間に合わぬ夢
「それでも、会うことが許されないとしても私は君たちにどうしても近づきたかった。だから君たちのいる町の近くを通る度にこっそり遠目に視界に入れる事にした」
酒屋で1杯引っ掛けると言ってな。と続ける。
「こちらのどの町にも父の手の者がいて当然だったからな。下手な事が出来なかったし……それを恐れてエリーゼが拒絶するのも見えていたから」
「それで俺のこと……」
「ああ、誰にも言わず……フラットにも言わず……知られたくなかったからな」
この屋敷にだって父の所から来た者はいるし。と小声で追加する。
それを聞いてフラットは苦い顔をした。心当たりがあるようだ。
「なんでそこまで……ハッキリ言う母さんが嫌なのはなんとなくそうだろうけど……」
「エリーはライバル企業の顧問をしていた法律家の娘だ。昔エリーの親に酷くしてやられたらしい。その親にそっくりな顔と言い回しと振る舞いが嫌なんだそうだ」
「ええ……」
「結婚したのが間違いだとも言われる。でも私達は本当に意気投合して付き合ったんだよ。私の目指すところはエリーの考えとあっていた。父の方針よりよっぽどね」
ただ自分は身内への甘さだけで自身や周りを滅ぼしかねなかった愚か者なのだと言った。
「誰にもいい顔は出来ない。誰とも仲良くはやれない。優先順位を間違えてはいけない……仕事では出来ても、プライベートではとんとダメだった。情が有りすぎたんだ。身内に対して、血縁に対して割り切ることが出来なかった」
「父さん……」
フラットが不安そうな顔をする。それをテセウスは優しく宥めた。
「大丈夫。もう迷わないよフラット。私は息子たちと私に着いてきてくれる者たちを何より優先する」
アルトはそんな父を見て言った。
「出来るんですか?」
冷静な声に二人は驚いた顔をする。だがテセウスはすぐに目を細めた。
「エリーに似て冷静だね、アルト」
「そうでしょうか……」
「うん。なかなかそっくりだよ。……そして、答えはYESだ。私はもう戦える」
「戦うって」
「我が社は父の会社に依存しなくてもやっていける。父達の手の及ばない、息のかかっていない土地を大きく開拓した。海の向こうでは今や私達が先駆者として覇権を握りつつある」
ここ何回かの長旅は全てその為だったそうだ。
フラットもそれを理解した上で祖父に対して強気で祖父の指示を切り捨てた。そうでなければトラウマもあって苦手な祖父に怖気付いていたかもしれない。
「大丈夫って言ったろ?アルト」
「あとは詰めていくだけだからな」
そう笑みを浮かべて言って、またテセウスは真顔になる。
「もう少しだった。もう少しでエリーとアルトを何も気にせず迎え入れられたんだ。しかし……エリーにとっては間に合わなかったんだ」
「……」
どうしてこんなにも間が悪いのだろう。
どうして母は死んでしまったんだろう。
(母さん、本当は待ってたのかもしれないのに)




