大人の厚意
「いやあ、アルト!アンタ凄い所の社長の息子だったんだねぇ!」
セナは食卓でガハハと笑う。
テセウス商会。
何も分からない弟の為に兄とセナが説明するところによると
父と兄が住む港町に本社を構える貿易をする大きな会社で、海峡の向こうの品をこちらで買う為には必ずお世話になる事になるらしい。
アルトの住む町は街道沿いなので、その港町からの商品……つまり父や兄などが買い付けた商品がこの街を頻繁に通っていると言える。
逆にこちらの品は海峡向こうに同会社を通して渡るワケで……
アルトは瞬きをして、自分の無知を思い知る。
「そうなんだ……」
「いやまあアンタ子どもだし、母さんも牧場勤めだしあんまり興味なかったのかもしれないけどさあ……」
この町にいて知らないのはちょっと……という顔をされる。
アルトはバツの悪い顔をする。
「……ごめんなさい」
「はは、良いんだよ。そういう家の子なら分かるだろうけど、単純にその辺で買い物してるだけの子どもならそういう事も有り得るさ」
「……」
兄は軽く笑うが、弟は恥ずかしさを隠せない。
散々信用できないと思っていたが、そんな凄い所の人となると話はかなり変わってくる。
少なくとも自分を売り飛ばすようなマネはしないだろうし……むしろ兄の様子からして、物凄く裕福な暮らしが待っている事が予想される。
(なんで母さんはこんな凄い会社の社長夫人だったのに別れて親子で貧乏人になろうとしたんだよ……!)
離婚して牧場で働いてでもその地位を捨てたのはよっぽどではないだろうか。
が、そんな事情より貧相な家で貧相なご飯を食べなくてはいけなかった今までの人生を思うと怒りが込み上げてきた。
(母さんは好きだけど!やっぱり納得いかない!)
赤く膨れている弟を見てフラットとセナはおかしくなってしまう。
「まあまあ良かったじゃないさぁ!あたしゃアンタがどうなるかと心配で!ウチもさすがに子供1人分の余裕なんて無いしねぇ!」
「……すみません」
「あっはっは!」
それでも卵3個なんて半端な数を受け取って、それ以上の物をくれたセナにアルトは頭が上がらない。
この町で一番自分を心配して親切にしてくれた人。
損得勘定な人がそれなりに多く、人情も月日がたつと薄れ始め、それでも変わらず気にかけてくれたこの人への恩をアルトは忘れないだろう。




