鎮魂
翌日、3人は朝から町外れの墓地に来ていた。
今日の昼頃に馭者は弔われる事になるが、その前にエリーゼの墓前に来ていた。
本当は昨日来たかったが荷物の都合で忙しかったのだ。
各々花を手向け、祈る。
「エリー、君はまだ怒っているかもしれないが……どうしても来たかった。せめて弔わせてくれ」
テセウスは膝をついて話しかける。
「アルトの事は任せろ。当たり前と言われるだろうが、安心だけして欲しい。父とはなんとか決別も叶った。君に話した計画ももうすぐ準備を完了させられる」
埋められた土を撫で、悔しそうに顔を歪める。その目は涙をたたえていた。
「すまない。間に合わなかった。あと一息……もうそろそろ2人とも迎えに来るつもりでいた。もう少し、もう少しだけ生きていてくれたら……いつも遅れをとってしまって、本当に申し訳ない……でも、子ども達だけでも連れていく。必ず守る。だから安心して欲しい」
後ろに控えている兄弟はそれを悲しそうに見ていた。そして父に続いた。
「母さん、フラットだよ。今度は父さんも連れてきたんだ。アルトはこの通り元気だよ。慣れない事ばっかりなのに凄く頑張ってる。心配しないで大丈夫だよ」
「そうだよ。なんとか頑張ってる。色んな知らない事があって、難しいけど楽しくやってるよ。海はとっても大きかった。そのうち父さん達と海の向こうに行けるんだって。母さんとも行きたかったけど……形見の人形作ったから、そっちに移って欲しいな」
そう言って作った人形を墓石の隣に置いた。言い伝えではここで移って欲しいの願うと、魂が分かれて一部が乗り移ってくれるらしい。いわゆる依り代だ。
「今日はお世話になった人のお葬式があるから一旦これで戻るけど、何日か滞在するからまた来るね」
アルトは微笑みながらそう告げた。
葬儀はアルト達と町の人達、出入りする行商達の有志が集まって執り行われた。
皆が皆喪服を持っている訳ではないので、そういった人達は綺麗で真っ白な帽子や頭巾を被っていた。曇りなき心だとかまっすぐな想いだとかを意味するらしい。喪服もその上に羽織るマントも聖職者の服も白と決まっている。
この町は比較的大きいので、お堂もしっかりしたものでアルトも事ある毎にここに来たものだ。
アルトは行商だとかの旅人の葬式に家族が出られるとは限らないと知っている。
この馭者もこちらで弔われて、それこそ形見の人形が作られて仲間の手によって訃報と共に送り届けられるだろう。
これはリレー方式ででも行商人たちが行うもので、よっぽど倫理観の無い賊でも無ければこの人形が届けられる事は優先されるという暗黙の了解がある。
それを破ると道中祟られるとも言うし、そもそも方々に人でなし扱いで干されるので神を信じてなくてもコレだけは守るものだそうだ。
アルトは自ら届けたいとも思ったが、組合の仲間がやる事と決まっているので介入するのは諦めた。
後日テセウスが遺族に見舞金を送るそうだ。
参列した成人男性達が棺を運び、そういった人達の為の墓地に彼は埋められる事となった。
エリーゼのいるような町の人用のものではない。
「どうか安らかにお眠り下さい。あなたのおかげで父と兄と一緒に母の墓前に行く事が出来ました。本当にお世話になりました」
そう言ってアルトは頭を下げた。
悔しい気持ちが疼くが、昨日言われた通りに前を向かなくてはいけない。
それでも墓地に吹く風はうすら寒かった。




