表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
響く海 (旧題;見知らぬ兄と1ヶ月)  作者: 揚羽もちよ
32/49

家族写真

夕飯の後、2人は父に呼ばれてテセウスの寝室に行った。

寝室のテーブルには古びたハードカバーの冊子が置いてある。


「それは……アルバムですか」


フラットが聞くとテセウスは頷いた。


「そうだよ。唯一の家族写真の入ってるやつだ」

「家族写真?」


アルトは目を丸くする。


「前言ったやつだよ。アルト。父さんが持ってる筈だって言ってた記念写真」


フラットが促すとアルトもそう言えばと思い出す。そして興味津々で覗き込んだ。


「そうか。そう言えば場所を教えてなかったな……うん、これが……私達が揃って写っている唯一のものだ」


自分が焼き増しした1枚を持ってるけど。と付け足しながらアルバムを開く。

アルトはまじまじとそれを見た。

若い母、若い父、自分のようで違う子ども、小さな赤ん坊。


「母さん……父さん……兄さん?と俺?」


指さしながら言うと父はそうだと答える。


「急ぎで1枚だけ撮ったんだ。なんせ1ヶ月しか一緒に居なかったからね……」

「焼き増ししたのが2枚あったそうだけど、1枚が父さん……あと1枚は母さんが持ってたと思ってたんだけど……片付け中見つからなかったんだよね」

「そうなのか?」

「はい……アルトを連れてくるのに家を片付けてその時に……」


テセウスはそれを聞いて残念そうな顔をする。


「そうか……私はともかく息子たちが写ってるんだし大事に持ってると思ってたんだがな」


気に入らなかったのだろうか?と口にする。

それを見てアルトも何故だろう?と考えた。父の言う通り、さすがに捨てるような理由も無いだろうに。


『ダメよ。これは墓場まで持って行くって決めてるんだから』


ーーー!

唐突に母の言葉がひらめいた。


『開けちゃダメなの?』

『ダメ。これはおまじないだから、私が開けると決めるまでは誰も開けないの』

『なんのおまじないなの?』

『言わない。おまじないなんだから、言っちゃ効果が無くなっちゃうでしょ』

『それもそっか』


おまじないだと言っていたし、何かのお札だと思った。

でも写真の存在を知って、事情も知って……母の言葉に従って開けずに棺に入れた『お札の入った封筒』が、その家族写真なのではないか?

と今になって思えてきた。


「アルト?」


フラットが心配そうに顔を覗いてくる。アルトはハッとした。


「母さんが持ってたかもしれない写真、今土の中かも……!」

「土の中?……あっ」

「ああ……もしかして何か入れたのかな」


アルトは頷く。


「墓場まで持っていく〜みたいな事言ってたお札みたいなのがあって、開けちゃいけなくて……そのまま棺に入れて……今は土の下に……」

「お札……まあ、そうなのかもしれないな。形状からしても」

「お墓の中じゃ確かめられないけど、そういう事ならまあ行方が分かったようなものだから良いか」


2人は虚空を見上げながらそう呟く。


「あの、ごめんなさい。確かめておけば良かったかも……」

「いや、開けちゃダメって言われてるもの故人だからって開けていいものではないからね?」

「うん。エリーゼの意向ならそれに従わないと」

「それも、そうか……」


そこで父と兄が寂しそうな顔をしているのを確認する。


「お墓かあ……」

「手を合わせておきたいところだね」

「……!」


アルトは2人を見比べる。


「お墓参り、行くの?」


そう言うとテセウスはそうだね。と頷いた。


「生きている間に話しかけたかったけど……この際仕方がない。せめてこれからの事を墓前で伝えておかないといけない」

「僕は滞在中にアルトにお墓参りさせて貰ったけど……行けるならまた行きたいな」

「うん、そうだな……まあ今すぐやる事もあるから……近いうちに三人で母さんの墓参りに行こう。いいかな?」


同意を求められて、少し驚くもアルトは頷く。


「はい!母さん……どう思うのかは分からないけど、一人寂しくしてるのもなんで……」


テセウスは少し思案顔になる。


「エリーゼも連れてこれたら良いんだが、一度埋めた人は流石にな……」

「お祈り用の何かを作るとかします?」


フラットの提案にテセウスは興味を示す。


「お祈り用……形見とかで人形を作るとかかい?」

「形見の人形……」


この国の行商だとか定住しない者たちが死者を祀る方法だ。定期的に墓参りが出来ない為の策で、故人の形見を使って故人に似せた人形や肖像のようなものを作る。


「形見……持ってきたものには……ハンカチくらいしか布のものはなかったし……あとは花瓶……」

「花瓶?」


テセウスが反応する。


「はい。僕も見覚えのある……青緑色のガラス瓶です」

「ああ、あれか。そうか……」

「父さん?」


フラットに問われてテセウスは少し照れくさそうにする。


「うん、その、私が贈ったものだ。それは」

「えっそうなの?」

「知らなかった」


息子たちが同時に反応を示す。


「あれはフラットができた時に仕事先で買ってきて……どうしても出張で空けるからな。一人で不安だと言うから、私だと思ってくれと……ベッドサイドに置けるようなサイズで……」


モゴモゴモゴ。


「いや、でも赤いのもあるはずだ。アルトがお腹にできた時にもそうしたからな。他の子たちにもそうしたが、それはウチにあるから……」

「書斎にある緑のと白の花瓶?」

「そう、それ」

「あ……俺たち以外にも子ども居たんでしたね……」

「……うん、まあ。お産とはそういうものだからね。残念だが4人中2人元気にしてるのだから上々だよ」


この国のこの時代、子どもが大人まで生き残る率は3分の1ほど。

フラットは成人済みで、アルトは健康体。人数の問題もあるが半分は実際上々だ。

それもあってテセウスはそんなに気にしていないような口ぶりだが、やはり目はどこか曇っていた。

もちろんそれはどの家でも同じことで、フラットもアルトもその価値観は同じくしているので、あえて突っ込むような真似はしない。


「赤い花瓶……赤い……」


そんなもの有っただろうか?と考えたアルトは約10秒後に青い顔をした。


「あっ……」

「アルト?」

「アルト?」


そして涙目になる。


「……ごめんなさい……多分その赤い花瓶……俺が小さい時に割った……と思います……何年も前……」

「……」

「……いや、いいんだよ。物は割れるものだし」

「そうだよアルト。別に、ね?」


2人は慌ててフォローするもアルトは遂に涙を流し始めた。


「すみません……そんな大事な物とか知らなくて……俺の……記念の……多分母さんにとっても大事な……ごめんなさい……」

「花瓶なんてすぐ割れるものなんだよ。誰でも一度は割るものだよ。そうだろうフラット」

「大丈夫、売り物の結構な壺や皿を何度か割った僕がいるから」

「そうだぞ。お客様から預かった品を割ってもこの通り生命があるんだ。自分たちの物ならダメージは薄い」

「……他人様の物は……気をつけような……!」


フラットが少し震えているが、テセウスは無視する。

アルトはそれには気付いておらず、涙を拭っていた。


「はい……あの時、母さんにも結構怒られたし……でもウチの物だからって許して貰えたから……」

「そうそう。子どもなら誰でもやるし、そんな時に物を選ぶ訳にもいかないさ。私も気にしないし、大丈夫だから」

「……子どもじゃなくてもやるからね……大丈夫だよ……」

「はい……ごめんなさい、ちょっと取り乱しちゃって」


いいんだよ。と2人は笑う。フラットはまだ少し震えている。


「さて、この写真……どうする?アルバムに入れておいても良いが……写真立てにでも入れて飾るか?」

「うーん……」

「俺は……このまま綺麗にしておきたいです。他に撮ったものがないなら……日焼けしちゃいそうだし……」

「そうか」


それなら。とテセウスはアルバムのページをめくる。


「母さんの顔も時々は見たいだろう。フラットに持たせたロケットの絵の元になった私達の結婚写真……ウチには1枚しか無いがね。これを飾ろう」

「良いんですか?これも」

「4人写ってるのが綺麗に残せているなら問題ない。フラットも構わないだろう?」

「はい。僕のは小さくしててよく見えないから……」


テセウスはうんうんと頷いた。


「写真の中だがエリーも含めて4人顔をあわせているという事にしておこう」

「そのうち形見の人形も」

「うん、ハンカチ辺りで拵えて花瓶をあわせれば……リビングの暖炉の上にでも置けるだろう」

「職人を明日手配しましょう」

「うん。頼むぞ」


夜は暖かく更けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ