ほまれ
「ただいま戻りました」
フラットは社長室に報告に立ち寄る。
そこには父と弟が何やら紙束を熱心に覗き込んでいる姿があった。
「……?」
よく分からず2歩ほど踏み入れる。
するとやっとフラットの存在に気がついた2人がギョッとこっちを見る。フラットは驚いて立ち止まる。そして父はやや紅潮して、弟はモジモジしている。
「な、なんですか……何かあったんですか」
テセウスはとても誇らしげに、嬉しそうに声をあげる。
「フラット、この子は本当に賢いぞ!」
「ええと……だからそんなことは……」
弟は恥ずかしいのかオロオロしている。
フラットは上手く飲み込めず、頭に疑問符ばかりが浮かんだが、なんとか状況を聞き出した。
「へええ……入社試験問題を……」
「中々難易度の高い問題もクリア出来ているんだよ、なあ」
「学校で習ってないのは出来なかったし……」
「いやあそれでもあちらでも優秀だったというのがよく分かるよコレは」
テセウスはワシワシと次男の頭を撫でる。アルトは完全に照れてしまってされるがまま撫でられている。
「確かに……中等教育学校で習う範囲……だと思われる問題はほぼ全て解けてる気がする……」
「商人の子が多い町だから算学の授業はきっちりしてたそうだ」
「なるほど……国でザックリとは指針があっても地域でズレがあるから……でも僕の記憶の中とそこまで相違がない気がする、かな」
ペラペラと問題を見つつ、10年前の自分の勉強範囲を思い出す。
「地元の学校で良く頑張れたものだよ」
「確かに。そこらの上級中学の生徒より成績良いだろうね」
中流層以上が通う上級中学校、つまり高等教育を受ける前提の進学校は教師陣も当然上級の者が揃うし、良い環境良い教材と恵まれているのだが……
半ば寺子屋にも近い庶民の中学でこの成績をおさめるには中々の頭脳と自力での教材の読み込み等が必要であっただろうとテセウス達は考えた。
「勉強は一応なんとかなってたけど、俺……運動音痴だし……歌も下手くそだし……皆とワイワイ話すの苦手だし……」
テセウスとフラットは顔を見合わせる。
内向的、とは思っていたがどうやら本人もその辺が少々コンプレックスのようだ。
「前、友達に勉強出来ても商売人には向いてないねって言われたことあるから……その……父さん達の役に立てるかどうかは分からない……」
それはアルトがずっと気にしていた事だった。
引き取ってくれた二人、再会できた父と兄はとても良くしてくれる。だから自分も家業をちゃんと手伝わないといけないと思った。
でも昔不向きと言われた事だとか、実際故郷で商人達を見ていて、あの取引だとか愛想だとかは自分には無理だと思っていたのだ。
「俺、ちゃんと父さんの会社で働けるか分からない」
少し人見知りで、臆病な部分もあって。
しかし父と兄は笑った。
「いいんだよ、充分だよ」
「ウチでも口下手な社員くらいいるぞ。誰でもペラペラ売り買いのやり取り出来なくたって良いんだよ」
「得手不得手あるからさ。僕も物凄く計算が得意とかでも無いし」
それなりには出来るが、普段は割と部下に任せている。
「なんでも物凄くできるのは父さんくらいだよ。……生活面以外は」
「ははは、欠点は誰にでもあるものだからね」
「父さんは料理教えても全く出来ないけど、アルトは多分勉強したら色々とやれることが増えていくだろうからね。大丈夫だよ。まだ子どもなんだし」
フラットに肩をぽんぽんと叩かれる。
「まだ引っ越してきたばかりだ。慣れてくれば色々分かるようになるさ」
「ちゃんと教えるから安心しなさい」
二人の笑顔にアルトは顔を赤らめつつ頷いた。




