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夢の中の冒険、真っ最中です。

作者: 日下千尋

1、 新しい生活と一人の少女

 

 私、二階堂聡美は今年の春から東京都日野市にある公立中学校へ(かよ)っています。

 今から約1年前、私は母を病気で亡くし、その後も父と継母からの虐待に耐えきれなくなり、児童保護施設に引き取られましたが、一人の里親希望の女性によって新しい生活を始めました。

 彼女は石田綾子さんで、まだ25歳ですが高校を卒業したあと警察官になり、今では巡査長になっています。

 彼女が私の里親になったきっかけを言いますと、私の虐待事件の担当になってくれて、その時に私の前にキャラクターTシャツにショートパンツの姿でやってきて、優しい笑顔で接してくれたので、私が思わず「友達になりたい」と言ってみたり、父のいるところへ向かおうとした時にも私が寂しそうな瞳で見つめてしまったからです。

 父が逮捕された数週間後には綾子さんが里親希望として施設に私を引き取りにやってきた時には、とても驚きました。

 新居は日野市内にある小さなマンションですが、二人で生活するには少し広いくらいでした。

 さらに綾子さんは私に部屋を与えてくれました。中はとても広く、机とベッドが置いてありました。

「綾子さん、ありがとうございます。机とベッドもいいのですか?」

「実家から持ってきた私のお古なんだけど、いい?」

「すごくうれしいです。大事に使わせていただきます。」

 私は嬉しくて、思わず感激して涙をこぼしてしまいました。

「聡美ちゃん、ちょっと大げさだよ。」

「こんなに優しくされたの、初めてだったから。」

「そうだよね、今までは虐待を受けていたからね。私のことは本当の家族だと思って、たくさん甘えていいからね。」

 私は綾子さんに何も言わずに抱きついてしまいました。

 そのまま綾子さんに抱かれて眠ったところまでは覚えていますが、そのあとの記憶が残っていませんでした。目が覚めたら私はベッドに横になっていて、そっと起き上がって机に向かってみたらシールのはがした跡や、貼ったままのものがありました。おそらく綾子さんが子供のころにやったいたずらだなと思いました。

 窓の外を見てみると太陽が沈みかかっていました。居間の時計を見てみると、夕方5時30分を回っていました。

 台所へ行ってみると、綾子さんが夕食の準備をしていたので、私は手伝おうとしました。

「私も何かお手伝いします。」

「あ、大丈夫よ。もうじき出来上がるから。」

「綾子さんは今日から夜勤ですよね。少し休んだ方がいいですよ。」

「本当に大丈夫だから、心配してくれてありがとう。」

 私は綾子さんのお言葉に甘えて、テーブルに置いてあった新聞を広げてみました。

 記事を読んでみると、一面にはまたしても両親による子供の虐待のことが書かれていて、国会でも刑法改正案が持ち込まれていると書かれていました。

 私はこの記事を読んだ時に過去の記憶がよみがえってしまいました。

 食卓に料理が運ばれて食べようとした時、綾子さんは私の表情の変化に気が付きました。

「聡美ちゃん、どうしたの?」

「実は新聞の一面を読んだら、私と同じように親から虐待を受けている子供がいると書かれていたので、過去の記憶がよみがえってしまったのです。」

「大丈夫だよ。あなたのお父さんは刑務所の中なんだし、記事に書かれている親も逮捕されているんだから、気にすることはないよ。ほら、それより冷めたらまずくなるから食べましょ。」

「うん。綾子さん、この鶏肉美味しいです。」

「本当に!?時間かけて作った甲斐があった。実は今日初めて作ってみたの。実家にいた時によく食べていたんだよ。」

「そうなんですね。よく料理は自分でされているのですか?」

「少しだけ。本当のことを言うと、ほとんどコンビニとかスーパーで買ってきた弁当が多かったの。でもね、聡美ちゃんを引き取ると決めたとたんに、実家で料理の猛特訓をしてきたんだよ。その時のお母さん、鬼になっていたから、正直泣きそうになったけど、頑張って料理の腕を上げてきたからね。」

「私のために!?」

「こう見えて一生懸命頑張ったんだよ。」

 私はその言葉を聞いて嬉しくなりました。

 食器を片付け終えて、お茶を飲んで一休みをしている時に私は綾子さんが警察官になったきっかけを聞くことにしました。

「綾子さんはなんで警察官になろうと思ったのですか?」

「難しい質問だね・・・。」

 綾子さんは少し考えた後に答えを出しました。

「私、下に妹が一人いたんだけど、当時小学校4年生だった妹が学校の帰り道に正面からいきなり刃物を持った男性に胸を刺されて死んでしまって、家に帰って妹の変わり果てた姿を見た時にショックで部屋でずっと泣いていたの。」

「ひどいですよね。」

 私は相づちを打ちながら、綾子さんの話を聞いていました。

「犯人は逮捕されて、裁判では懲役5年の実刑を言い渡されたけど、私も両親も5年で刑務所から出られるなんて納得がいかず、許せない気持ちでいっぱいだったの。できれば『死刑にしてほしい』と何度も思っていたんだよ。」

「確かに5年の懲役は確かに短いですよね。」

「その時から私の将来は警察官になろうって決めていたから、高校卒業した後に警察学校で厳しい訓練を受けて、卒業後はすぐに交番勤務、そしてこの年で巡査長になったんだよ。」

「そうなんですね。妹さん、今頃天国から綾子さんの立派な姿をみて喜んでいると思います。」

「ありがとう。私、もう少ししたらお仕事に行くけど、聡美ちゃんはお風呂に入って寝てちょうだいね。戸締りだけは忘れないでね。」

「わかりました。」

「あと、帰りは朝の6時になると思うから、ドアチェーンはかけないでね。朝ご飯はテーブルの上にコンビニで買ったパンが置いてあるからそれを適当に食べてちょうだいね。」

 綾子さんはそう言い残して仕事に向かいました。

 私は言われた通りに戸締りをして風呂に入って、翌日の準備を済ませてから寝ることにしました。

 その日の夜、私はベッドで深い眠りについて夢を見てしまいました。

 

 ここからは夢の中の話になります。

ここは誰もいない静かな海岸でした。後ろを振り向けば青々と生い茂っていた草原です。冷たい風が時折吹いてきて、私は飛ばされそうになった白い帽子を左手で必死に抑えていました。

 私は帽子を外して、海岸を西へと歩いていきました。砂浜をゆっくり歩いていきますと、一人の女の子が座りながら海を眺めていました。私は後ろから「どうしたの?」と声をかけてみましたが、少女は黙ったままでいました。

 もう一度声をかけてみましたが、反応がありません。

 横から顔を覗いてみますと、その表情はとても寂しそうでした。

「誰かを待っているの?」

 今度はゆっくりと首を縦に振りました。

「それで誰を待っているの?」

「お父さんとお母さんとお姉ちゃん。」

「そうなんだ。私も一緒にいていい?」

「いいよ。」

「ありがとう。私は二階堂聡美。あなたのお名前は?」

「綾乃。石田綾乃って言うの。」

「綾乃ちゃんって言うんだね。何歳?」

「10歳。聡美ちゃんは?」

「私は13歳だよ。」

「じゃあ、聡美ちゃんの方がお姉ちゃんなんだね。」

「うん。」

 綾乃ちゃんは私に少し微笑みかけてきました。空は少し曇り始めてきましたので、私は立ち上がって帰ろうとしましたが、その後ろを綾乃ちゃんが付いてきたのです。

「綾乃ちゃん?お父さんとお母さんを待たなくていいの?」

「うん。」

 綾乃ちゃんはしばらく私の後を付いてきましたが、私が海岸から離れて草原を歩こうとしたとたん、綾乃ちゃんが私の袖を引っ張って、違う方角へと指しました。

 私は綾乃ちゃんに手を引っ張られて、虹色に輝く大きな川へと向かいました。綾乃ちゃんが私の手を引いて川に入ろうとした瞬間、私は目を覚まして起きてしまいました。


 時計を見たら、まだ6時でした。

 そろそろ綾子さんが帰って来る時間だけど、私はそのまま起きて着替えを済ませて、テーブルに置いてある菓子パンを二つほど食べている時でした。玄関のドアが開いて入ってきたのは、夜勤から戻って来た綾子さんでした。

「あら、聡美ちゃん。早いんだね。」

「綾子さん、夜勤お疲れ様でした。実はちょっと変わった夢を見て早く目が覚めちゃったの。」

「へえ、どんな夢?」

「夢の中で、海岸と緑の草原が出てきて、その中に1人の女の子に会うんだけど、その子の名前が石田綾乃ちゃんって言っていたの。」

「綾乃って、私の妹の名前だよ。」

「実は海岸で家族を待っていたと言ったかと思えば、私の後を付いてきたり、そのあとも虹色の川へ連れて行こうとしたのです。」

「不思議な夢だね。何で聡美ちゃんが私の妹の夢を見たの?」

「私にもよくわからない。」

 綾子さんは少し考えました。

「もしかしたら、霊界からの誘いかもしれないよ。虹色の川ってもしかしたら、三途の川かもしれないよ。誘われても、ついていったらだめだからね。」

 私は綾子さんに言われるまま返事をしました。

 


2、スマホデビュー


 私は学校へ行って昨日見た夢の話を教室で話してみました。

「これはきっと変だよ。綾子さんの言う通り、霊界からの誘いだと思うよ。」

 友達の夢野雫さんも同じようなことを話していました。

「ところで聡美、昨日は何時ごろ寝た?」

「昨日は11時30分かな。それまで風呂に入っていたり、数学の予習と復習をやっていたから。」

「あんたって、本当におりこうさんね。数学なんて昼寝する時間に決まっているじゃん。」

「でも、勉強しておかないと、テストで赤点とるし、それに綾子さんが悲しむから。」

「あんたって、いつも二言目には『綾子さん』が出てくるよね。そんなに綾子さんに頭を撫でられたいの?それとも『赤点取ったら手錠をかけるわよ。』って脅されているわけ?」

「そうじゃないけど、私には将来があるから。」

「まさかとは思うけど、『将来は警察官になる』って言うんじゃないでしょうね。」

 私は首を縦に振りました。

「マジ?」

「私ね、将来は綾子さんのような市民に好かれる警察官になりたいと思っているから。」

「はいはい、分かりました。頑張ってちょうだいね。」

雫は少し呆れたように返事をしました。

昼休みと放課後を利用して私は学校の図書室へ向かい、死者の夢についての本を探しましたが、見つけることができませんでした。

 来る日も来る日も、昼休みと放課後を利用して、しらみつぶしにいろんな本を読み続けてみましたけど、まったく手がかりになる本が見つかりませんでしたので、あきらめようとしていました。

 ある日の放課後、私がいつものように図書室で資料を探していたら、雫がやってきました。

「聡美、最近昼休みと放課後いないと思ったら、ここにいたんだね。」

「探し物をしていたから。」

「図書室の本もいいけど、スマホで探すって言う方法はないの?」

「私、スマホ持っていないから。」

「マジ!?」

「うん。」

「じゃあ、綾子さんに頼んで買ってもらうのはどう?」

「そんなことはできないよ。働いて自分の給料で買うから。」

「それもいいけどさ、それだと私らと連絡できないでしょ?」

「確かに・・・・。」

「そういう意味もあるから、綾子さんに頼んで買ってもらったら?」

「考えておくよ。」

 確かにスマホは魅力的でした。教室でゲームをやったり、音楽を聴いたり、SNSで情報交換をしているのを見ると、私も1台欲しいと思ったことがあります。しかし、私は里子とは言え、居候している身であることには変わりありませんので、簡単におねだりなんかできません。

 綾子さんは巡査長ですが、自分の生活費だけで精一杯なのに、その上私を引き取ったので、生活に余裕がないのは確かです。そんなときにスマホをおねだりしたら、綾子さんに迷惑をかけるのは目に見えていますで、スマホは高校に入るまでは我慢しようと決めました。


 その日の夕食、綾子さんは赤い手提げ袋を私に差し出しました。

「聡美ちゃん、この袋の中身を見てくれる?」

「なんですか?」

「いいから、見てちょうだい。」

 私は言われるままに手提げ袋の中身を見ました。中には小さな箱がありました。

「この箱は何ですか?」

「開けてみて。」

 今度は箱の中を開けてみました。中からはピンク色のスマホが出てきました。

「このスマホは?」

「私からのプレゼント。嫌だったかな。」

「そんなことありません。すごくうれしいです。でもどうしてですか?」

「聡美ちゃん、この家に来てから誕生日や入学、卒業のお祝いをしていなかったでしょ?それらを含めてのお祝いだったから。それがないとお友達と連絡もできないでしょ?」

「確かに・・・。本当にこんな高価なものを頂いていいのですか?」

「いいんだよ。」

「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます。」

「あと今頃出すのも変だけど、ケーキも用意したから一緒に食べよ。」

「ありがとうございます!」

「それと前々から気になっていたことがあるんだけど、私たちもう家族なんだし、いい加減その敬語をやめにしない?普通にため口でいいから。」

「でも、急には無理だから・・・。」

「そうね。少しずつでいいから、ため口にしてちょうだい。」

今まで敬語を使っていたのに、急に「ため口を使って」と言われても、やはり抵抗を感じました。

食事を終えて、私は早速スマホを使ってみることにしました。

まずは電話帳登録からだと思って、綾子さんと雫の電話番号を入れたあと、私は早速雫の携帯につなげてみました。

「もしもし?」

「私、聡美だよ。」

「どうしたの?あ、もしかしてスマホを買ってもらったから、私のところに電話してきたんだ。」

「うん!」

「スマホデビュー、おめでとう。」

「ありがとう。初めてだし、どのように使ったらいいか分からないから。」

「そうだよね。何かアプリ入れた?」

「アプリ?」

「うーん、なんて説明したらいいか。そうだ、アプリってスマホで使うソフトみたいなもんだよ。」

「ソフト?」

「例えば音楽プレーヤーとかゲームとか、なんでもあるよ。変わったものだとボイスチェンジャーもあるしね。」

「なんか、いろんなものがあるんだね。」

「全部言ったらキリがないから、明日の昼休みか放課後に教えてあげるよ。」

「ありがとう。」

「じゃあ、明日また学校で。お休み。」

「うん、お休み。」

 電話を切ったあと、私はスマホを少し触ってみましたが、画面が思うようにいかずに苦戦していました。

 さっき雫が言っていたアプリとは何なのか、よくわかっていませんでしたので、綾子さんに聞くことにしてみました。

「綾子さん、スマホに『アプリ』と言うのを入れてみたいんだけど・・・・。」

「どんなの入れてみたい?」

「私もまだよくわからないけど、ゲームとか音楽プレーヤーとかボイスチェンジャーかな。」

「ボイスチェンジャーって、これって犯罪者が使うものだよ。よく誘拐犯が声を換えて『人質は預かった。身代金を用意しろ!』って言っているじゃん。」

「あれって、ボイスチェンジャーのソフトだったの?最初から犯人がそういう声を出しているのかと思った。」

「違うって。でも、もし使うなら私だけにして。むやみに使うと嫌われるからね。」

「わかった。」

「他にどんなソフトだっけ?確か音楽プレーヤーって言っていたけど、聡美ちゃんCD持っている?」

「いえ、持っていません。どんなのがオススメかなって思ったんだけど・・・。」

「うーん、私と聡美ちゃんの年代が違うから、どんなのを勧めたらいいか分からないから適当にCDをかけるね。その中でいいと思った曲を自分で選んでくれる?」

「うん。」

 私は綾子さんの部屋に行って小さなステレオでCDをかけてもらいました。

 何曲かかけてもらい、気に入った曲をパソコンを経由して入れてもらいました。

「ありがとう。」

「あと、ダウンロードしたい曲や欲しいCDがあったら私に言ってね。」

「買ってもらえるのですか!?」

「たまにならいいよ。」

 私は嬉しさのあまり、テンションが上がりました。

 綾子さんの部屋を出たあと、自分の部屋で入れてもらったばかりの音楽をイヤホンで聞いてみましたら、とても音質がいいことに驚いて、そのままうっとりしてベッドで横になってしばらく聞いていました。

 他にもどんなソフトがあるのか気になりましたが、時計を見ていたら11時近くになっていたので、部屋を暗くしてパジャマに着替えて、そのまま眠ることにしました。



3、 2度目の同じ夢


 さて、お話は再び夢の中の世界になります。

 私はまたしても緑色の草むらの中にいました。その中には先日見た綾乃ちゃんという女の子もいました。私と綾乃ちゃんは時々吹てくる強い風に当たりながら、何も言わずに立っていました。

 この沈黙が何とも言えない雰囲気なので、私としては早く解放されたい気分でした。

 綾乃ちゃんは無言で私の袖を引いて虹色の川の方角へと向かいました。

 そこには一隻の船が停まっていました。

「どこへ連れて行くの?」

「それは秘密。」

「もしかして、あなたって北の工作員?」

「違うわよ!」

「だって拉致して将軍様のところへ連れていくんでしょ?この船だって万○峰号なんでしょ?」

「言っておくけど、私はあなたが言うとところの、工作員でも美女軍団でもないんだからね!」

「あ、分かった朝○中央テレビに出てくる、着物の女性?」

「とにかく北から離れてちょうだい!」

「政府のお世話になりたくないなぁ・・・。」

「あの、人の話を聞いている?」

「じゃあ、どこかの宗教団体の生き残り?」

「まさかと思うけど私がオ○ムの関係者だって言うんじゃないでしょうね。」

「うん。」

「言っておくけど、私には毒ガスなんて作れないんだらね!」

 綾乃ちゃんはついに火山が爆発でもしたかのように、私に怒鳴りつけてきました。

 そのあと、息を荒くして問答無用で私を船に乗せて下流へと向かいしました。

 船はゆっくり景色を変えながら進んでいきました。

 もしかして本当に三途の川を渡っているのかなと思って、不安を感じながら景色を眺めていきました。

「綾乃ちゃん、どこへ向かっているの?」

「さっき悪い冗談を言ったから、ナイショよ!」

「もう言わないから。」

「少なくともあの世じゃないのは確かだから、安心してちょうだい。」

「よかったあ。ここって三途の川じゃないんだね。」

「あたり前でしょ!あんたをここで死なせたら、姉さんに会わせる顔がなくなるわよ。これから向かう場所は夢の世界。現実の嫌なことから解放されて、自由にのびのびと楽しめる場所なの。」

 私は安心してそのまま眠ってしました。


 夢から目を覚まして、私は起き上がりました。

 時計を見たらまだ6時でした。

 そのまま起き上がって着替えを済ませて、ダイニングへ向かったら綾子さんがすでに起きていました。

「おはよう、綾子さん。」

「あ、おはよう。聡美ちゃん、早いんだね。」

「実はこの間と同じ夢を見たの。」

「夢の世界で綾乃に会ったの?」

 私は無言で首を縦に振りました。

「それで、どうしたの?」

「虹色の川まで連れて行って、そこから私を問答無用で船に乗せて行ったの。最初は三途の川かと思っていたけど、そうじゃなくて夢の世界へ連れて行くと言い出したの。私は安心してそのまま眠ったら、目が覚めてしまったの。」

「その『夢の世界』って気になるのよね。綾乃は『夢の世界』について何か説明をしてた?」

「『現実の嫌なことから解放されて、自由にのびのびと楽しめる場所』っていっていた。」

 綾子さんは少し気難しそうな顔してコーヒーを飲んでいました。

「ねえ、お腹空かない?」

「そんなに空いてないかな。」

「でも、食べないとお昼まで持たないから、何か食べたほうがいいわよ。」

 綾子さんはコーヒーとトースト、目玉焼きを私に用意しました。

「ありがとう。」

 私は朝食を済ませて、いつもより早めに出て、誰もいない通学路をゆっくりと歩いていきました。

 昨日の夢で綾乃ちゃんが言っていた『夢の世界』とは何だったのか気になって仕方がありませんでした。


 学校へ着いて私は真っ先に職員室へ向かい、図書室の鍵を借りることにしました。

「先生、おはようございます。」

「お、二階堂、早いじゃないか。」

「先生、図書室の鍵を貸してもらえませんか?」

「昼休みまで待てないのか?」

「だって、始業まで時間があるから、その時間を利用して調べてみたいものがあるのです。」

「一応貸すけど、予鈴が鳴る前にはきちんと戻しておけよ。」

「ありがとうございます。」

 私は早速図書室に向かって予鈴が鳴る

ギリギリまで資料とにらめっこをしていました。

 ページをめくってみると、専門的な言葉がたくさん並んであったので、持っていたスマホの辞書アプリを起動して調べていきましたが、とても追いつきませんでした。

 時計を見たらすでに8時20分を経過していたので、資料を元の場所に戻して、鍵を先生に渡しました。

「目当ての本は見つかったか?」

「いえ、見つかりませんでした。ですから今日の昼休みと放課後にまた使わせてもらいます。」

「それは構わないが、時間だけはきちんと守れよ。」

 私は教室に入って、チャイムが鳴るまでにスマホをいじっていました。

「おはよう、聡美。」

「おはよう、雫。」

「お!これが噂の新しいスマホなんだね。ちょっと見せて。その間、私のスマホをいじっていいから。」

雫は私に自分のスマホを渡したあと、私のスマホをいじり始めました。

「ねえ、SNSはまだ入れていないの?」

「うん。」

「じゃあ、LINEとTwitterやらない?私、両方やっているから。」

「まだやり方分からないから。」

「やり方ならあとで教えてあげるよ。」

「うん、ヨロシクね。」

 始業のチャイムがなり、私がスマホをカバンに入れた直後先生がやってきました。

 ホームルームを終えたあと、担任の月下(つきした)京子先生が私を呼びだしてきました。

「先生、なんの用ですか?」

「二階堂、急に呼び出して本当にすまない。実は今朝職員室で図書室の鍵を借りたでしょ?」

「借りたらいけなかったのですか?」

「そうじゃない。何を調べていたのか気になっていただけなんだよ。」

「実は最近、同じ夢を見ているので、何か手掛かりになりそうな資料がないか、探していたのです。」

「どんな夢なんだ?」

「亡くなった里親の妹さんが出てくるのです。私とは何の接点もないのですが、二晩その人が夢に出てきたので、調べようと思ったのです。」

「それは、ちょっと気味が悪いな。わかった、一応自由に使っていいけど、授業やホームルームに遅れないように気を付けろよ。」

「ありがとうございます。」

 昼休み私は時間の許せる限り調べ物をしていきましたが、学校の図書室だけでは資料が足りないことがわかり、放課後市立図書館へ向かおうと思いました。しかし、何か忘れていることに気が付きました。

「聡美ー!」と遠くから誰かが私を呼んでいる声が聞こえてきました。

 下駄箱で靴に履き替えていたら、全速力で私に近寄ってきました。

「あんた、何か忘れていない?」

 私は思わず「しまった!」と声を出して反応してしまいました。

「『しまった!』じゃないわよ!私との約束、忘れてないでしょうね?」

「本当にごめん。」

「もう、気を付けてよね。次約束忘れたら、ジュースおごってもらうから。」

「はい。」

 私は雫と一緒に近くの公園でスマホを取り出して、LINEとTwitterの設定をやりました。

「こっちの方が連絡しやすいから、今度からLINEかTwitterでよろしくね。」

 そう言い残したあと、雫は駆け足で家に帰っていきました。

 時計を見るとすでに4時近くになっていたので、図書館をあきらめて家に帰りました。



4、 船の終点はテーマパーク?


 夕食を終えて、食器を片付けた後、私は一足先に風呂に入りました。

「お先にありがとうございます。」

「いいえ。」

 私は綾子さんが風呂に入っている間に居間に置いてあるソファに座ってコーヒー牛乳を飲みながらテレビのチャンネルを回していました。

 特に面白そうな番組はなさそうだなと思って部屋に戻ろうとした瞬間、風呂からあがってきた綾子さんが私を引き留めました。

「聡美ちゃん、ちょっとだけ時間大丈夫?」

「どうしたの?」

 綾子さんはコーヒー牛乳を飲みながら、少し重たい表情で私に夢の中の出来事を持ち掛けてきました。

「まだ、綾乃の夢を見ているの?」

「うん。」

「実を言うと綾乃が聡美ちゃんに憑依している可能性が高いと思ったから、次の日曜日に近くのお寺で除霊をしてもらおうと思っているんだけど・・・。」

「それで、綾乃ちゃんの夢から解放されるのですか?」

「まだ分からない。でも試してみる価値はあると思うよ。」

 綾子さんはそのあと何も言わずに自分の部屋に向かいました。

 私も自分の部屋に戻り、寝る前に少し考えました。除霊してもらって夢を終わらせるか、もう少し見ていたいから様子を見るか。そう考えながら、ベッドでスマホをいじりながら考えていたら、そのまま眠ってしまいました。


 ここからは夢の世界に入ります。

 またしても同じ夢を見ることになってしまいました。

 私は綾乃ちゃんと一緒に船に乗って、虹色の川を眺めていました。

 景色は草木が生い茂る草原から、家が立ち並ぶ住宅街へと変わっていき、空を見上げると橙色に染まっていました。

 船は小さな洞窟の中へゆっくりと進んでいきました。

 ライトを照らして前へ進んでいくと、その終点は賑やかな街並みで、まるで街全体がテーマパークになったような感じになっていました。

「そろそろ終点よ。」

「そこから歩くの?」

「そうよ。」

 綾乃ちゃんは私の手を引いて街の中を案内してくれました。

 街の中は賑やかでちょっと中を覗くと、ダンスパーティやゲームなど見ているだけでとても楽しくなってきました。綾乃ちゃんはさらに奥へ進んでいき、遊園地の入口まで進んでいきました。

「私たちの目的地はここだよ。」

 綾乃ちゃんは大きな観覧車に指をさして、私の手を引いて遊園地の奥へと進みました。

 最初に私と綾乃ちゃんはジェットコースターに乗ることにしました。私は正直絶叫マシンって苦手だったのですが、綾乃ちゃんは問答無用で私の手を引いてジェットコースターの列に並びました。

「もしかして、怖い?」

「うん。」

「大丈夫、私が横にいるから。それに見た目よりそんなに怖くないし。」

 明らかにスリル満点のジェットコースターでしたが、私は覚悟を決めて乗ることにしました。

 マシンはゆっくりと動きだし、長い長い坂を頂上目指して上がっていきました。

 私の心臓の鼓動が早くなっていきます。下を眺めますと、人間が人形のように小さく見えてきました。

 そしてマシンは頂上に着いた瞬間、突然空へ舞い上がり、6メートルほど先にあるレールに飛び乗りました。その瞬間、レールは長い下り坂になり、地下トンネルに入っていきました。

 マシンは加速をゆるめずに、長く暗い地下トンネルを猛スピードで通過し、出口に着いたころ私は少し気絶していました。

 そのあともテーマパークを歩いていると綾乃ちゃんが私に大きく手招きをして次のアトラクションへ行こうと誘い出しました。

 私は絶叫マシンの疲れが残っていたので、ベンチで一休みをしていたら、綾乃ちゃんがにこやかな表情でメリーゴーランドの方を指さしました。

「次はあれに乗ろうよ。」

「少し休ませて。」

「いいけど。もしかして、さっきの怖かった?」

「怖いを通り過ぎているよ。あれは人間が乗るものじゃないよ。」

「そう?」

「綾乃ちゃんは怖くなかったの?」

「平気だよ。」

「すごいね。」

 私はベンチで酔いがさめるのを待っていました。

 綾乃ちゃんはそんなことお構いなしに、私の手を引いてメリーゴーランドの方角へと向かいました。


 朝日に照らされて、私は目を覚ました。起き上がったら、時計は7時近くになっていましたので、すぐに着替えと食事を済ませて、学校へ向かいました。

 今日も一番乗りでしたので、私は職員室へ行って資料室の鍵を借りることにしました。

「先生おはようございます。」

「二階堂は相変わらず早いなあ。今日も図書室の鍵を借りに来たのか。」

「違います、今日は資料室の鍵を借りに来ました。」

「資料室とは珍しい。調べ物でもあるのか?」

「はい、ちょっと・・・。」

「ちょっと?」

「実は最近おかしな夢を見るようになるのです。」

「ほほお、どんな夢を見てるのかい?」

「実は私がお世話になっている里親の妹さんが夢に出てくるようになっているのです。その人はすでに小学校4年生の時に亡くなりました。」

「お亡くなりになった里親さんの妹さんが夢に出てくるなんて、実に不思議だね。」

「里親に話したら妹さんの霊が憑りついているのではないかと言うのです。次の日曜日に里親が休暇をとって近くの寺で除霊をお願いしてくれると言うのです。」

「日曜日に休暇と言いますと、里親さんはどんな職業をされているのですか?」

「警察官です。」

「それは頼もしい。」

 書写を担当していた吉永先生は興味深い顔をして私に根掘り葉掘り聞いてきました。

「先生、時間が無くなりますので、鍵を貸してもらえませんか?」

「あ、すまない。つい悪い癖が出てしまったよ。」

 時計を見たら8時15分を回っていました。

「先生、時間が無くなったので、一度お返しします。」

「私のせいで資料室が使えなくなった。そのお詫びとして鍵を一時的に貸してあげるよ。」

「でも、私に貸したら他の人が使えなくなりますので。」

「どうせあんな部屋、誰も入りたがらないよ。それに授業で必要なものはたいてい各教科の準備室に置いてあるんだよ。もし、君以外に資料室が必用になったら放送で呼ぶよ。ほら、授業が始まるから早く教室へ行きな。あと、いい忘れたけど鍵は帰りまでに職員室に戻してくれよな。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 私は吉永先生から鍵を預かって、そのまま教室へと戻りました。


 昼休みと放課後に、私は資料室へ向かいました。

 扉を開けたら、ほこりが充満していました。喉がやられると思ってすぐにマスクをつけて、部屋の奥にある小さな窓を開けました。

 明らかにマスクがないと耐えきれないほどのほこりでしたので、私はなるべく手短に調べ物をすまそうと思いました。

 しかし部屋が広く、資料の数が膨大でしたので、短時間で見つけるのが不可能だと思いました。

「聡美、今度は資料室で探し物?」

 雫がマスク姿で私に近寄ってきました。

「なんでここにいるってわかったの?」

「さっき、吉永先生に聞いたら資料室にいるって言っていたから来てみたんだよ。」

「マスクはどうしたの?」

「吉永先生に分けてもらった。しかし、この部屋はすごいほこりだね。マスクつけてきてよかったよ。聡美、まだ夢のことを調べているの?」

「うん。図書室では充分な資料が見つからなかったから。」

 私はさらに奥の棚に向かって、ほこりまみれのファイルを見つけました。

ページをめくった途端、部屋中にほこりが舞い上がって、とても調べられる状態ではありませんでした。

「うわっ、何よ。このほこり。聡美、私にほこりを向けないで。」

「あ、ごめん。」

「次来るときはマスクだけでなく、ゴーグルも必要だね。」

 雫はゲホゲホと咳をしながら私に愚痴をこぼしていました。

 私は床にほこりを少し落としてから、持っていた付箋を用意して気になるページに貼っていき、職員室のコピー機を借りて、コピーをとっていきました。

「二階堂、気になる資料は見つかったのか?」

「吉永先生、あの部屋掃除させてください。ほこりが異常なほど充満していて、マスクしても耐えきれません。今度の土曜日に時間が空いていますので、やらせて頂きます。」

「そっか、すまないな。」


 帰り道、雫は少し不満そうな顔をして私に話しかけてきました。

「聡美、もしかして土曜日本当に資料室の掃除やるの?」

「うん、マスクやゴーグルがないと耐えきれないみたいだし。」

「確かにそうだけど・・・・。掃除なんて用務員がやる仕事じゃん。」

「そうだけど、用務員って土日休みなんだし、休みの日に無理して来させるわけにはいかないでしょ?」

「じゃあ、カラオケや買い物はどうするの?」

「それは、また別の日にしていいんじゃない?」

「資料室の掃除って、資料全部出さないとダメなんでしょ?」

「そうだよね。土曜日だけだと無理だから、来週の月曜日から放課後に少しずつやっていくよ。」

「マジ?」

「うん。言い出したのは私なんだし、一人で全部やるよ。」

「しょうがない。私も手伝うよ。」

「無理しなくてもいいんだよ。」

「だって、一人だといつ終わるか分からないから。」

「一応言っておくけど、私貧乏だし、何もお礼なんてできないよ。」

「そんなの、最初から期待していないから。じゃあ、そういうわけで土曜日よろしくね。」

 私と雫はそのまま分かれて帰りました。

 その日の夜、私は教わったばかりのLINEで当日の服装と用意するものをメッセージで送りました。



5、 資料室の大掃除とお寺での除霊

 

 土曜日になり、いよいよ今日から本格的な資料室の掃除が始まりました。私はジャージにマスク姿で、バケツと濡れぞうきん、モップを用意して掃除をやり始めました。

「遅くなってごめん。」

 雫が駆け足でジャージとマスク姿でやってきました。

「大丈夫だよ。」

「じゃあ、一緒にやりましょ。まずは棚の資料を全部隣の部屋に移動するから。」

 まずは棚にある資料を台車に乗せて少しずつ移動させていきました。資料の数が膨大過ぎたので、それだけでも半日近くは楽にかかりました。

「これで終わり?」

「そうだね。」

 私はモップで床掃除、雫は洗剤使って棚の掃除をやり始めました。

「雫、手が荒れるからゴム手袋を使ったほうがいいよ。」

「ありがとう。」

 私は綾子さんから預かったピンクのゴム手袋を一つ雫に渡しました。

 床掃除が終わって、私も洗剤と雑巾を持って、もう一つのゴム手袋を着用して掃除をやり始めていきました。

 1時間ほどかけて掃除をしたら、ほこりまみれの資料室が見る見るうちにきれいになっていきました。

 掃除が終わる直前、数学の臼井みのり先生がやってきて、「おーい、お前たち。昼飯まだなんだろ?チャーハンを出前で注文しておいたから、区切りのいいところで、相談室まで来いよ。」と言ってきました。

「臼井先生、ごちそうさまです。もう少しで区切りよく終わります。」

「昼飯食ったら、先生も手伝うから、指示を頼むよ。」

「よろしくお願いします。」

 拭き掃除が終わって、ちょうど区切りがよかったので、私と雫は相談室に行って先生と3人でチャーハンを食べることにしました。

「先生、いただきます。」

「ちゃんと食えよ。しかし、休みの日にわざわざすまない。お前たち二人には本当に感謝しているよ。」

「この間、入った時にすごいほこりまみれだったので、驚きました。」

「あの部屋、誰も使っていなかったんだよな。本当に助かったよ。」

「ここのチャーハン、美味しいですよね。」

「そうだろ。いつも昼休みに注文しているんだよ。一緒についてくるスープも最高なんだよ。」

 食事を終えて、私は流しに持って行って3人分の食器を洗いました。

「あ、二階堂、そのまんまでいいよ。」

「でも、返すときにきれいにしておかないと悪いし・・・・。」

「おっしゃる通りで。」

 洗い終えた食器を大き目のビニール袋に入れて職員玄関の入口付近に置いておきました。

 午後は資料を元の棚に戻すのですが、何しろどこに何があったのか把握していませんでしたので、似たようなジャンルに固めて入れていくことにしました。

 私が向かって右側、先生が真ん中、雫が左側を担当して資料を戻していきました。

ほこりをはたきながらでしたので、時間はかかりましたが、なんとか夕方前には終わりました。

「君たち、本当にありがとう。」

「いいえ、こちらこそ。チャーハンごちそうさまでした。」

「また頼むよ。あ、そうそう。先生ももうじき帰るから、家まで送って行くよ。」

「大丈夫です、歩いて帰れますから。」

「ま、そういうなよ。たまには少しドライブしてから帰ろうよ。」

「すみません、お言葉に甘えて乗せて頂きます。」

 臼井先生は教員用の駐車場から緑色の軽自動車を用意して、私と雫を乗せて野猿街道を走り、多摩動物公園まで向かいました。

 しかし、言うまでもなく閉園になってしまったので、先生はそのまま私と雫を乗せて家まで送り届けてくれました。

「すまない、時間があれば動物園に行こうと思ったけど、やっぱ間に合わなかったよ。」

「大丈夫です。」

 家に着いたころには暗くなり始めていました。

「先生、今日は本当にありがとうございました。」

「月曜日に会おうな。」

「聡美、またね。」

 私が玄関に入った途端に綾子さんが少し心配そうな顔して私を出迎えてくれました。

「聡美ちゃん、遅かったじゃない。」

「真っすぐ帰るつもりが、先生のドライブに付き合わされてしまって・・・・。本当にごめんなさい。」

「心配したんだよ。次からスマホで連絡してちょうだいね。」

 夕食を済ませて、私は風呂に入ってそのまま眠ってしまいました。


 さて、ここからは再び夢の中のお話になります。

 私と綾乃ちゃんは、テーマパークにあるメリーゴーランドの馬にまたがって、音楽に合わせてゆっくりと回って行きました。

 音楽は静かにゆっくりと流れていき、自分が夢の中にいることを忘れてしまうような感じになっていきました。

 そのあとはコーヒーカップに乗ったり、ゲームコーナーにも行きました。

 ベンチで一休みをしていたら、綾乃ちゃんがソフトクリームを二つ用意して、一つ私に差し出しました。

「ありがとう。」

「次、どこを回る?」

「綾乃ちゃんに任せる。」

「じゃあさあ、お化け屋敷は?」

「うん、いいよ。」

「ここのお化け屋敷って結構迫力あるんだよ。」

「そうなんだ。」

「どんなお化け屋敷?」

「それは行くまで、ひ・み・つ。」

 綾乃ちゃんはもったいぶったような言い方をして教えてくれませんでした。

 本当は知りたかったのですが、行くまで知らないでおこうと思いました。

 お化け屋敷に着くと、目の前に古い火葬場の形をした建物がありました。入り口で係の人から「入る前に合掌をお願いします。」と言われ、二人で合掌して中に入りました。

 最初に向かったのは暖炉でした。そこでは遺族の鳴き声、お坊さんによるお経が聞こえてきました。

 薄暗く、何だかとても気味が悪かったです。

さらに奥へ進むとボイラー室でお化けに遭遇、その後も霊安室に進めば棺桶の蓋が開き、お化けが出る始末で、行く先々で悲鳴を上げていきました。

 最後に向かった収骨室では再びお坊さんのお経が流れてきたのですが、いくら夢の中といえリアル過ぎると思いました。

 最後にグロテスクのお化けが出てきて、出口にたどり着きました。

 私はベンチに座って一休みをしていたら、目が覚めてしまいました。

 

 時計を見るとまだ6時前でした。

 もう一度寝ようと思ってもなかなか眠れませんでした。

 仕方がないので、机の上に置いてあるスマホでTwitterを起動して、さっき見た夢の中の出来事を書き込みました。

 その数分後何人かが、私の書き込みに「いいね」をつけてくれました。

日曜日の朝は何だか退屈でした。

 居間に行って、テレビをつけて小さな音量でチャンネルを回していきました。特に面白い番組はありませんでしたが、偶然にも鉄道の旅番組がやっていたので、暇つぶしに見ることにしました。のどかな風景の中を2両編成の短い電車が走っているのを見ますと、とても気持ちが落ち着きます。ナレーターが「本日の路線は宮城県仙台市から山形県山形市を走るJR仙山線です。」と言いました。

 ひわまりの中を走っていく映像を見ていたら、綾子さんがパジャマ姿で大きなあくびをしながら居間に入ってきました。

「おはようございます。」

「おはよう、聡美ちゃん。電車の番組を見ていたの?」

「とてもきれいな風景でしたので。」

「こういう田舎の風景って落ち着くよね。この電車って仙山線でしょ?」

「うん。」

「昔、警察になって日が浅いころ、お世話になった中学の時の担任を訪ねるために友達と2人で高瀬まで行ったことがあったの。長い間電車に揺られて、たどり着いた駅が何もない田舎駅だったから驚いたよ。」

「そうなんですね。」

「駅からは先生が車で迎えに来てくれたけど、走っても走っても畑や田んぼばかりだったの。家に着くと最初に目に飛び込んできたのは昔ながらの井戸と小さな用水路だったの。その井戸水で作ってくれた麦茶を飲んだら、とても美味しかったよ。」

 綾子さんは完全に思い出話に夢中になってしまいました。

 

 話すこと15分、綾子さんは今日の予定のことについて話しました。

「聡美ちゃん、朝ご飯を食べたら今日お寺に行くからね。そこの住職は私の同級生のお父さんで、お寺には私の妹、すなわち綾乃のお墓があるんだよ。」

「そうなんですね。」

「すでに連絡してあるから遅れないように支度をしてちょうだいね。終わったら綾乃のお墓参りもするから。」

「はーい。」

 朝食を済ませて部屋で着替えを済ませた後、私は赤いコンパクトカーに乗って綾子さんと一緒にお寺に向かいました。

 お寺はとても大きく、奥へ進むとたくさんのお墓がありました。私と綾子さんは本堂の方へ向かって、住職と挨拶をしました。

「ごめんください、お約束をしていました石田です。」

「あ、どうもお待ちしておりました。って、もしかして綾子ちゃん?」

「はい、そうです。ご無沙汰しています。寛子ちゃんは今日はいらっしゃるのですか?」

「今日は朝から大学の時の同級生と一緒に買い物へ行ったみたいだよ。休みとなれば友達と一緒にお出かけ。たまには手伝いもしてほしいものだよ。そういえば、横にいらっしゃる女の子は?」

「私の里子で二階堂聡美と言います。今日はこの子の除霊をお願いしたいのですが・・・。」

「除霊と言いますと、何かに憑依されているのですか?」

「実はこの子が言うには、ここ何日か同じ夢を見ているらしいのです。」

「なるほど。具体的にはどんな夢を見ていらっしゃるのですか?」

「なんでも私の亡くなった妹の夢を決まって見てるらしいのです。しかも、虹色の川を妹と一緒に船に乗ったと言っていました。」

「なるほど、綾乃ちゃんの夢を見ているんだね。もしかしたら聡美ちゃんが見た川って言うのが、三途の川の可能性も高いですね。では早速本堂で除霊を行いましょう。」

 私と綾子さんは住職と一緒に本堂に入り、除霊をしてもらうことになりました。中はだだっ広く、手前には椅子が二つ並んであり、私と綾子さんはその椅子に座って20分ほどお経を聴きました。

 お経が終わると住職から護符のようなものを渡されました。

「今夜寝る前に、枕元に置いてみてください。」

「ありがとうございます。」

「たぶん大丈夫かと思われますが、万が一効き目が無かったら、私のところへ来てください。」

「わかりました。」

「今日は綾乃ちゃんのお墓にはいかれるのですか?」

「はい、お線香とお花を用意してありますので、お墓参りを済ませてから帰ろうと思っています。」

「そうしてください。その方が綾乃ちゃんも喜びますよ。」

 私と綾子さんは綾乃ちゃんのお墓に向かいました。墓地の外れに行くとお地蔵さんが並んであり、真ん中の墓石には「石田家之墓」と書かれていました。

「ここに綾乃が眠っているの。」

「通り魔に殺されたのですね。」

「そうよ。私は今でも犯人を憎んでいるわ。たった一人の妹をナイフで殺したんだから。」

「私も人殺しだけは絶対に許せないと思っています。」

「綾乃、今日は新しい家族を連れてきたよ。二階堂聡美ちゃん。」

「綾乃ちゃん、夢の中で会っているから初めましてと言うのは変だけど、これからもよろしく。」

 私は思ったように言葉が出なくて、変なあいさつになってしまいました。

 そのあと線香をあげて、合掌を済ませてから車に乗って帰りました。



6、 最後の夢と、そのあとの生活


 その日の夜、私はパジャマに着替えた後、枕の下にお坊さんからもらった護符を置いて、さらにシーツの上に塩をまいた後に掃除機で吸い取りました。

 しかしその日に限って、なかなか眠くなりませんでしたので、綾子さんに頼んでホットミルクを作ってもらいました。

 さらに新聞を読んでみたり、スマホをいじったりと時間を過ごしていたら、少しずつ眠くなってきたので私は部屋に戻り、ベッドに入りました。


 さて、ここからは夢の中の話になります。

 お化け屋敷を出たあと、綾乃ちゃんと二人で少し休憩を取りました。

「次、何に乗る?」

「たくさん回ったし、最後は観覧車に乗ろうか。」

「うん。」

 観覧車の乗り場に行ったらすごい行列でした。

「すごい行列だね。」

「うん。」

「あとは帰るだけだから、みんな最後に上からの景色を見て帰ろうと思っているんだよ。」

 なかなか順番が来ません。

 観覧車を降りた親子連れの中には泣いている人もいました。

「また来ようね。」

「うん。」

 小さな子供が母親に抱かれながら泣いていました。

「帰りにレストランに行きましょうね。」

「レストラン!?」

 そのとたん、子供は急にテンションが上がり、元気になりました。

「親子で来るのもいいよね。」

「そうだね。」

「あんたは私の姉さんに甘えることができるからいいけど、私はもう死んだから甘えることができないんだよ。」

「そうだったね。ごめん・・・。」

「気にしないで。それより、お姉さんは今何やっているの?」

「綾子さんは街の平和を守る警察官で、今では巡査長になっているよ。」

「すごいんだね。」

 会話に弾んでいたら、順番が来てしまいましたので、観覧車に乗って景色を楽しむことにしました。

だんだん上昇していくと、人も景色も小さく見えて、まるでミニチュアの街を見ているような気分になってきました。

 本当は二人で会話をしたかったのですが、何から話したらいいか分からなくて、二人で沈黙になってしまいました。

 観覧車が下降していくと、これで終わりかと思うと寂しさも出てきました。

 係員がドアを開けて降りると、乗る前に見た親子連れではありませんが、思わず泣きたくなってきました。

 テーマパークを出て、船着き場に行くと今まで黙っていた綾乃ちゃんが口を開きました。

「今日は本当に楽しかったよ。私ね、そろそろ帰らないといけないから。」

「帰るって、天国へ?」

「そうだよ。」

「私、てっきり北朝鮮かと思ったよ。」

「いい加減、北から離れなさいよ!言っておくけど、この船だって万○峰号じゃないからね!」

「ごめん、冗談だから。だから、怖い顔しないで。」

「じゃあ、私帰るから。姉さんによろしく伝えてね。」

 綾乃ちゃんが船に乗っていなくなったあと、私も船に乗って帰ろうと思いましたが、船がありませんでしたので、私は歩いて戻ることにしました。

 歩いても歩いても同じような景色をぐるぐると回っているようにしか思えませんでした。

 しばらくすると、私の身長と同じくらいの草が生えている場所にたどり着きましたので、両手でかき分けながら歩いていくと、大きな穴の入口に入っていきました。

 中は暗くて狭いトンネルになっていたので、私は手探りをしながら歩いていきました。

 しばらく歩くと、白い光が見えてきました。出口かと思ってゆっくり歩いていきました。

 でも、いっこうに出口は見えてきません。この光が何なのかもわかっていませんでした。

 それでも光を目指して歩いていきます。

 いい加減、歩き疲れたと思って立ち止まった瞬間、光は大きくなり、私を飲み込んでしまいました。

 そのとたん、私は目が覚めてしまいました。

 まぶしい光はきっとカーテンの隙間から入ってきた太陽の光だと思いました。


 制服に着替えた後、私は顔を洗ってダイニングで食事を始めました。

「おはよう、聡美ちゃん。昨日綾乃の夢を見た?」

「うん。でも綾乃ちゃんは、会うのはもう最後と言っていた。そのあと船に乗っていなくなった。」

「その船って、間違いなく三途の川に向かったに違いないね。」

「綾乃ちゃんと別れた後、一人草むらの中を歩いて、そのあとは暗くて狭いトンネルの中を歩いて行ったの。最後には真っ白な光が私を包んで目が覚めた。」

「これがきっと、夢の最後だと思うよ。」

「そうだといいんだけど。」

「きっとそうよ。さ、早く食べないと遅刻するわよ。」

 テーブルの上にある目玉焼きとトーストを食べ終えて、コーヒーを飲んだあと、洗面所で歯磨きを済ませて学校へ向かいました。

 通学路を歩いていたら、後ろから雫が肩を叩いてきました。

「おっはよ!」

「あ、雫。おはよう!」

「相変わらず同じ夢を見ているの?」

「まあね。でも綾乃ちゃんが『そろそろ帰る』ような言い方をしていたし、私を置いて船に乗っていなくったの。」

「それって、間違いなく三途の川だよ。あんた、乗らなくてよかったよ。もし乗っていたら、間違いなくあの世に行っていたかもしれないんだよ。」

「さっき、綾子さんから同じことを言われた。」

「でも、無事でよかったよ。」

 雫は少し安心した表情で私と一緒に学校へ向かいました。

 普段と変わらない一日、友達と一緒に過ごす時間を私は大切にしていました。

 

 あれから一週間が経ち、綾乃ちゃんが出てくる夢は見なくなり、放課後には資料室や図書室にも立ち寄らず、まっすぐ家に戻る時間が多くなってきました。

 休日は雫と一緒にカラオケや買い物をすることも多くなってきました。

 最近ではファッション雑誌を買うことが増えてきて、どの服が可愛いのかもチェックするようになってきました。

 翌週は綾乃ちゃんの命日でしたので、綾子さんと二人で車に乗ってお墓参りをしてきました。

「綾乃ちゃん、今頃天国で何をしているのかなあ。」

「さあ、おそらく新しい友達を作って楽しくしているんじゃない?」

「そうだね。」

 綾子さんはこれ以上、何も言いませんでした。

 線香の薫りがする秋の空は空気がとてもきれいで、私はどこまでも抜ける青空をずっと眺めていました。



おわり

皆さん、今回も最後まで読んでいただきましてありがとうございます。

今回の作品は夢の中をテーマに書いてみました。

皆さんは寝ている時にどんな夢を見ていますか?

それは毎晩人によって異なってきますので、その日にどんな夢を見るのかは分かりません。

怖い夢だったり、楽しい夢を見るなど、人それぞれです。

さて、この物語の主人公である二階堂聡美ちゃんが見た夢は亡くなった里親の妹さんの夢でした。

毎晩のように会って、船に乗ってテーマパークで楽しむのですが、最後は三途の川を渡って天国へ行ってしまいました。

皆さんは夢の中でお亡くなりになった方の夢を見たことがありましたでしょうか。

私は過去に何度かありましたが、正直怖かったです。

そろそろお別れになりましたが、次回の作品も最後まで読んでいただけると、非常にうれしいです。

それでは、皆さん体に気を付けて次の作品でお会いしましょう。

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