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響く海 (旧題;見知らぬ兄と1ヶ月)  作者: 揚羽もちよ
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繊細な強さ

夕方、フラットが散歩に出ると行っていなくなった。

アルトはついていこうとしたが、父に止められる。


「行かせてやれ。母さんと2人で話したいんだと思う」

「あ……」


アルトは察して、辛そうな顔をした。

それを見てテセウスは息子の肩を優しく叩いた。


昨日の事だ。テセウスはフラットから相談を受けていた。


『父さん、僕がアルトを殺ろうとする賊を斬った時にアルトが僕を凄く怖がったんだ。アルトの気持ちは凄く分かるけど、やっぱり……』


フラットは少し泣きそうだ。

きっと自分はとても恐ろしい顔をしていた。鬼みたいな顔をしていたのかもしれない。


『人殺しをする目をしてた筈だもの。それにあの子が殺されるかもと思ったら凄くキレちゃって、ホントに……ホントに復讐鬼のようだったと思うんだ』


そして助けを求めるような、やり切れない声で訴える。


『僕は初めて人を殺したいと思って殺してしまった。悪人相手だけど、わざわざもうダメな奴に追い討ちみたいにトドメをさしたんだ。憎くて憎くてたまらなかった。アルトはそれを見ちゃったんだよ、父さん。アルト、これから僕の事を恐れたりしないかな。今だって本当は人殺しの僕を怖いと思ってるんじゃないかな』


声は少しだが震えていた。

テセウスはどうしようもなく苦しくなった。息子をこんな風に思わせる賊が恨めしい。


『大丈夫、あの子はちゃんと分かってる。初めての事で衝撃を受けての事だ。お前が怖かったんじゃない。何もかもが怖かったんだ。あの一部始終全てが恐ろしかっただけだ。今もあの子はお前を怖がったりなんてしてない。だってちゃんと今日もお前に懐いてずっと隣にいたじゃないか』

『それは……でも、あんな人を憎んだ僕だよ?初めてあんなに怒った。アルトが怖がってる事に気が付かなかったら、まだ何かやらかしてたかもしれない。あんな、人を八つ裂きにしたいだなんて、僕は恐ろしい人になってしまった。明日母さんに合わせる顔がない……』

『フラット……』


テセウスは息子の両肩を握って言い聞かせた。


『大事な弟が殺されようとして、怒り狂わない方がどうかしてる。その怒りがあったからアルトを助けられたとすら私は思う。私は君の怒りが間違いだとは思わない。私もきっと同じになった。母さんでも同じになったと確信してる。体を張って君を、赤ん坊のアルトを守ったのは母さんだから絶対だ。だから母さんはフラットを責めたりなんてしない。 良くやったと言ってくれる』

『……』

『ただ、罪悪感だとかに潰されそうになってる今のフラットは……本当に辛い。君はとても優しいから、身を守る為に今までどうしようもなく殺ってきた時は必ず塞ぎ込んでたから……君にはあまり外に出す仕事はさせたくないとすら思ったくらいだ』

『それで父さんが飛び回ってた訳でしょ?』

『それもある。もちろん私が飛び回るのが性に合うというのもあるがね』


フラットは性格として正当防衛であろうと人を切り付ける事に毎回深く傷付いてしまうタチだった。殺さなくても、斬っただけで苦しんで吐き通しになる事もザラだ。

それだけ戦う事には向いていないが、腕はそれに似合わず高かった。その時になれば非常に冷静に躊躇わず動く事が出来た。

ただその興奮が収まるとどうしようもなくなってしまう。

テセウスも普段の性格に似合わずフラットの父親に相応しい程腕が立つし、ただそういう教育を受けているからかあまり引きずらないでいられた。


『フラット、君の心はそのままでいい。引きずって欲しくないとも思うけど、引きずるくらいが良いとも思う。私達の仕事は人を殺す事じゃないし、こんな事に慣れるのはおかしいんだ。私は父に無感動に粛々と仕事を果たす為にやれる事はなんでもするものと教わったけど、賊が生命と荷を奪うなら殺される前に殺れと教わったけど……君にそう教えたいとは思わなかったから。私は叩き込まれた心得が必ずしも正しいとは思ってない。そうなってしまった自分が正しいとも思えない』

『父さん……』

『辛いのは当然だし、当然であるべきだ。ただ、君が落ち込み過ぎるのも怖い。矛盾してるとは思うが……でも、君は感情は正しいというのだけは理解して欲しいと思ってる』

『正しい……』

『君の優しさはいずれ私を継ぐ者としても相応しい。もちろん甘くてはいけないけど、君の仕事はあたたかい。お客さんも街の人も君を好いてるのはそういう所だ。しばらく悲しむのは止めない。でも病み過ぎて欲しくはない。少しずつ抜ければ良いと思ってる』

『……』


フラットは腕で目を擦った。


『母さんもそう言う?』

『言うよ。多分もっと気の利いた事を言うだろうけど、思う事は同じだと思う』

『……でも、なんか、申し訳ない。明日アルトを怖がらせた事とか、今まで何人も殺してしまった事とか、謝ってくる。母さんは僕にそんな人間になって欲しいとは思ってないはずだから。親不孝者なのは嫌だ』

『うん、行っておいで。母さんはちゃんと聞いてくれるし、ちゃんと許してくれるし、慰めてくれるさ』


成人したとはいえ、ナイーブな部分の多い息子だった。

子どもの頃に比べれば格段に強くなったが、極端に人を傷つける事に嫌悪感を示す性格だ。

身を守る為にどうしても必要で剣を習わせたが、アルトにも今そうさせているが、やらせたくない気持ちは多分にあるテセウスだった。

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