2.転生と鑑定の儀
意識が戻って目を開ける。
本当に異世界に転生したのかわからないが、前世の記憶はしっかり覚えている。
「○X○X、○△○△」
気が付くと若くて美しい女性に抱かれて話しかけられていた。
言葉は通じないようだ。
褐色の肌に、薄い金色の髪、緑の目、この人が母親だろう。
母親が抱き方を変えた時に部屋の様子をみると、それほど広くもないし、高級感あふれる家具はないが、清潔な感じで、よく整えられていた。
貴族でもなさそうだし、奴隷でもなさそうだ。
窓から庭の木々と色とりどりの花々が見え、その向こうには田園風景と山々が見えたので、田舎町の普通の家のようだ。
少しおなかが減ってきたと思ったら、自然と泣き声が出た。
それを聞いた美人ママが笑顔で胸を差し出してくれた。
悪くない……急いで吸いつくと、瞼が自然に閉じられて幸福感の中意識を手放した。
俺はパドラと名付けられた。
母親の名前はラスーン、18歳で、父親はアウノといい、年齢は母と同じくらいだろう。
ラスーンの父母、シドとライラと一緒に暮らしているので、アウノは婿養子みたいなものだが、何よりも祖父母が一緒に子育てやりたがったようだ。
娘が18歳と若ければ、祖父母もまだ38歳で、前世の俺より若かった。
両親、祖父母にかわいがられてすくすくと育った。
2歳になり、一人で家の中を所狭しと、動き回っていたころ、ラスーンが妊娠した。
その直後、アウノがあまり家に帰ってこなくなり、ラスーンが落ち込んだ顔を見せることが多くなった。
浮気でもして、別の女のところにでも入り浸っているのだろう。
ラスーンが落ち込んでいると祖父母も元気がないので、何とか雰囲気を盛り上げて、家の中に笑いを起こそうと頑張った。
1年後、妹が生まれた。スーラという名前で、母親と同じ薄い金色の髪と褐色の肌をしていた。
妹が生まれた次の日、最近はほとんど姿を見なかったアウノが家にやってきた。
一人の赤ん坊を抱いていた。
浮気相手が生んだ子のようだが、浮気相手は生んですぐ姿をくらましたのだろう。
白い肌で銀髪の女の子だったが、赤ん坊をラスーンに預けるとすぐにアウノは家を出ていった。
俺には、浮気相手との子を本妻に預けるなんて意味が分からん行為だが、ラスーンは受け入れたようだ。
この女の子はカーラと名付けられ、俺の妹となった。
俺は4歳になり、妹たちは1歳になって、歩いたり、言葉を発したりできるようになった。
スーラとカーラはお兄ちゃんが大好きでいつもべったりだ。
という俺も妹2人がかわいくて、時間があれば2人と遊んであげていた。
6歳になるまでは魔法も才能も開花しないから、訓練をやることもない。
スーラは人の気配に敏感で後ろから近づいて驚かそうとしても、必ず、先に俺を見つける。
俺が外出して帰って来る時も最初に気づくのはいつもスーラだそうだ。
一方のカーラはどこかをずっと見ることが多い子だ。
たまに俺のことを視線固定でじっと見ていることがあるが、その目に何が見えていることやら……
何かの能力か、それともただの癖か?
6歳までは魔力は開花しないと神様は言っていたが、他の能力はちがうのだろうか?
いずれにしろ、妹二人の成長は楽しみだ。
祖父は働いているので毎日家から出かけるが、祖母は毎日家にいて、俺と一緒に、妹2人の世話を見ていた。
妹たちが6か月ほどになったころ、今から半年前から、母は外で働き始めた。
魔法使いが着るようなローブを身にまとい、毎日どこかに行っているようだ。
母も魔法が使えるということは教えてくれたが、仕事でどこに行っているのかは、はっきりとは教えてくれなかった。
6歳になって、魔法の才能があったら、魔法を使えるように教えてほしいと母にお願いしたら、喜んで約束してくれた。
隣の家に同い年でサランという名の女の子が引っ越してきて、母親同士も仲が良かったから、自然と庭で一緒に遊ぶようになった。
サランは赤毛の小柄な子で、犬耳としっぽがついた獣人だった。
最初、出会ったときはその耳としっぽに興奮して、思うがままに、愛でてしまったので、嫌われて避けられるようになってしまった。
母親にサランと仲良くしたいと相談したところ、毎日花をプレゼントしなさいと言われたので、毎日続けたところ、1月ほどで仲直りできた。
俺たちは、5歳になると2人だけで外に遊びに行ってもいいという許可をもらったので、毎日、野原へ行ったり、林で木の実や果物を食べたり、川遊びをしたり、動き回って遊んだ。
あまり長く出かけると妹たちの機嫌が悪くなるので、出かけたときは、必ず妹たちにお土産を用意して、帰ってからサランと二人でたっぷりと遊んであげていた。
妹たちは3歳になったら俺たち2人と一緒なら外に遊びに行ってもいいという約束を母からもらったので、大人しく家で待っていることができた。
母親は仕事が忙しいようで、泊りで家に帰ってこないこともあったが、相変わらず、祖父母は元気で、俺たち3人の孫にいつも愛情を注いでくれたから、寂しいこともなく元気に育っていた。
6歳の誕生日を迎えた後、サランと一緒に近所の教会で鑑定の儀を受けた。
この儀式は、この国で生まれた子供全員が6歳になると受けるもので、教会にある水晶玉に手を載せると、大きな鏡のような台に能力が表示された。
<名前> パドラ
<年齢> 6歳
<生命> 30/30
<体力> 30/30
<魔力> 30/30
<腕力> 8
<敏捷> 10
<器用> 8
<耐久> 8
<思考> 10
<武技> -
<魔法> 土魔法1、生命魔法1
<特殊> 健康体1
おっ、神様が言った通り、魔法が2つあるぞ。
全体的にバランスもいいのだろう、鑑定してくれた牧師もほめてくれた。
<名前> サラン
<年齢> 6歳
<生命> 20/20
<体力> 20/20
<魔力> 30/30
<腕力> 5
<敏捷> 10
<器用> 10
<耐久> 5
<思考> 10
<武技> 体術1
<魔法> 風魔法1
<特殊> -
サランは風魔法の才能と、体術という武技の才能があった。
サランの能力と比べても、俺の能力が特にチートということもなさそうで安心した。
「サラン、すごいじゃない!さっそく魔法と武技の練習をしようよ」
サランは満面の笑み応じてくれた。
「うん。スーラとカーラも連れて林に行こう。彼女たちももう3歳だよ」