長の帰還
馬車は屋敷に行く前に社屋前に着いた。
既に主だった者たちなどが待ち構えていて、頭を下げている。
「ただいま、諸君。すまないね」
「お帰りなさいませ!」
「私用で戻ってきてしまい申し訳ない。後のことはシンシアに任せてきたから問題は無いと思うが……報告はルツに任せてある」
「畏まりました」
「社長、どうかお気になさらず」
「ありがとう。また寄るから、今日はこのまま」
「はい、皆様お気をつけて」
テセウスとフラットは帽子をあげて礼をし、アルトはぺこりと頭を下げ、再び馬車は動き出す。
しばらく走って、屋敷が見えてくると門の内側にズラっと並ぶ使用人達が見えた。
フラットと自分の時ですら無かった光景にアルトは驚く。
「はは、主人は父さんだし、しばらくぶりだから」
「ああ、そうだな。毎回仰々しい訳じゃない」
アルトの様子に気付いて軽く説明するとそうなんだ……という顔をして、すぐに恥ずかしそうに赤く小さくなる。
モジモジする息子を父親は柔和な笑みで見ていた。
結局予想通りの仰々しい出迎えを受け、テセウスの手荷物を使用人頭がうやうやしく受け取り、三人を見送る。
三人がリビングに入り、各々が座った頃に丁度よくお茶が運ばれてくる。
確かにお茶や食事などがタイミング良く出されるのはここしばらくの経験で知っているが、やはりキビキビ度合いが違うようにも思える。
後で聞くに、ここにいる人達の半分くらいはフラットの幼少期からの使用人で遊び友達だったような者も多いらしい。
教育係の一員だった者もいて、今も構えずに話したり小言を言われる事もあるのだとか。
おそらくその空気感が主人の居ない時になんとなくあるのだと思う、と。
『父さんが居ない時の皆は割とリラックスムードだからなあ』
未だに素だと坊ちゃん呼びの奴も居るんだぜ。とケラケラ笑っていた。
「ふう、喉が乾いてたから丁度良かったよ」
そう言ってカップを置き、(また注がれながら)テセウスは座り直してフラットとアルトを順に見る。
「フラット、アルト、本当にご苦労さまだった。私が不在だった為にフラットにも慌てさせてしまって悪かった」
「いえ、僕は何という事はありません」
つい少し畏まった言い方をする長男にフフっと笑う。フラットはそれを受けて軽く赤面する。
「そしてアルト。本当に……本当に悪かった。何もかも私のせいだ。申し訳ない」
深く頭を下げる初対面の父親にアルトは狼狽える。
大きな会社の社長で、あんなズラっと人が並んでお辞儀されて、まるでお貴族様だか王様みたいな人が自分に頭を下げている。とんでもない事のように思えた。
「えと、その……」
「急に言われても困るかな」
「……それは……」
アルトは口ごもる。フラットは心配そうな顔でアルトを見ていた。
「あの」
「なにかな」
「さっき、俺の事、わかってるみたいな事……言ってたから……」
「ああ……」
消えるような声になる次男を切なげに見ながら父親はため息をつく。
「うん、全て説明する。聞きたい事も出来る限り答える。私を見極めるのはそれからにしてもらって良いかな」
「……はい」
そう言って、アルトはまた恐る恐る父親を見る。
フラットは繰り返しだと思ったが、チラッと見てきたアルトに笑顔を見せて落ち着かせた。
それを確認して、アルトも気を取り直したようだった。




