ぶつける弟
「美味しかったよ。ご馳走様」
「いえ、お塩貰えて助かりました」
「昨日渡しちゃえばよかったのに忘れててゴメンな」
「そんなことは……」
フラットは話だとか場の空気の勢いで土産を出し切るのを忘れていた。瓶詰めだけはサッと出せたのだが……
軽装で来たので大した量ではないが、調味料の小瓶と保存食が少々。旅の食糧を兼ねてだそうだが。
「食べ物、僕が来たから余計にかかってるだろ。買い出しに行くならついてって出すよ」
「えぇっそんな申し訳……」
アルトが慌てて立ち上がりながら断ろうとするも、兄の顔を見てやめる。
ストンとまた座って俯く。そして小声で喋り始めた。
「フラットさん……そんな、俺の為に色々しても……お返し出来るものもありません。……その、お父さんの家?に行って……寄せてもらって、何が出来るか……」
「……何もしなくていいんだけどな」
「そんな訳には……!」
少し声を荒げ、また戻る。
「凄く有難いお話です。それに、今の俺には他に頼れる何かは無いです……その、断るのは正直……選択肢にないんだと思います」
「……」
「でも、こう、どうしたら良いか……その……俺は……何も、分からなくて」
「僕と父さんの事……かな」
アルトはコクリと頷く。不安が身体中から溢れている。
フラットはどう言えばいいのか迷った。
弟がどういう気持ちなのかは容易に想像できる。ただ、フラットにはそういった時にどうすれば良いかという知識は持ち合わせていない。
ビジネスでのやり取りはともかく、こんな深刻な問題に取り組んだ事がないからだ。
両親の離婚も、引越しも、結局は父任せでしかない。当時10歳の少年にやれる事は無かっただろうけれど。
「……なんでそこまで優しくしてくれようと、慰めるみたいにしてくれるんですか?引き取る為に来たならただ命令するとかでもやれたでしょう?」
怯えと疑いの眼差し。見知らぬ誰かが急に来て、知らない事をベラベラと喋って、妙に親切で。
裏があるのでは?と思ってしまうのは仕方の無い事。それはフラット自身も分かってはいる。
……それでも。
「それは……それは、上手く言えないんだけど……やっぱり兄弟だし……別にあの時離れたかった訳じゃないし……いつか家族4人揃ってって思ってたのもあるし……」
正直に気持ちを言う以外に何かできるとは思えなかった。




