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93 忍び寄る影


異界渡りを行う満月の日までは本当にあっという間に過ぎていった。


極夜も白夜も紫苑が人里に一時的に戻ることを月天から聞いていたらしく、修行は主に自分の身を守る術が多く日に日に自分でも術者としての力量が上がるのを感じることができた。


明日の夜はいよいよ異界渡りを使って村に行く日だ、今日は月天が夕方から夢幻楼に来て異界渡りに関する詳しい決まり事を教えてくれることになっている。


異界渡りは最近では扱える術者も少ないため実際に使用するところを見られるのはかなり貴重らしい。


白夜と極夜も当日は月天の補助をするために同行するらしいが、実際は異界渡の術を間近で見て覚えるのが目的だろう。


紫苑が執務室で双子宛の書類を確認していると、赤い封筒が目に入る。


赤い封筒は至急の連絡に使うと以前教えてもらったので早く白夜か極夜に渡した方がいいのだろうけど、肝心の双子は少し前に何やら慌てた様子で部屋を出て行ったきりだ。


とりあえず、他の書類や郵便物を仕分けして白夜に教えてもらった念思の術を使って双子に連絡を取ろうとする。


「白夜さんか極夜さん聞こえますか?紫苑です。執務室に赤い封書が届いているのですが」


紫苑が何度か強く念を送ると少し聞き取りにくいが白夜の声が頭に響いてくる。


「すまない、その封書は小狐に持たせて上ノ国の月天様の執務室に急いで届けるようにしてくれ」


「わかりました、まだ戻ってくるまでかかりそうですか?」


「そうだな、帰りは月天様と一緒になると思う。仕事が終わったら執務室で休んでいてくれ」


白夜はそういうと何やら少し慌てた様子で通信を切ってしまった。


念思が切れるとほぼ同時に執務室の戸を軽く叩く音が聞こえる。


「白夜様に言われて伺いました。上ノ国の屋敷にお届けする封書はどちらでしょうか?」


現れたのは小鉄と同じくらいの歳ごろの小狐だった。小狐は人型に化けておらず背中に封書を入れるための包みを背負っていた。


紫苑は小狐に封書を渡すと、小狐はその場で宙返りをすると一瞬にして姿を消してしまった。


月天達がこちらに来るまでまだ時間はかなりある、紫苑は白夜に言われた通りとりあえず執務室に残っている仕事を片付けてしまおうと再び自分の机へと戻った。


◇◇◇


上ノ国の月天の執務室には白夜と極夜が神妙な表情を浮かべて届いたばかりの手紙を見ていた。


月天はすでに全て確認し終えた後のようで、脇息にもたれながら煙管を吹かしている。


「月天様、これが本当であれば明日の異界渡りは取り止めた方がよろしいのでは?」


極夜が眉間に皺を寄せながら進言すると白夜もそれに続く。


「村で大鏡の儀が行われたとなると、最悪白桜様の耳にもこのことは入るでしょう。俄でのことと言い白桜様は間違いなく紫苑様を攫う機会を伺っております明日の異界渡りには反対です」


月天は双子の提案を聞きつつも気怠げな様子でふーっと息を吐く。


「白桜なら間違いなく紫苑の住んでいた村に配下のものを潜ませているだろう、状況から考えれば明日紫苑を村に行かせるのは得策ではないな」


「では!」


「なぁ、極夜。この私が白桜の影に怯えてこそこそとするなど可笑しいと思わないか?紫苑は自らの意思で私の元に残ると決めたのだ、白桜ごときのせいで一々こちらが予定を変更するなど腹立たしい事この上ない」


苛立ちを含ませた月天の瞳に見つめられて極夜は思わず唾を飲む。


「明日の異界渡りは予定通り行う。白桜と言えどもいつどこに異界の割れ目が現れるかは分かるまい」


「では、紫苑様が伺う予定の村人の家はどうなさいますか?報告ではすでに鬼の一族の者が監視を始めているようですが」


「雲隠れの被衣を紫苑に渡す。あれを使えば妖からはその身を消すことができる、人間と会うだけの今回のような場合にはちょうど良いだろう」


「しかし、白桜様の天眼を使われては姿を隠し通すのは難しいかと……」


「大丈夫だ、村の人間達には悪いが紫苑が村にいる間は障りを村一帯に放つ。そうすればいくら白桜と言えども短時間で紫苑を見つけることは難しかろう」


「そんな無茶です!ただでさえ異界渡りを維持するのに多くの神通力をお使いになるのに、障りまで放つとなると月天様のお身体に負担が大きすぎます」


珍しく声を荒げて月天に進言する白夜を月天は冷めた目で見つめる。


「では代わりにお前がやるのか?今のお前では少々荷が重すぎるのではないか?」


障りを村一つ分起こすとなると村の周囲に潜む魑魅魍魎を集めて術者が制御する必要が出てくる。


月天のような大妖怪となれば自由自在に操ることも可能だが、まだ三尾の白夜や極夜では障りを村に集めることができても自分の意のままに操るには不安が残る。


白夜が何も言い返せずに唇を強く噛むと、隣で黙っていた極夜が顔を上げて進言する。


「そのお役目、私ども双子にお任せください。確かに一人ではまだ障りを操れるほどの力はございませんが、二人の妖力を代償にすれば紫苑様がこちらに戻るまで制御することは可能でしょう」


「ほぅ、確かにお前達双子の力を代償にすれば操ることも可能だろう。しかし、万が一白桜が障りを払ったらそれはお前達に返ってくるのだぞ?その意味がわかるな?」


障りや呪詛の類は返されれば全て術者の元に返ってくる。術が強大になるほどその危険は高く強い返しを受ければ最悪命を落とすことにもつながりかなねない。


「承知しております。月天様に降りかかる火の粉を払うのが我らの務め、この身がどうなろうと未練はございません」


極夜が白夜の方へ一瞬視線をやると白夜も頷き二人で深々と月天に頭を下げる。


『どうぞこの命お使いください』


両手を揃えて深々と頭を下げる双子を見下ろし、月天は満足げに微笑む。


「いいだろう、ではお前達に白桜のことは任せる。もし紫苑に白桜の手が届きそうになればその身を犠牲にしてでも阻止しろ」


『御意』


「では、話も済んだことだ。紫苑の待つ無限楼にでも行くとするか」




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