再建
3章
3人はまじまじとそれを見た。
「ほう……これはこれは……」
「失礼かもしれませんが可愛いですね……」
「こんなになるんだ……」
エリーゼの形見人形。
青い花瓶はうまくカットされ、ガラスのスカートとティアラの宝石部にになった。それを光沢のあるハンカチが覆う形でのドレスになっている。
頭部は特徴を残しつつ可愛くデフォルメされている。
父子3人はしげしげとそれを眺め回し、ため息をつく。
「凄いね……こんな綺麗なお人形初めて見た」
アルトはそこまで人形に興味を持った事は無いものの、実際目を奪われる愛くるしさに目が輝いている。
父と兄もウンウンと頷いた。
「良い工房を見つけたもんだな、フラット」
「社員達にも聞いて評判の良いところを探したんだけど……予想以上だね。人形師さんになんとお礼を言ったら良いか」
テセウスはウンウンとうなる。
「これは報酬が足りないな。価値に見合った額を払わんと私の気が済まん」
「確かに……」
「母さんもそう言いそう」
「よし、後で小切手に正当な額を書こう」
3人はウンウンとまた頷いた。
「これは宝物だね」
「ああ、宝物だ」
「この家で一番価値があるかもしれないね」
この3人にとっては。だが。
ひとしきりため息をついたりした後、やっと3人は気を取り戻す。
「よし。人形は無事納品されたし、次はいよいよ墓参りだ」
「旅の手配は済ませてあります」
「俺も町の人への手紙とか手伝ったよ」
「ありがとう二人とも」
アルトはこの家で初めて任された大きな仕事だったのでやや得意げだ。
郵便制度がしっかり整っている訳では無い為、数日かかるような町との手紙のやり取りはそれなりの仕事ではあった。
文章もしっかり綺麗に、文法も正しくないといけない。家族や親しい友人でも無い相手への手紙が書けるというのは一定以上の学が必要だった。
「〜日に出発か」
「はい。父さんも手荷物整えておいてください」
「ああ。旅支度ならいつでも出来てるから問題ない」
「それもそうでした」
旅慣れしている人に言う事では無かったと笑い、父も弟も釣られて笑う。
3人はなかなか上手く言っていた。
もちろんただ甘ったるい優しいだけの日常だった訳でもない。
『アルト、ごはんは』
『……いらない、ほっといて』
『……わかった』
ホームシックだとか、母の事や半年間の孤独を思い出して引きこもってしまう日もあった。
信じきれず敵意のようなものを向けてしまう事もあった。
『こんな上手いこといくはずない、甘いこと言って、騙して、やっぱり体良く奴隷に……ったァ!何すんだよ!』
その時、テセウスはアルトに初めて強く叱責した。
『そんな訳あるか!奴隷だなんて!おぞましい!』
この国で奴隷制度は数十年前に終わりを告げている。名残りはまだまだ有るが、テセウスは奴隷制度を強く否定する思想を持っていた為に頭にきたようだ。
『ましてや我が子に!有り得ない!』
『……っ』
平手打ちされた頬をおさえて、驚きと困惑と不安と反骨……たくさんの感情が入混ざった表情で涙目になっているアルトを見て、ハッとしたテセウスはハグをしてしきりに謝ったという。
『悪かった……悪かった……そう思わせるだけの事をしてしまったのは私なのにな……すまなかった……でも本当にそんな事は有り得ないんだ……』
『……そん、なの、わからない』
『ああ……今ここですぐ証明する術は無い……でも本当なんだ……私は今度こそお前をこの手で守るとエリーゼにも誓ったんだ』
『口だけなら……』
アルトはそこまで言って、項垂れた。
『……ごめんなさい』
『いいんだ。アルトの考え方がおかしいとは思わない』
『……』
アルトは嗚咽を漏らして泣いた。
『わからない……何、信じたらいいか、わかんない……わかんなくなった』
『……』
テセウスは泣く次男の背中をさすり続けた。何を言っても軽くなるだけと判断した。
こういった事が何度も繰り返されたし、おそらくまだ繰り返すだろう。アルトは年齢的にも不安定だ。
『……昨日はごめんなさい』
翌日、腫れぼったい目をしたアルトが頭を上げるとテセウスも目と鼻が少し赤くなっていた。
アルトが驚いていると、テセウスはクシャッと笑い
『どうしたらいいか一人で反省会してたら、なんだか自分が情けなくなって……これじゃあ頼りないよなあ。ごめんなあ』
『……』
『すぐに信じてもらう方法、どうしても浮かばないんだ。地道に見ていて貰うくらいしか……楽にしてやりたいのに、頭働かなくて悪いなあ……』
『……父さん……』
もう一度2人で泣いた。
テセウスは遅刻するのも構いなく、アルトが落ち着くまでそばにいた。
フラットもそれを横目に父の遅刻の穴埋めのために早く出勤して助けたりした。
もちろん、その逆もあった。
アルトは少しすると甘えが出てきて生意気な言動が過ぎる時もあり、それを許しておく訳にもいかない。
叱ると反抗的になるが、気持ちが落ち着くと謝ってきて仲直りする。言い過ぎたとお互い謝り合う。
そういう繰り返しだった。
アルトは自分がどれだけ周りを困惑させて迷惑になっているかという事も悩んだが、問題時以外は優しくしてくれるのを徹底しているかのような2人を見て安堵しつつ、申し訳ない気持ちにもなった。
傷つけたり、傷ついたり、ぶつかったり、へこんだり、いやされたり……
短いスパンでこれらが何度も何度も繰り返され、それは今までの分を取り返すかのようだった。
怒る事も、怒られる事も、泣く事も、泣かれる事も、3人にとって必要としていたのかもしれない。
3人は他人行儀でない家族になろうともがいていたし、今もまだぶつかりながら模索している。
ストレスも強いが、それもまた欲しいもので難しい。
『でも、兄弟喧嘩ってしてみたかったんだよな』
『えーーーこんな歳離れてる弟と喧嘩するつもりだったの?』
『あっはっは!私も息子にクソジジイと言われてみたい気持ちがちょっとあったから助かった』
『ええ……』
『父さん……マゾだったの……?』
『誤解だ!』
仲が直ればこんな感じで軽口を言い合う。この結末が分かっているから喧嘩できるとも言える。
3人はぶつかる事すら幸せだった。




