父からの報せ
その頃、フラットとアルトは父が2日後に帰ってくるという報せを聞いていた。
テセウスが乗る2日前の便に乗っていた客が走り書きの手紙を預かってくれたのだ。
「父さん……!思ってたより早いな」
アルトはもう1週間ほど先を見越していたために心の準備が出来ておらずドギマギしている。
手には自分宛の手紙が握られていた。
『アルト、エリーゼのことは残念だった。長い間独りにさせてしまった事も、それまでの事も言いたい事は山ほどあるだろう。だがもう少しだけ待って欲しい。ーー君を愛する父より』
走り書きのために青黒のインクが滲んでいる。便箋も船着場のものをその場で買ったようだ。
なんとも言えないこの感情をどう処理すればいいのか、アルトには分からなかった。
会って、自分はどう思うのかも分からなかった。
怒るのだろうか。泣くのだろうか。喜ぶのだろうか。恨み節をぶつけるのだろうか。
フラットはフラットで急なことを労う文と、船の到着予定時刻などが書かれている手紙を持っている。
『母さんに会わせてやれず、申し訳なかった』
その一文に心が揺れた。
(ああ、そう言えばしっかりとは泣いてないな。少し涙が出た事はあったけど……アルトの事を優先すべきだったしな)
自分はまだ何も落ち着いていない。
弟の世話で忙しくて、自分の気持ちに向き合う時間が無かったし……それで向き合う事、悲しい気持ちから逃げている。
いつだって忙しくする事、他人を優先する事で色々と向き合うことから逃げてきた。
周りには優しいだとか献身的だとか言われるが、実際にはむしろそれが楽だからだ。
昔、そういったことを父に窘められたことがある。
(でも、本当に必要な忙しさだったんだし、仕方ないよね)
「兄さん?」
「ん?」
「大丈夫?」
「大丈夫って?」
「……ううん、なんでもない」
(この子は察しがいいな。それとも顔に出過ぎだったかな)
フラットは自嘲する。
(父さんが帰ったら、ほっとするだろうか。そしたら僕も泣くんだろうか)
考え込む兄を見てアルトは思いやる。
(兄さん、疲れてるんだろうな)
自分も疲れているが、きっとあれこれと自分の為に動いて気を張ってる兄は更に疲れているんだろう。
そう気付くのは母を見てきたからで、母は今まで無理をおして自分を育てて来た事をずっと気にしていた。
(母さんが死んだのだって、疲れてたからじゃないのか)
ずっとそう思っているが、本人のみぞ知ることでもあった。




