待つ弟
第1章
とある夏、とある街。
アルトは人を待っていた。
彼は今年14歳で中学生なのだが、ある日突然の不幸で母親を亡くしてしまった。彼は父親の顔も行方も知らない。
アルトは孤独の身の上になっていた。
街の人は彼を哀れに思い、手を貸してくれたが、それも半年も続くと少しずつ離れていく。
それを予見した近所の人のうちの一人が、彼に住所録にあるだけの場所に手紙を送るようにアドバイスをした。
そうしたら、助けが離れ始めて数ヶ月経った頃に期待もしていなかった返事が来た。
『前略、アルト。手紙をネーナ叔母さんから受け取った。事情等々、了承した。○月✕日にそちらへ帰る。フラットより』
アルトにはこのフラットという人がよく分からなかった。名前に聞き覚えがあるようには思うが、顔も関係性も分からない。
近所の人に聞いてみると『ああ、昔隣だか隣の隣だかの街に住んでた……お前の親族だったかね』と曖昧な答えが返ってきた。
アルトは途方に暮れたし、情報量の少ない手紙に苛立ったが、どうしようもないし現在唯一のアテかもしれないので素直にその日を待つことにした。
そして来たのがこの日であり、もう夕方にさしかかろうとしていた。
街の入口の石塀に腰掛けて脚をブラブラさせ、つまらなさそうに姿も分からないその人を待つ。
本当に来るのだろうか?何者なのか?どうするつもりなのか?
伏せ目がちに色んな事を過ぎらせながら待ちぼうけていた。
もう帰ろうか。そう思った頃、やっと遠くに薄い土煙を見た。
ハッと少し期待した目をそちらにやる。
土煙は近づき、そのうち馬の形になった。
アルトは少しずつ胸を高鳴らせていく。
この人か?この人なのだろうか?今度こそ?
何度も見送った荷馬車に辟易していたので不安がどうしても混じっていた。
しかしその馬は見知らぬ若い男を乗せ、ついにアルトの目の前で止まる。
埃を吸わないように巻いていたスカーフを降ろし、ゴーグルもはずす。
帽子で髪は見えないが、見慣れた赤茶色の瞳がアルトを捉えた。
「やあ、君、アルトだろう。大きくなったね」
聞き覚えの無い、でも何かあたたかくなる落ち着いた中低音がアルトの耳に流れ込んだ。




