表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/106

77 再会


日が差し込み紫苑の顔に明かりが注がれる。


少し開けたあった窓の外から少し湿り気を帯びた夏らしい風が部屋へと入り込んでくる。


紫苑がまだ少し眠い目を擦りながら窓を開け放つと、部屋の中に溜まっていた空気が外に出てゆき清々しい気分になる。


今日はこの後、小雪達が夢幻楼に登楼し紫苑と会うことになっている。


最後に小雪と話したのは俄の登楼の時が最後だと記憶しているが、俄の本祭で起きた事件に小雪も居合わせていたと聞いたのでその時にもしかしたら話していたのかもしれない。


鬼の時の記憶と人の子の記憶両方をいきなり一つの頭に入れ込んだことで、一部の記憶が未だに混乱していたり忘れている部分がある。


月天は徐々に記憶も馴染み、今の体に順応していくだろうと言っていたが人の子の姿のままだからなのか物事に対する考え方は以前のこの曼珠の園に来る前のものと同じだ。


紫苑は部屋の空気を入れ替えると、手慣れた手つきで身支度を済ませる。


月天の婚約者として丁重に扱われていた時は着替え一つにしても時間も人手もかかっていたので、村育ちの紫苑にとっては今の環境の方がありがたい。


しかし一方では、昔住んでいた鬼の屋敷の記憶が残っており侍女達に任せて大人しく人形のように過ごすことが立場によっては正しいことだとも知っている。


「やっぱり、私は何かに縛られるよりも自由に生きる方が性に合っているのかも」


そんなことを考えていると、部屋の戸が叩かれる。部屋の戸を三回叩いたので小鉄だろう。


昨晩、月天と別れた後元気が出ないままの紫苑の元に小狐姿の小鉄がきたのだ。小鉄は月天から事情は聞いているらしく紫苑に何も聞かずに一晩中側にいてくれた。


そして、小鉄は寝る前に二人だけの取り決めをしておこうと言った。


夢幻楼の屋敷内とはいえ何があるか分からないと警戒した小鉄が念のためにと取り決めたのが扉を三回叩くというものだ。


紫苑が念のために戸の外にある気配を探ると小鉄の気配だけがあることを確認して戸を開く。


「紫苑様!朝食を持って参りました」


小鉄は器用にお盆に乗せて朝食を運ぶと机の上に置いて紫苑に早く食べるように促す。


「今日の予定をお話ししますが、朝食をとりながら聞いてくださって構いませんので」


小鉄がそういうと、朝食後の予定がすらすらと小鉄の口から出てくる。


「朝食後は簡単に夢幻楼の屋敷内についてご説明します、そのあとは昼食をとっていただき、小雪花魁たちが登楼後一階の部屋で謁見することとなっております」


「謁見ってただ会って話すだけなのに大袈裟な言い方するのね」


「いいえ、紫苑様。昨日正式に月天様付きの術者見習いとして迎え入れられた御身は下の里で暮らす妖達よりも遥かに高い地位についたことになります。小雪花魁といえども本来であれば気軽にお会いできない位に紫苑様はついているのです」


小鉄に言われて初めて月天が紫苑を守るためにどれぐらい無理を通して紫苑を側に置いたのか知る。


「私てっきり、屋敷の下働きみたいなものだと思っていたから、そんな偉い身分だなんて」


「紫苑様の謙虚さは素晴らしいですが、ここは幽世、いつまでも油断していてはいつか痛い目に遭いますよ」



小鉄に真剣な表情で言われ、紫苑は体がざわつくのを感じた。


この幽世に来てから何度も危険な目に遭ってきたし、迂闊に周りを信用することの危険さも十分承知しているはずがやはり人の子の体のせいなの気づけば油断してしまうことが多い。


紫苑は小鉄に曖昧に返事を返すと、それ以上何か言われる前に朝食を食べることに専念した。


◇◇◇


小鉄は結局小雪達と会うまで紫苑から片時も離れずずっと側にいた。


やはり、俄の時に自分がついていながら紫苑が連れ去られたことをずっと気にしているのだろう。


小鉄に案内してもらい一階の部屋に行くと、部屋の中心に少し大きめの机と座卓が五つ置かれていた。


紫苑は小鉄から自分が今どのような立場にあるのか聞かされていたので、部屋の中にある旅館のような堅苦しくない雰囲気に少し驚く。


「紫苑様はきっとこの方がいいだろうと思いまして」


紫苑が部屋の中を見て少し驚いているのを察してか小鉄が声をかけてくれる。


「ありがとう、てっきりもっと畏まった感じになっているのかと思ってたから嬉しい」


「小雪花魁達が部屋に入りましたら私は廊下の方で控えていますので、何か困りごとがあれば声をかけてください。あと、無いとは思いますがくれぐれも夢幻楼から出ようなどとは考えないでくださいね」


「大丈夫、月天に何も言わずに姿を消すようなことはしないから」


小鉄は紫苑の返事を聞くと少し安心したようで、紫苑を部屋に残し小雪達を玄関まで迎えに行った。


しばらくすると、部屋の外に四つの気配があるのに気づく。


一つは小鉄のもので、後の三つは紫苑がずっと会いたいと思っていた小雪達のものだ。


「紫苑様、幻灯楼の小雪花魁とその禿の方がみえました。お部屋にお通ししてもよろしいでしょうか?」


「!お願いします!」


紫苑が緊張で思わず声が裏返ってしまうと小さく笑い合う声が聞こえた。


部屋を隔てる障子戸を開け部屋の中へと姿を見せたのは、他所行きの綺麗な着物を纏った小雪と凛と紅だった。


たった一週間ほどしか離れていなかったのに、小雪たちの姿を見ると自然と紫苑の目から涙が溢れる。


小鉄は小雪達を部屋の中へ通すとすぐに廊下へと出ていき、部屋の中には紫苑達四人だけとなる。


「小雪姉さん……」


紫苑がなんとか嗚咽を堪えて小雪の名を呼ぶと小雪はいつもの澄ました顔をやめ、下唇をぐっと噛み締める。


「わっち達がどれだけ心配したと思ってるんだい!全く恩知らずにも程があるよ!」


言葉だけ聞けば棘があるように思うが、言葉よりも今目の前にいる小雪の表情が小雪達の気持ちを表していた。


凛と紅は我慢できずに紫苑に駆け寄り両脇から紫苑に抱きつく。


「霞姉さん!心配しておりんした!」

「そうでございんす!姉さんがいなくなってから大変でありんした!」


わんわんと声をあげて泣く凛と紅を宥めるが、紫苑自身もつい一緒に涙をこぼしてしまう。


ひとしきり再会を噛み締めると、小雪は紫苑と向かい合うように座椅子に座る。


凛と紅もすぐに小雪の両脇に戻り座椅子に座ると、机の横にあった茶器を使ってお茶を入れ始める。


「それで、積もる話もあると思うけどお前がそんな顔をしてるってことは何か悩み事でもあるんだろう?」


いきなり小雪に図星をつかれ紫苑は言葉を詰まらせる。







ここまで読んで読んでいただきありがとうございますー!

そして新たにブクマしていただけた方!本当にありがとうございます!すごく嬉しいです~!


完結までお付き合いいただけると嬉しいです~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ