17.取引
声をかけてきたのは馬に乗った軽装の男だった。
最初に襲撃されたときはいなかったはずだ。
「ライコスとノラに力を貸すことを条件に、私の言うことを聞いてもらう約束をしています。ライコスはあなたやラッシュ領の騎士団への復讐、ノラは傭兵団を復活させたいようです」
男は自己紹介もせず、自分の事情を話し始めた。
話の脈略がつかめず、そのまま話を聞く。
「今日は突然襲撃を始めたので焦りましたが、まあ、復讐が目的でその対象が見つかったのなら仕方ないでしょう。ライコスは、あなたを拷問して、目的を達成したと言えるでしょう。最後は気を失って倒れてしましましたが……ただし、ノラは傭兵団復活をさせてあげないと私の言うことを聞きません。逆に、私が傭兵団を復活させてあげると言えば、言うことを聞いてくれるでしょう」
まどろっこしい男だ。話し方がめんどくさ……
「私が傭兵団を復活させてあげるから、その少年を助けてほしいと言えば、ノラは言うことを聞いてくれますが、傭兵団を作ることになったノラは、もう私が頼もうと思っていた仕事をやってくれないでしょう」
要は、パドラの命を助ける代わりに仕事をしろってことね。
普通に話せよ。本当に面倒なやつだな。
「仕事の中身と条件は?」
「今から別の国に行って、とある調査をやっていただきます。期間は4年で最大あと2年の延長あり。必要経費、生活費はこちらで面倒を見ます。家も燃えてしまったからちょうどいいでしょう」
確かに明日から住むところもないから4人で遠くに行くのもいいだろう。
「この男の子は人質として置いて行ってもらいます」
「おい!その条件はダメだ」
ナレンダが声を上げた。
「あなたたちの実の親子というわけでもないし、その子まだ成人前でしょ。人質と言ってもちゃんとした家に預けて教育もさせますよ。まあ、あなたたちの仕事が終わるまでは会うことは禁止しますし、所在を明かさないようにしますが」
そこでパドラがごふっと口から血を吐いた。
そろそろやばいわね。
「わかったわ。条件はもう少し交渉させてもらうけど、仕事をやることは受け入れるから、まずはその子を回復させて」
「いいでしょう。ノラ、その子から離れてください」
男の言葉にノラは意外にすんなりと離れた。
ヒールを複数回唱えてパドラの傷をふさぐ。
完全にはふさがっていないが、大丈夫そうだ。
守るようにしっかりと抱きかかえる。
大きくなったわね……もう10歳だから当然か。
ふと、この子を連れてきた時のことを思い出した。
あの時は一緒に連れてくることが最善だと思ったがけど、よく考えるとパドラの両親からパドラを奪ったことにもなるのよね。
私は何度も考えたが、結局、パドラの両親を探さなかった。
罪悪感はあったが、いろいろ自分に言い訳をして気づかないようにしてきた。
この子の成長と幸せか……
「わかったわ。この子を置いて、私たち3人で仕事に行くわ」
その言葉にナレンダがびっくりするが、私が何か考えていると思ったのだろう、私の言葉を待っているようだった。
「この子、パドラというのだけど、魔法の才能があるわ、ちゃんと教育できる環境にして。あと寂しがりやだから、家族は多い方がいいわね」
「善処しますよ。ただ、その子の傷が治って、あなたたちを探しに行くのも困りますので、あなたたちは死んだことにしておきましょう」
「数年後にちゃんと会わせてくれるなら、多少の嘘は我慢するわ。この後、サキちゃんにパドラと離れることを受け入れさせることの方が大変そうなのよね」
「そうしないと少年が助からなかったということで、ご納得いただくしかないでしょう」
そんなことであの娘が納得するわけがない。
後でなんか一計考えるか……
「ああ、あともう一つお願いがあるの。それがOKだったらさっさと旅たつわ」
私たちはまだ炎を上げる家と意識のないままのパドラを置いて、旅立った。




