14.敵
「パドラ~。明日近所の村に薬を持っていくから熱さましと咳止め作っといてね」
「はい。師匠、もう準備してありますよ」
最近、街道沿いにある小さな村に薬を届ける仕事を始めた。
お代は多少もらっているが、ほとんど顔つなぎと情報収集が目的だ。
2年ほど前、街で魔物素材を換金して、別荘に帰ってきた数日後、盗賊団に襲われた。
10数名の小規模組織で、それほど能力も高くない奴らだったので、撃退できたが、もし少し腕の立つ奴が多かったら、危ないこともあるかもしれない。
素材をまとめて換金すると大金になって目を付けられやすいので、毎月街に行って換金するようにした。
更に薬草の商いをしながら、近隣の村から怪しい奴らの情報を集めるようにした。
当然、俺たちの情報も周りに伝わるようになるが、盗賊などの情報を手に入れる方が安全が高いと判断したのだ。
10歳になって3カ月ほど過ぎたある日、いつものように薬草を配って村々を回っていると、近くに盗賊団が拠点を作ったという話が聞こえてきた。
俺たちが薬草を配って回っている村々は、この国の首都とグランドブルグを結ぶ大街道沿いにあり、その街道には、片道8時間で首都、グランドブルグ間を走る馬車が1時間に1本用意されていて、馬車の休憩場所には充実した設備もあり、人が常駐している。
当然警備もしっかりされており、盗賊が蔓延るスキなんてない。
「目的はよくわからないが、この村にも来て、周辺の村や住んでいる奴らのことを聞きまくってたよ」
とりあえず、用心するに越したことはないので、引き続き情報があれば教えてほしいと頼んでおく。
それから2カ月後、最近は近隣の村への薬草の行商やグランドブルグであれば、一人で行かせてもらえるようになっていた。
いつものように近隣の村で薬草を売って引上げようとしていた時に、盗賊団がまだ活発に近隣の情報を集めていると聞いて、少し気になった。
帰りが遅くなってしまうが、グランドブルグの冒険者ギルドに行けば、何か情報があるのではないかと思い、馬車の休憩場所でリーリン師匠に鳥を飛ばしてもらって連絡をしてから、馬車に乗り込んだ。
冒険者ギルドに盗賊団の情報はなかったが、受付のお姉さんから、街の飲み屋街で喧嘩が頻発しており、何か勢力争いのようなものが起こっているのではないかという話を教えてもらった。
お姉さんにはお礼に肌がつるつるになる効果がある薬草を渡しておいた。
娼館も何か巻き込まれているのではないかと心配になったが、今日は街に泊まるつもりがなかったので、とりあえず、馬車に乗って、別荘がある森に向かった。
最寄りの馬車亭から徒歩で2時間ほどかかるが、もう暗くなっていたので、慎重に進んでいた。
前方に5,6の人影が見えたので、様子を見るために脇の茂みに身を隠した。
「何としても今日中に盗賊団と話をつけるのだ、このままだとわれわれは、グランドブルグの街に居られなくなる」
「はい。支配人」
話を聞く限り、盗賊団ではないようだが、盗賊をさがしているようだ。
さて困った。身動きが取れない。
何かいい方法がないか探していると、街道の方から馬が向かって来るのが見えた。
彼らも馬に気づいたようで、皆でどう対応するか話し合っている。
結局、馬をやり過ごすことに決めたようだが、彼らの一人が
「あの馬、盗賊のアジトに向かうんじゃないか?」
というと、見つからないように距離を取りながら馬を追い始めた。
いや、その方向はまずい、俺たちの別荘に向かってしまう。
ということはあの馬は俺たちの別荘に用事があるのだろうか?
盗賊のようには見えず、軽装ではあったが、騎士や剣士のように見えた。
俺は急いで別荘に向かって走っていく。
もう少し近づいたら、森に入ってショートカットしようと考えていたところで、焦げ臭いにおいに気がついた。
周りを見渡すと、ちょうど別荘が立っている方角の空が真っ赤になっており、何かが燃えているのが確認できた。
俺は、一直線に別荘に向かって走り出した。
途中から森をショートカットして、盗賊を探している集団を追い越した。
馬車亭から別荘まで2時間の距離があり、まだ1時間分は残っていたが、とにかく急いで走ったため、約15分で別荘に到着できた。
「リーリン師匠、ナレンダ師匠、サキ!どこだ?」
別荘の建物には火がついていないが、裏の森から火が出ていた。
火を消すために裏にいるかもしれないと考えて裏に回った。
そこでは、左手を切られたナレンダ師匠が膝をつき、血を流したリーリン師匠が地面に倒れていた。
サキはその後ろで地面に座り込んでいた。
敵は、5人ほどの集団で、全員黒いローブを着ているので、顔はわからない。
手に持つ武器は、剣、槍、ナイフ、杖など様々で、師匠たちがかなわないほどの手練れだと思われる。
先ほど馬に乗ってきたやつも、そいつらから少し離れたところで、馬に乗ったまま立っていた。
黒ローブ集団は、まだ、俺の存在には気が付いていないように思えたので、表から家の中に入り、窓の下から様子をうかがった。
俺がここに来たのは何とか師匠たちに生命魔法を当てて回復できないか考えたためだ。
サキは十分届く距離にいた。
けがをしていないかもしれないが、こちらの存在を知らすために回復魔法を当ててみた。
一瞬ビクンと反応したサキだったが、それ以上反応をしなかった。
どうやら座った状態で気絶しているようだ。
次にナレンダ師匠が近いが、回復魔法を直接当てられるほどの距離ではない。
そこで師匠にならわかる方法で合図をした。
師匠の立っている足の地面の砂を土魔法で動かし、メッセージを送った。
「回復する、5m下がれ」 しかし、師匠から届いた返答は
「逃げろ」 だった。
しかも返答はメッセージではなく、大声で師匠の口から発せられた
そこでようやく俺は気づいた、師匠が大声を出す前から、5人のうちの一人が俺に向かって走っていた。
慌ててけん制のため、土魔法で落とし穴と土壁を連続で生成しようとするが、そいつのスピードは目に見えないほど早く、気がつくと、俺が身を潜めている窓のそばまで来ていた。
そしてゆっくりと窓からのぞき込んできた顔は、俺の記憶から一人の名前を呼び起こした。
…ノラ隊長…




