母子の家
石造りの少々苔むした古い家、庭にはささやかな家庭菜園があり、3羽の鶏が小屋で飼われている。
後ろには用水路があり、その向こうには牧場が見える。
アルトの母はその牧場で働いて生活費を稼いでいた。それといくつかの耕作地を持っていて、それは人に貸している。
今のアルトの収入源はその土地代だけなのだが大した値段では無いのでギリギリ生活出来ない程度で、僅かな貯金を崩して生きていた。
中を見回し、母お気に入りの花瓶を見つけて少し嬉しそうにして、それから食卓の椅子に座った。
アルトは水をくんできてテーブルに置き、フラットは軽く礼を言ってグイッと一気に飲み干した。
どうやら相当に乾いていたらしい。
飲んでから外套と帽子を外し忘れている事に気がついて、失敬と言いながらゴソゴソと立ち上がって脱ぎ始める。
髪は知らない亜麻色で、長く伸ばし後ろにひとつ括って垂らしていた。
服はラフではありながら小綺麗なシャツとループタイのベスト姿だった。彼は暑いと言いながら腕をまくる。
「はあ、埃を被らないためとはいえマント着ると暑くって暑くって」
「はあ……」
「本当は昼過ぎには着くつもりだったんだけどね、暑くて真昼の頃は木陰で休んでて……馬もへばるしさ。遅くなっちゃって悪かったね」
「いえ、大丈夫です」
「うーん……他人行儀……は仕方ないか……まあ、君の家なんだし僕は客でもないんだから座りなよ」
アルトはおっかなびっくり席に着く。
フラットはそれを困ったように、でも柔らかに見ていた。
「それで、アルト。ホントになんにも知らないの?」
「すみません……」
謝られてフラットは良いんだ良いんだと繰り返して慰める。
「まあ、知らないなら母さんのせいだろうから、ね?」
「……?どういうことでしょう」
「んん……まあ、父さんの事、だろうねぇ」
フラットは腕を組んで天井を仰ぐ。
「父さんと母さんは君が産まれてすぐに離婚したんだけど……喧嘩別れでね……」




