―スキルと代償―
またちょっと説明入ります。
とりあえず、最初はこのみすぼらしい恰好を着替えてから薬草採取の依頼を受けてみる事にしよう。
それが一番簡単そうだからな。俺は早速、ボードから依頼書を剥がすと、そのままギルドを出て手近な服屋で身繕い、森へと向かう。
街から出て少し歩くと、周囲に人の気配がなくなった。
なので念の為、人目につかない場所を探してそこで装備を整える事にした。
まずはこいつの確認からだな…。
腰の鞘から剣を抜き放ち、刀身を眺めた。
見た目は完全に普通の安売りのロングソードだ。
「なぁ、何か特殊能力とかあったりしないか? 例えば魔力を込めれば飛ぶ斬撃が出るとか…」
まぁあんまり期待してないが一応聞いてみた。
『残念ながらそんな便利な機能は付いていない。精々、多少切れ味が増す程度だな。まぁそれでも無いよりマシだろう。あとはそうだな……魔力を込めると身体能力が上がるといったところか? もっとも、その分だけ魔力を消費するので多用はできないが……』
魔力が平均値より多少あるぐらいの俺にはあまり意味は無さそうだが短期決戦用には覚えておいてよさそうだな…。
『そういうお前には何か得意な事などはあるのか?』
「あ~、あるにはあるんだが得意というかスキルだな」
そう、俺には生まれつき特殊な力というか【スキル】が存在する、しかもこれは誰でも持っているものではなく、1000人に1人の割合で発現するらしい。
普通に考えたらこれが俺の転生特典になるんだがかなり使い勝手が悪く、使えば使うほど強くなるらしいが…。
『何だ、スキルを持っているにしては歯切れが悪いな』
まぁ、そう思うのも無理はない、普通のスキルというのは、【火精霊の加護】や【ダブルマジック】や【剣聖の教え】のような比較的汎用性が高く、その道のスペシャリストのような、他とは一線を画す力だ。
だが俺のスキルは…
「なぁ、これ言っても見限らないでくれよ、一応の保険だけど」
『そんなに念を押すなんてどんなスキルなのか逆に興味が湧いてきたぞ』
「いいか、俺のスキルは…【死神の導き】だ」
『聞いたことないな、いったいどんなスキルなんだ?』
「簡単に言うと、自分が殺せる状態の相手に対して絶対優先権が発生するスキルだ、例えば相手がこちらに攻撃しようとしても必ず俺の攻撃が先に当たる」
『すごいスキルじゃないか! 何故隠そうとするんだ?』
まぁ当然聞かれるよなぁ…。
「俺のこのスキルは【人間限定】なんだ、魔物に対しては欠片も効果を発揮しない」
『なら山賊狩りでもしたらどうだ? お前に暴力を振るっていたやつに何故使わなかったんだ?』
「使えなかったんだ、俺のスキルはどうやら俺自身の現在の状態に反映して発動するらしい、つまり殺せる状態というのは俺自身が強くなければ何の意味もない」
『そんなの実質スキルが無いのと同じではないか?』
「まぁそうなんだがここで更に問題がある。このスキルはどうやら成長するらしいんだが、成長の条件が全くわからんしスキル自体が常時俺の肉体に成長阻害のような影響があるらしい」
『何故そんなことが分かるんだ?』
「簡単なことだ、俺の筋力は村の平凡な女性より少しマシ程度しかない。毎日村で畑を耕し、自主的な筋トレも行っているにも関わらずだ」
『それはっ……!。ではお前は今私を持ち、満足に振るうことすら出来ないのか?』
「いや、何故か今は奴隷になる前より筋力があるように感じる、…多分あの時だな」
『あの時?』
「ほら、あんたが来る直前に俺はこの刺青をナイフで抉られてな、何故か傷跡が治って謎の模様があるが…」
そう言って腕を剣に見せる、今改めて見るとどこか歪な星座のような印象を受ける。
『確かにあるな』
「この模様ができた直後にスキルが増えてな…、【ゾディアック・サイン】って聞いたことあるか?」
しばしの沈黙の後…
『いや、聞いたことないな、スキル名も意味がさっぱり分からん』
まぁ、俺が思うにこの世界には星座なんて概念はなく、この模様が歪ながら星座のような形になっている事から恐らく星座に関するスキルなんだろうが、全く想像できん。
『…で? それがどう筋力と関係あるんだ?』
「いや、俺の筋力が元に戻った?でいいのかね、このスキルには持っているだけで弱体化のような症状を緩和する効果があるんじゃないか?」
『もしそれが本当なら、私以外の他の奴には絶対に漏らすなよ、ただでさえ後天的に2つ目のスキルが出来るなんてまずありえないんだからな』
まぁ普通はその危険を一番最初にに思いつくよな。
「分かってるって、俺もまた捕まって人体実験なんかされたくないし」
『とりあえず今は薬草採取が先だ、まだ聞きたいことはたくさんあるが…』
「りょーかい、まぁ簡単な依頼らしいからとっとと終わらせて今日泊まる宿でも確保しますかね」