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響く海 (旧題;見知らぬ兄と1ヶ月)  作者: 揚羽もちよ
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生き残る為の剣

アルトの記憶はそこからぼんやりしていて、気がつくと元の馬車の荷台に戻って寝かされていた。

更に知らないが落ち着いた声がいくつか聞こえ、それは別の旅人の声だと分かった。


『そうか……いやでもあなた達だけでも助かったのは良かった。子どもさんも』

『何とかまあ……でも手酷くやられてしまいました』

『いやいや。よくまあ6人も相手にして、5人屠ったものだ』

『まあコイツも引渡したらどうなるか分からんがね』

『はは……油断だけはしてくれてたみたいで。弱いのだけを置いていったのが幸いです。多分他の連中なら私なんぞ……』

『父さん、そのくらいにして。アルトが起きる』

『ああごめん……』


アルトはもう一度気を失うように眠りについた。


次に目が覚めた時はなんと夜明けだった。馬車の動き出した衝撃で飛び起きたのだ。

隣に座っていたフラットが気がついて、顔をのぞかせる。


「アルト、起きた?」

「兄さん……」

「起きたか。どうだ、大丈夫そうか?」


アルトは定位置ではない方向から父の声がしてキョロキョロと見渡す。


「父さんは手網を持ってるからそこに居ないよ。その……いや、アルト。大丈夫?」

「大丈夫……多分……」

「起き上がれそう?」


アルトは頷いて、フラットに支えられる形で体を起こした。

とにかくと水を飲まされた。アルトの喉はカラカラに乾いていて一気に飲もうとしたが、フラットに制されてゆっくり飲むことにする。


「多分むせるから……」

「うん」


アルトは困ったように、モジモジとする。フラットは笑った。


「ん、大丈夫だよ。悪いことしたのはこっちだし。怖かったでしょ」

「……ごめんなさい」

「謝らないで。あんなの初めてだろ。そりゃ怖いさ」

「そうだぞ。アルトの居た町にあんな連中は入り込めんからな。怖かったはずだ」

「……」


アルトはそれでも申し訳なさそうにする。


「その……でも……俺は兄さんに助けて貰った……のに……いやその……でも、ありがとう、ございました」


考えがまとまらないまま、なんとか礼を述べる。フラットはニコッと笑ってみせた。


「ホント良かった。ホント……間に合わなかったらどうしようかと思って……正直無理だとも思ったんだけど……」


男が時間をかけて刀を振り上げアルトを殺そうとしたのがとにかく良かった。

死にものぐるいで走り、柄で頭を思いっきり殴ったのだ。血塗られた刃よりその方が早かった。

だがそれを説明するつもりは無かった。

昏倒したと思ったが男はまだもがいており、頭に血が上っていたフラットはその剣でとどめを刺したのだ。

一連の流れをアルトは目撃していたのだとフラットは思っていた。

実際には最後の一撃だけだったのだが……あまり変わらなかったかもしれない。


「その、変な目で見た……気がします」


アルトは酷く落ち込んだ声で言う。

フラットは目を陰らせたが、すぐに笑顔に戻した。


「ううん、怖い顔してた自覚はあるし。気にしないで」

「……」

「ホントに。良いんだよ。アルトには刺激が強過ぎた」

「……」


暗い空気が流れた。


かなり明るくなってきた頃、だいぶ頭が戻ってきたアルトがなんとか声に出す。


「兄さん……みんな、あんな怖いのと戦うの?」


フラットは少し困ったように頷いた。


「うん。たまにだけど、仕方なくね」

「何度も戦って、それで強いの?」

「うん。それも仕方なくね。死にたくないし、普段は荷物奪われたくないってのもあるし」

「大変だね……」


なんと感想を述べたらいいのか分からず、曖昧な事を言った。


「本当に命が惜しいからな。出来るだけ戦わないように交渉するんだが……たまにああいうのがいる。こればっかりはどうしようもない」

「うん……死ぬの、怖い」


昨日の事を思うとブルブル震えたくなる。


「震えても良いんだよ。怖いのは当たり前だから」

「でも……兄さんも父さんも平気そう」


自分は色々と弱いと思った。

だが兄は首を振る。


「勘違いしないで。僕も初めて襲われた時は怖くて仕方なかった。何も出来なかったし、守ってくれた人は死んじゃったし……たまに夢に出るくらい」

「そんな……」

「初めて……殺ってしまった時も……どれくらいか忘れたけどずっと怖くて苦しくて家に引きこもったよ。あの時は父さんに随分迷惑かけちゃった。すみません、ホント」


フラットは父の背中に声をかける。


「良い。みんなそんなものだ。私も似たようなものだった。みんな私を守ろうとするから……周りが死んでも生き残りやすいんだ。立場的にね」

「……」

「でもやっぱり君が……フラットが辛い思いをしてしまった時は……辛かったな。もちろん初めての時でなくても……兵隊じゃないわけだし、危ない場所なら特に傭兵に任せるし……我々が誰かを手にかけるのは最後の手段だから」

「そんなつもりで生きてないからね。あくまで身を守る為だけの剣だから」

「……そっか」

「そうだよ。だからアルトが戦う日が来ない事を祈るよ。誰かを手にかけたら、悪人でも苦しいし。全くそんな事ない、安全な旅だけで済んで欲しい。ラッキーが続いて欲しい。せめて守られるだけであって欲しい」


テセウスはため息をついた。


「商人なのに剣が上手くないといけないなんてな。兵隊みたいに稽古して……腕なんか上げなくて済むなら済ませたいよ」

「父さんは稽古嫌いだしね」

「そりゃ嫌々だよ。毎日剣を振り回してないといけないなんて商人らしくない。旅は好きだから歩くのは良いけど……剣だことかホント不細工だし嫌いだ」

「僕は集中力が鍛えられていいと思ってるけど……」

「残念ながら私はフラット程真面目な考えにはなれないんだ」


サボれるものならサボりたい。子どもの頃からずっと武術や鍛錬なんて大嫌いだったのだ。

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