襲撃
2日目の昼過ぎ、昼食の休憩を終え走り出した頃。
遠くから土煙が見えた。街道から外れた方角だった。
どこかの村からの馬だろうかと考えたが、どうも土煙が大きい。
大人3人が急にピリつき始めた。アルトは先程までの和やかな雰囲気が一瞬にして冷えきった事に困惑する。
「えと……」
「アルト、リュック背負って、短剣を構えて走れるようにするんだ」
フラットが落ち着いた、しかし鋭さのある声で指示をした。
テセウスと馭者は何かの会話を交わし、テセウス自身もボウガンをセットする。
フラットは革手袋をはめてマントの中をゴソゴソと確認する。
「出る時は出るな……」
テセウスがいくつかの方向からラッパが響くのを聞きつつ呟く。
アルトが戸惑っていると、フラットは片膝をついて言い聞かせた。
「盗賊がきた。逃げるからかなり揺れるよ。もう少しで隠れられる程度の岩場に着く。着いたらすぐに僕に続いて隠れる事。絶対に言う事を聞くんだよ。問い返してる暇はないから、ただ言う通り動くんだ。いいね?」
「は、はい」
「アルトは出来るだけ戦わない事。僕が近寄らせないから背中の方に居て。かかってきたらとにかく逃げて隠れろ。体力を浪費するな。離れすぎると守れないから走って5秒かからない場所に、出来る限り。いいね?」
「わかりました」
「坊ちゃん方、良いかい?飛ばすぞ!」
食い気味に馭者が声を上げ、緊急用の信号弾を空に向けて発射する。
グンと力がかかり、馬が鳴いて、馬車は駆け出した。
土煙は気がつくと大きく、そして囲むように3つになっていた。
「……っ」
アルトが青ざめて唾を飲み込んでいる間、大人3人は早口で打ち合わせていく。
土煙から騒がしい音、馬の駆ける音が近づいてくる。馬車はスピードを上げていった。
数分後岩と草むらの混じる辺りに入った。フラットに連れられて転がるように外に出て少し離れた大きな岩の影に隠れる。
テセウスはボウガンを構えているようだった。
もう盗賊たちは目の前で、3方向から広がって囲まれていく。
フラットは息を殺すように指示をした。
遂に囲まれきった馬車はどうやら盗賊の親玉と交渉しているようだ。
持って行かせていい物を差し出して見逃して貰おうということだ。わざわざ生命を差し出す事は無い。
遠くから言い合う声が聞こえてきた。
『我々の生命と馬車と馬一頭、最低限の水と食糧と寝袋は勘弁してくれ。他の荷物と金はくれてやる』
『おうおう気前が良いなあ。その指輪とかもくれるんだよなあ』
『さっきの条件と妻の肩身だけ残してくれるなら。それくらいの情はあるだろう?』
『さあて、どうしようかねえ。なあ?』
『……』
『……』
盗賊達は差し出した分で満足するかどうか話し合っているようだ。
フラットはその間に盗賊の人数と装備、練度などを確認していた。
「……馬18……荷馬車のもあわせてヒトが23……装備は有りきたりだな……アレが大将で、赤いバンダナのがサブリーダー達か……」
ブツブツと呟いている。
「雲行き……うーん……ああ、帰りそうだな」
少し声が明るくなるが、それでも非常に警戒しているのがわかる。
そのうち、いくつもの木箱を荷台に積んだ盗賊の幌のない馬車全てが方向転換し、周りの馬と共に去っていく。
しかし1人のサブリーダーと5人の子分が未だに張り付いていた。
何か揉めている。フラットは舌打ちした。
そのうち3人の子分が自分達の馬車を離れ、ウロウロしだす。そして自分達の踏んだ草たちを見つけたようだ。指を指す。
フラットは遂に剣と短剣を抜いて、だがアルトにまだ動かないように手で制す。
数秒後、あちらで叫び合う声がした。
同時に3人の子分が馬を降りて駆け足で近寄ってくる。
フラットは鷹のように鋭い目をして、深く呼吸し、引き寄せて、飛び出した。
「ガッ……!」
フラットの刃は真っ直ぐ、矢のように狙いの子分の首を目掛けてさし迫り、血飛沫と共に薙いだ。
その時既に別の子分に狙いを定め、左手の短剣で遅れて打ち込まれる幅の広い刀を受け止め、そのまま流す。
「こいつ!」
「……」
フラットは無言で、ツーテンポ後には右からきた子分の足を払おうとする。
だが交わされ、刀は振りかざされる。
「あっ……!」
思わずアルトは声を出してしまった。
短剣で流された子分がギョロっとアルトの居場所に目を向ける。
フラットはそこでやっと声をあげた。
「行け!」
「っ!」
アルトは先程言われた次の岩陰目指して、腰を低めに走り出す。
フラットは右の相手に柄で殴り、交わされ、だが低く入り込むようにタックルを入れる。
その間にもう1人がアルトを追いかけてくる。
「どこだあ!女かあ!?」
「……っっ」
アルトは歯を食いしばり、涙目になりながら無理やり身体を動かし、次の岩場に移り、息を入れて、頭で3秒数えて次の地点を目指す。
「ぎゃっ!」
誰かの短い断末魔が聞こえる。アルトは兄がやられたのではないかと横目に見ようと思いはしたが、言われた通りに走っていく。




