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ジンクスレコード:0  作者: 小犬ハンナ
9/26

9.4年2組 津和野太槻

英数字については、縦書き用にWordにて全角一括を実施しております。

万が一変換ミスなどございましたらお知らせください。


僕が倒れて、想像したくはないが磐城円に担がれて後。

そのまま真っすぐ孫一が空港に向かったとして、今時分恐らく手続きが終わって、搭乗を待っているタイミングだろう。

目立たないように、いや、アイツは存在が目立つところがあるのだが、普通に国際便を利用するならば、まだ国内にいるはずだ。


自宅を目指しながら、片手運転で電話を掛ける。

例え自転車でも道路交通法違反であるが、今はそれどころではない。


孫一が僕の考えうるシチュエーションの中で、最速の移動で海外に渡航するのであれば。

今更だ。僕は間に合わない。物理的には。

だから電話を掛けた。

国際線の発着がある空港、ここから最短で、ヨーロッパ方面の、僕が想定しうる国だというのであれば、現状、その空港はほぼ1つだけだ。


そしてそこに、家族からの緊急メッセージという伝言を残す。

困った様子の受付嬢は、実際自転車を全力で漕ぎながら息を切らして途切れ途切れに話す僕の勢いに押されていた。

ちょっと理不尽な要求を通すために必要なのは、勢い余るくらいの迫力と嘘に添える真っ白な事実。

それが一番効果的だと、小学校の時僕たちは学んだ。

そう、僕たち、だ。


だが今はあの時の記憶に引っ張られる時ではない。

僕は素早く伝言を添え、念のため孫一のメッセージにも「今どこにいる?」と返信を入れた。


マンションに着くと、僕は自転車を担いでエレベーターに乗り込み、急ぎ部屋に戻る。

汗だくになりながらも、ブレザーを脱ぎ、次の準備をまさにしようとしていた時。

自宅の電話が、鳴った。


母も僕もスマホを持つ今、正直、自宅に電話を置く意味はあまりなかったが、それはもう癖みたいなもので、Fax付の固定電話を引いていた。

その電話が、本当に久しぶりに鳴った。

表示されている番号を見て、僕はギリギリ間に合ったことを知る。


―もしもし。


孫一からの電話だった。


「孫一、とりあえず伝言は嘘だ。だから僕の話を聞いてくれないか。」


―ああ。まさかとは思ったけど、あの雑賀の大爺様なら、今、南の島だからな。


僕が残した伝言は、分かりやすくシンプルに、それでいて緊急性のあるものだった。

雑賀の大爺様が危篤です。大変可愛がってた一番目の孫に一目会いたいと、病院を抜け出して自宅に戻って着ております。

大至急、自宅へ電話くださいと、メモを渡していただけませんでしょうか、と。

まぁ、もちろん、どの便でどの国に行くのか確定要素はない。

なので、今既に搭乗口にいるらしく電話が通じないなど、あれやこれやと無理を承知で、いかにもなシーンを作り、伝えたのだ。

電話口の受付嬢は、僕の言う通りのヒントを元に、彼を探し出してくれたのだ。

空港内でのお呼び出しは現状出来かねます、また、個人情報の問題でお約束はできませんが、可能な限りお伝えさせていただきます、と。


―にしても、どうやって俺にこの伝言が届いたのか、そっちのが不思議だよ。


孫一は笑う。

日本人としての親切心に感謝しつつ、僕は続ける。


「種明かしは今度してやるよ。正直、シンプルだよ。その空港、今、北ウィングが工事中だろ?」


―ああ。


「だから捕まえられた。それだけだ。」


僕は続ける。

お前は自分の意思でそこに居るのか?教えてくれ、と。


―ああ。俺の意思で俺は行く。


孫一は答えた。淀みなく、ハッキリとそう言った。

僕は正直、それでも未だに孫一が何のために今留学と言う話に乗るのかどうか、確証を得られていない。

だが、あの告白が本当で、その能力を買われたという途方もない話なら、孫一は自分が何をしに行くのかは分かっているはずだった。


「そうか。分かった。帰国したら、全部話してくれるか?」


僕は改めて問う。


―ツッキー、俺…。


電話越しに、空港独特のジェット音に混ざり、搭乗のアナウンスが流れていた。


―…美女に囲まれてモテモテだった自慢話を土産にするから、待っててくれよな!


そう言うと、孫一は電話を切った。


直後、僕は後悔した。

掛ける言葉を間違えたと。

僕は、もしかしたらこれが孫一との最後の言葉になるかもしれないその時に、僕の感情をそのままアイツに押し付けてしまっていたことに気が付いた。

以前にもこんなことが僕たちの間では何度かあった。

そうだ、僕が掛ける言葉は、それではいけなかったのだ。

孫一が言いたかった本音を、僕は、引き出すことが出来なかったのだ。


そして僕はまた過去の記憶に沈む。

いつかあった同じことに。

4年2組の、あの時代に。


感情を共有できるのが友達、ってこともありますね。

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