第二章 第十二話「空虚で片想いな力」
その日、彼女は全てに愛された。
世界中の全て――正しくはレイラ=フォード、ヨーコ=マサキ以外の者。中にはもしかしたら他にも彼女の能力の閾値を超えて影響を受けなかった人もいたかもしれない。
彼女たち以外のすべての人々がユキナを愛し、そしてユキナを愛さない者の敵となった。
世界の常識はユキナとなり、レイラ達の常識は非常識へと変わった。
世界の人々は争いをやめて手を取り合い、犯罪に手を染めるものもいなくなった。
世界はユキナという愛される存在によって世界平和を成したのだった。
偽りの平和かもしれないが、世界中の人々にとってそれは真実の平和だった。
しかし、その平和も長くは続かなかった。
ユキナの命が絶たれたことで、世界中の人々がユキナを愛するという呪いは解けてしまった。
そして、人々は再び争いを始め、世界は少しずつ元に戻り始めることとなる。
人々は短い間であったユキナがいた世界に想いを馳せることとなった。
彼女は壊したつもりの世界であったが、世界は死してなお彼女を愛し続けた。
しかし、彼女はその愛に応えることはない。
亡くなったからではない。元から応えるつもりがないからだ。
世界中の人が彼女を愛しても、彼女がその愛に応じることはない。彼女が愛しているのは彼一人だけだからだ。
とても空虚で片想いな力……。
それが『全てに愛される力』。
第二章 【彩愛】ユキナ=ブレメンテ 完




