懐古する兄
夜。
アルトは緊張が解けたり疲れたりであっという間に寝たようだ。
初めて兄弟で料理をした。アルトは海沿いの街の知らないレシピに興味津々であった。
初めて見る調味料、初めて見る調理法。
アルトは元々家事で料理担当になる事が多かったらしく、より一層興味をひいたようだ。
美味しいと顔を綻ばせながら食べる弟の顔を思い出して、フラットはフフッと軽く笑いが零れる。
「ようやく本来の顔が見れた感じかな」
フラットは目を閉じて、思い返す。
ランプに照らされた母愛用の花瓶がチラチラと光るのを見て、安堵する。
「母さん、アルトの事、ちゃんとしてあげられそうだよ」
自分のミスもあって慌てて駆け付けた後悔も、いつか和らぐだろうか。
フラットは脳裏に朧げになった部分のある母の顔を浮かべてみる。
『ごめんね、あなたと離れたい訳ではないんだけど、ごめんね』
『ううん。母さん悪くないし。アルトの事、よろしくね』
『ありがとう。フラットは良い子ね……』
そう言って頭を引き寄せて、撫でられた記憶。
大きくなって、一人で街を出られるようになった頃には何度も会いに行きたいと思った。
(おじい様が怒らなければなぁ……)
あんなにも母を毛嫌いする祖父がフラットは好きではなかった。強く言い返せず黙ってしまう父の姿も快くはない。
それでも父はなんとか母を守ろうとしたが、母は受け入れなかった。
もしかしたらそこにも祖父の妨害があったのではないかとも思っている。
ただ、強く言われるからとはいえ結局折れて強行しなかった自分の弱さも今となっては悔しいとしか言えない。
母は亡くなった。もう土の下にいて、顔も二度と見られない。
(無理にでもあの時会いに行けば良かったんだけど……)
きっとこの後悔は消えないように思う。
ただせめて、母の忘れ形見のような弟をこれからはちゃんと向き合って世話してやりたいと思う。
(……頑張ろう。何か言われても、ここは折れないぞ)
折るわけにもいかないが。
父に早く飛ばした報せが届くといいが、どうなるか。
みるだけならなんとでもなるが、周辺の事などは父がいなくては方針も決まらない。
アルトを父は歓迎する。ただ祖父はどうみるのだろうか。
そこで折れたりはしないが、拒絶されると立場的に苦しいものがあるのも確かだ。
祖父の発言力はあまりに大きい。その辺の役人の長がヘコヘコする程度には大きい。
会社に損害が出るのは避けたい……
(それでもきっと皆は着いてきてくれる。でも苦労はかけたくない。いざとなった時の事、考えておかないとな)
フラットは次の悩みに移行する事となった。
1章了




