見知らぬ兄
アルトは彼を凝視した。
見慣れたその瞳の色は、昔亡くなった祖母の目の色だ。父方の。
「えっと……」
「アルトなんだろう?」
「はい……あの……フラットさん、ですか」
口篭りながら訊くと、ああ。と合点がいったように手を打ち、馬を降りる。薄い外套が少し邪魔そうだった。
「そうかそうか、覚えてないんだな。赤ん坊だったし」
「……」
「僕はフラット。君の兄だよ……歳は離れているけどね」
「あ……に?」
初耳だ。自分に兄がいたとは。母からも何も聞いていない。意味がわからなかった。
「んんん?」
フラットは何も分かってなさげなアルトを不思議そうに見る。
お互いに困惑した時間が流れた。
だが10秒ほど経って、フラットは何か困ったように、悲しそうに笑った。
「母さん、なんにも言ってないんだな……もしもがあったら身寄りはウチしか無いのに、実際息子を困らせて」
「……」
アルトは俯く。それを見てフラットは大丈夫大丈夫と優しく肩を叩く。
「これはしっかり自己紹介した方が良さそうだな。とりあえず家行こう、喉が渇いたよ」
「は、はい」
「そんな畏まらなくていいよ。兄弟なんだし」
「はい……」
アルトは混乱しつつも家に案内しようとしたが、フラットは構わないと言って迷いなく道を進む。
「懐かしいなあ……随分たつのにそこまで変わってない気もするな」
「ここ、住んでたんですか」
「住んではいないけど、滞在はしたかな。君の家に」
よく分からない。兄弟なら一緒に住んでいたのではないのか?
アルトはますます困惑した。




