両親の写真
それでもアルトは表情を強ばらせたまま変えようとしない。
フラットは斜め下に目をやった。
「……あのね、君が疑いたい気持ちはよく分かるよ。僕の事知らなかったんだし仕方ないよ。でも……本当に心配で来たんだ。本当に」
「……」
「僕は……僕は君が母さんのお腹に出来て、産まれるのが楽しみだったからね。その気持ちが大きいんだ……多分、今の君への気持ちは赤ちゃんの君への気持ちのままなんだと思う」
「……赤ちゃん……」
「ああ、あの時の赤ちゃんが!みたいな気持ちでここまで来たんだ。本当にそのまんまそう思ったんだよ」
自分の中で家族の時間というものが止まってるのだと思う。父と過ごす時間があっても、そのまま。
フラットは次なんと言えばいいか困っていた。気の利いた言葉はさっきから何も思いつかない。余計おかしいかもしれない。
「ごめんね。いい大人がこんな事しか言えなくてさ」
「……」
「……」
静寂が流れる。気まずい静寂だ。
フラットは手が汗ばむのを感じた。
だがそれを静かにアルトが破る。
「本当に、俺のお兄さんなんですよね」
「本当だよ。間違いなく」
「何かありますか。その、あなたを信じられるもの」
「……!」
「ごめんなさい。色々言ってもらっても……なんか実感わかないんで……本当にすみません」
フラットは、そうか。と思った。
(そういえば、そうだ。何も証明するものがないのに信じろと言われても困るよな……)
なんで思い至らなかったんだろう。冷静に考えて当然の事を……やっぱり自分は焦っているんだろう。
フラットはゴソゴソと首の後ろに手をやって銀のペンダントを外して机の上に置き、弟の方へ押しやる。
「なんですか?」
「父さんと母さんの写真だよ。結婚した時のらしい。他に母さんが写ってるものもが無いから、なんか変な感じもするけど」
開けてみて。と弟に促す。
アルトはおずおずと銀色のロケットを開ける。
「これ……は」
小さくて白黒だし解像度も悪くて分かりづらい。ただ、目をこらすと……
「これがお父さんと、母さん?」
「うん。若いけど……」
「……」
もう一度凝視する。そして理解する。
「母さんだ……目の下、ホクロみたいなの写ってる……」
それは母が気に入らなかった顔のホクロ。少々大きくて目立つのでコンプレックスだったらしい。
それがこんな時に役に立つとは彼女も思わなかっただろう。
「若い母さん……これが、俺の父さん……」
言い聞かせるように呟く。
「両親の結婚写真、持ってる……ペンダントにしてる……こんなの……本当に……この人、兄さんなんだ……?」




