乱入の婦人
アルトは恐る恐る顔をあげる。
そこには優しく笑う兄の姿がある。
アルトは唾を飲み、少し息を吸い込んでから縋るような声を出す。
「あなた……を、信じて、も、いいの?」
フラットはゆっくり頷く。
「信じて欲しい」
「……っ」
まだ分からない。兄だからといって悪い人かもしれない。
でも何も無くて心細い半年を送ったアルトにとって、頼っていい人間がそこにいる。
家族、血縁というだけの繋がりだけでも、孤立し弱っていたアルトにとっては充分なものだった。
「兄、さん……」
「アルト……」
ポロポロの大粒の涙を流し始めた弟にフラットは安堵の表情を浮かべる。
まだ全てのわだかまりが解決した訳ではないだろう。でも、それでも。
「これからよろしくな」
アルトはこくんと精一杯頷いた。
涙がやっと止まって、兄に貸してもらったハンカチで拭っていた頃。
タンタンタンタン!
『もし!アルト!?いるかい!?』
「……セナおばさんだ」
ちょっと外すと言って玄関に向かう。
毎日卵を納めている家の人だ。今日持っていかなかったから心配したのかもしれない。
先に断りに行かなかった事を悔やんだ。
「すみませんおばさん!来客で慌てちゃって……」
ドアを開けながら謝る。
セナは泣き腫らした少年を見て驚いた。
「アルト!どうしたんだいその顔!なにか……」
セナは家の中をグルリと覗いて、食卓の見知らぬ青年を発見する。
「なんだい!あんた!この子に何したね!」
大声をあげて威嚇しながらアルトを引き寄せようとする。アルトは慌てた。
「あああ待って!おばさん!誤解!」
「誤解ぃ?」
「兄なんです!昨日の夕方遠くから訪ねてきて!」
「????」
セナは何が何だか分からない顔をした。
「あんた家族居ないんじゃ無かったのかい!?」
「ええとその……生き別れ?みたいな感じみたいで!俺も知らなくて!すみません!」
セナは元々声が通るのに怒りのあまり更に声が大きくなっているのでアルトもつられて大声になる。
その大声に目を丸くしていたフラットもいそいそと出てくる。
「驚かせてしまって申し訳ありません……私、テセウス商会のフラットと申します。アルトの兄で、長年離れて暮らしていたもので……」
おもむろに名刺を差し出され、セナは面食らう。そして遅れて更に驚いた顔をし、目を大きく見開いて名刺とフラットを見比べる。
「テセウス商会……!?あの!?」
「はい、その通りです。私は……」
アルトはこのやりとりが何もわからず2人を交互に見るばかり。
会った時にアルト自身も名刺を貰い、同じ自己紹介をされたが見知らぬ社名だと思って流していた。
(なになになにコレどういうこと?もしかして何かやばい?)
アルトは兄を凝視してみたが、さっぱり分からなかった。




