ネックの男
「おじいさま?」
「そう、母さん嫌いの……父さんの父さんさ」
フラットは参った顔をして頭を搔く。
「おじい様はウチとは別の会社をやっていて……父さんはそこから独立した形なんだけど、色んなところに顔がきくからさ。父さんが母さんに何かしてるって知って怒って、見守るのがやりづらくなったんだよね」
「……」
なんて酷い祖父だ。とそのままの感想を抱いたアルトだが、兄も同感らしい。
「父さんが留守になったのを見計らったように圧かけてくるし、僕は嫌だったんだけど……父さんにはその事は連絡して、帰ってきた時に何とかするって話にまではなってたんだけど」
フラットは祖父が苦手な上に、とても孫の言うことなんて聞く人では無いらしい。
「父さんもおじい様の事苦手……っていうか大抵の人苦手だけどさ」
とにかくいつも怒っているような頑固な老人なのだそうだ。
兄弟の母は義父をおそれず物を言う人だったそうで、それが不仲の原因のようだ。
「うん、まあ、母さんなら……勝気な人だし……」
「そうなんだ……」
今度はフラットが興味深そうな顔をする。アルトはそれに少し驚く。
「あれ、知らない?」
フラットは目を細めて覚えてないと答えた。
「僕の思い出の中にいる母さんは優しい人だったかな……父さんには辛辣だった気もするけど」
「……母さんの事、あんまり覚えてないの?」
「10歳そこらの記憶でしか無いからね。忘れたくはなかったけど、どうしてもまだらになるんだよね」
「そうなんだ……」
アルトはなんだか悲しくなる。
自分は父親を全く覚えていないし、居ないものと認識していたから寂しい気持ちを持ったことはあるが大して気にしていなかった。
でも兄は子供の頃に母親と別れて、きっととても寂しかっただろう。
「その『おじいさま』がいなかったら……」
思わず呪う声が漏れる。
フラットは少し苦い顔をしたが、深呼吸をして気持ちを切り替える。
「やめやめ!せっかく良い天気なのにどんよりしても仕方ない!」
「……!」
アルトは伸びをする兄を見て、倣う。
「次はどこ行くんですか?」
「ウチの荷物を軽くチェックしにいくよ。今日はそれくらい。あとは買い物して帰ろう」
「わかりました」
兄弟は会社のあれこれを一問一答しながら倉庫街を進んでいく。
アルトにとっては言葉も何もかも分からない事だらけの話だったが、知らない世界の話というものは少年にとって興味をそそるものだった。
アルトは話を聞くうちに、海というものが見たくなってきた。存在は知っているし、絵で見たことはある。学校で習った程度の知識はある。
だが潮風というものがアルトには分からないし、シケというものも分からない。大きな蒸気船というものも興味深い。
本の中に出てくるような建物ほど大きい魚というものを、兄についていけば見れる事もあるのだろうか。実際そんなにも大きいのだろうか。
そのうち兄に海のことを教えてもらいたいとも思った。
(なんでもズケズケ聞いたら変かな)
ずっと色々聞きたいとは思っているものの、その興味のまま行動していいものかアルトは迷っていた。




