがうれしくて、休憩をもらって見に来たようだ。
特にマルクとエノアの母親のマルガリータさんは大喜びで、俺の姿を見つけると涙を流しながら抱きしめて、顔中にキスの嵐をお見舞いしてくれた。2人子供を産んだにもかかわらず、まだ30歳前半で、見た目は20代前半にしか見えなかった。
俺も仕事が報われた気がした。
働いている姿を親御さんに見てもらうのは従業員福利厚生の一つと考え、毎日黒鳥館からスープを注文してもらい、交代で、黒鳥館にデリバリーすることにした。
喜ぶ親をみて、またやる気になってくれるといい。




