団欒
「……と、父さん!」
「ん?」
一旦着替えに寝室に戻ろうとしたテセウスにアルトが声をかける。
「母さん、俺の健康の事……凄く気にしてる人でした」
「……そうか」
「汚い手で食べるとか凄い厳しくて、怖かったんですけど……理由がよく分かりました」
「それは良かった」
「牧場で働いて、食べ物の事かよく分かるようになったって言ってました」
「なるほど」
「それで、働いて俺を養って……両立がとても難しい事も知ったって。ただ働くだけとも、ただ育てるだけとも……その立場にならないと分からないからって……そんな事、言ってました」
「……!」
テセウスは目を丸くして次男を見る。
「母さん、分からないけど、父さんを指して言った事なのかなって……今思い出して……想像だけど……もしかしたら」
「うん。大丈夫。よく分かった」
テセウスはワタワタしている次男を落ち着かせるように笑う。
「ありがとう。アルトは優しい子に育ったんだな……色々と気を回すところ、エリーそっくりだけど……育て方なんだろうかな」
「それは……分からないです……」
「はっはっは!真面目だな!」
モジモジしてしまう息子に思わず大笑いしてしまい、アルトはますます赤面して小さくなる。
「ちょっと父さん」
「す、すまん……会ったばかりなのに馴れ馴れしくしてしまった」
「……だ、大丈夫、です」
「父さん……」
「すまん……」
一気に空気が萎むのを感じる。
だが、ここに入ってきた時を思えば随分和やかで居心地のいいものだった。
「……アルト」
「はい」
「色々聞かせて欲しい。今までの事……遠目に見るだけで、エリーとも君とも会話した事は一切無いんだ……風の噂くらいの事は知っていたけれどね」
アルトは大きく頷いた。
「はい。兄さんともそんな感じなので」
「そうか、それはちょうどいい」
長男を見遣りながら満足そうに笑う。
フラットは少し赤面した。
「なんだ、赤くなることもないだろうに」
「いえ別に……」
「『いい歳して父親に気を使われて恥ずかしい』ってことだろう?」
「……」
「ほらやっぱり」
「……もう良いので部屋戻って下さい」
少し怒気の混じった声にビクついた父親はすごすごと出ていった。
アルトはそれをあんぐりと見ている。
フラットは右手で顔をおさえた。
「本当に……もう……仕事中はそうでも無いのにあの人は……」
「兄さん?」
「アルト、父さんは外……仕事とかは有能なんだけど気を抜いてるプライベートではポンコツなところあるから……失言多いし……気が抜けてるだけだから普通に怒っていいよ」
オンオフがハッキリし過ぎていてギャップが激しいそうだ。
「母さんは手厳しい人だったって聞いてる。父さんは気が抜けると失言は多いし頼りない感じになるしすぐ足引っ掛けるし……離婚の原因はやっぱり頼りなかったからなんだろうね……って」
「……」
あんな場面で上手く立ち回れていない辺りに愛想を尽かせたんだろう。
というのがフラットの中での結論である。
もちろん祖父が一番の癌ではあったものの……
「仕事ではちゃんと毅然とできるんだし、もう少しプライベートでも家族にでもその精神をと思うんだけど……」
「そんな辛辣な評価をしなくても」
「いや、プライベートがポンコツじゃなかったら父さんに勝てるものが無くなるからこれで良いんだ……」
「兄さん……」
いまさっきの失言が余程気に入らなかったのか、フラットの何かが燃えている。
「僕も頼りない部分は否めないけど……ちゃんと愛想尽かされない感じの男になってやるつもりだからな」
「結婚するんですか?」
「いや、半年前にフラれたから今は未定だけど」
半年前?
と何かが引っかかったがアルトは突っ込まないでおく。
でも、それでも、少し父と兄のコミカルな面が見られたのは良かったと思った。
父の事はまだ殆ど何も知らないし、兄の事も少し打ち解けた程度だが……
(自分もちゃんとこの輪にはいれるようになるだろうか)
アルトはそう思うのだった。




