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響く海 (旧題;見知らぬ兄と1ヶ月)  作者: 揚羽もちよ
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母から子へ伝わるもの

「さて、と」


テセウスは立ち上がる。


「アルト、色々手続きしていてなんだが……転校の為に入学試験が要るらしくて」

「試験、ですか」

「そう。この地域は学力で行ける学校が変わるようだ」


アルトは不安を滲ませる。


「学力……」


テセウスは顎に手を当てる。


「そうだな……私も君がどれ程かを知らんし、少しみてみようか」

「えっ」

「大丈夫、フラットから聞くに識字能力はしっかりあると聞いてるし、向こうでも中々良かったと聞くし」


そう言いながらゴソゴソと棚の書類を漁る。


「ウチは色んな出自の者が入社してくるんでね。振り分けの為にも試験をしているんだ……そう、これこれ」


取り出したのは紐でとめられた冊子で、題字からして数年前の入社試験問題のようだ。

差し出されてアルトは恐る恐る覗き込む。


「後ろに行く程難易度の高い試験のものが出てくるはずだ。最初の方は小卒でもいけるレベルだと思うから、私が仕事してる間暇つぶしにやってみなさい」

「……」


解答用紙は無いからと白紙を数枚渡される。アルトはまさか伯父との面会の為に呼び出されて、その後に試験をさせられるとは思っておらず白黒する。


(そんな……聞いてない……)


無茶振りと思いつつ、あっという間に仕事に戻ってしまう父親の背を見て仕方なく入社試験の過去問に目を落とす。

何日か父と接してきて、なんだかんだと年齢の割に軽い人だというのが分かってきた。フットワークも軽いがノリも軽い。

そして兄の言葉通り、仕事中はテキパキしているし貫禄も頼もしさも感じて部下たちも頼ってるというのが見えるが、家に帰るとなんとなく抜けている部分が目立つ。

とはいえ綺麗好きではあって、自室の掃除とコレクションらしい方々の珍しい品を磨いたりするのが趣味のようだ。

大きな地図や海図を広げてアルトに広い世界の話をしてくれたりもした。

アルトとしてはこの話は中々楽しいもので、いつか船に乗ってみたいとも思ったし、興味を示された事に喜んだテセウスともそれなりに打ち解けた。


(兄さんもだけど、話しやすさがあるのは証人だからかな)


アルトはそう思いながら問題に目を通すだけ通してみる。

確かに最初の数ページはかなり簡単な国語と計算と常識を問うもののようだ。


(全然出来なかったらどうしようかと思ったけど、この辺ならさすがにやれるな)


アルトは貸されたインク壺を開けて、取り掛かっていった。


その様子を仕事机の方からチラリと見たテセウスは解けているようだと安堵の顔を浮かべた。

元妻に似て少々堅物で真面目過ぎる面と、それに伴って責任感も強く歳の割にしっかりしている次男。

下流の暮らしをしていたとは思えない程度の教養やマナーなどの心得は母親によるものだろう。

全く違う暮らしに四苦八苦はしているものの、なんとかついていける程度ではある。言葉遣いに関してはなんら問題はない。手掴みでなんでも食べてしまうようなことも無い。

とはいえいくつもあるフォークやナイフなどには手間取るし、どう食べたら良いのかなども分からずそれに焦りや劣等感も感じるようだ。

テセウスもフラットも充分やれてると言うし、実際思っていた以上なのだが、急に別世界に来て何らコンプレックスや不安を感じないというのも変だろう。

テセウス達は上手く優しく指導してやれる教育係を早くつけてやらないと、と思っていた。


(この子は昔のフラットのように内向的な面もあるし……出だしで躓くとつらいだろうからな)


上手くフォローしてやらないと、何もかも自分がそうさせてしまったのだから。


(エリー、君が土台をきちんと作ってくれていた事に感謝するよ。君の事だから見越していた部分もあるのかもしれないが……)


頭の中に元妻の顔が浮かぶ。頼もしく凛とした、でも優しい目をして笑っている。

強い人だった。テセウスはエリーゼを尊敬していた。自分には無い芯の強さを持っていた。

所々、次男にその影を見ることがある。彼女に育てられれば確かにと思う。

フラットも上手く育ってくれたが、彼もまた幼少期は特に留守がちな自分に変わってエリーゼがしっかりと教育してくれたのだ。


(離れていても、別れても、僕は君に頼ってばかりのようだ)

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