63 俄二日目 夜 04
今日の投稿2本目❗
「小雪……姉さん……?」
鬼の少女は掠れた声で小雪のことをそう呼ぶと弱々しく小雪の着物の袖を握る。
「霞、お前なのかい?どれだけ心配したと思ってるんだい……」
小雪は自分の腕の中で弱々しく抱かれている紫苑を改めて見て一筋涙を流す。
「姉さん、ごめんなさい。けど、姉さんにまた会えてよかった」
「そんなことはいいから、少し休みな。力を使って疲れただろう?」
小雪が優しく紫苑の髪を撫でると紫苑は気持ちよさそうに目を細める。
小雪と紫苑の様子を見ていた白夜と極夜は信じられないと言うような表情をしてお互い視線を交わしている。
「これはこれは、小雪花魁。紫苑が随分と世話になったようだな」
小雪と紫苑がお互いの再会を喜んでいると、この場に不釣り合いな冷淡な声が響く。
白夜と極夜はその場ですぐに頭を下げ、声の主である月天を迎え入れる。
小雪は紫苑を抱いたまま月天を鋭く睨むが、月天は小雪など気にもとめていないようで紫苑の側に駆け寄る。
「あぁ……こんなに衰弱して可哀想に……すぐに屋敷に戻ろう」
月天が小雪から紫苑を奪うようにして抱きかかえるが紫苑の手が小雪の着物の裾を掴んで離さない。
荒い息をなんとか整え瞳を開き、紫苑は自分を横抱きにする月天を見つめる。
「月天……こんなに大きくなったんだね。お願い……小雪姉さんに酷いことしないでね……」
今にも消えてしまいそうなか細い声で月天にそう言うと紫苑は再び瞳を閉じる。
「紫苑……記憶が戻ったのか?」
月天の問いかけに紫苑はゆっくりと頷くとそのまま自分の身を月天に預ける。
月天は紫苑の身体を強く抱きしめるとすぐに術を使い夢幻楼の自室に通じる門を開く。
何もなかった空を割くようにして現れた大きな円の向こうには広い部屋が見える。
「白夜、極夜。その者は放っておけ、帰るぞ」
月天はそういうと今度こそ紫苑をしっかりと抱え上げ、門をくぐる。
白夜と極夜もそれに続き門を潜ると祠には小雪一人だけが残った。
◇◇◇
月天は自室に戻るとぐったりとしている紫苑を自分の褥に横たえる。
急激に鬼化したことで紫苑の体にはかなりの負荷がかかっているようだ。妖気も弱く神通力も今にも消えてしまいそうなほど弱まっている。
「白夜、すぐに侍女たちに着替えの用意をさせろ。極夜は念のため夢幻楼の敷地の結界が緩んでいないか確認してこい」
双子は頷くとすぐにその場を離れる。
「紫苑……怖い思いをさせてすまなかった。もう大丈夫だ、これからは私がずっと側で君を守ろう」
月天は意識を失って眠っている紫苑に軽く口付けると、自身のもつ神通力の一部を紫苑の体に流し込む。
月天の神通力が流れ込み安定すると先ほどまで紙のように白かった紫苑の顔色に徐々に血色が戻ってくる。
荒く苦しそうだった息も落ち着き、先ほどまで儚くなっていた気配も戻ってきた。
月天が愛おしそうに紫苑の髪を撫で眺めていると、髪の先が徐々に黒く変色していく。
月天が変化に気付き慌てて紫苑の額の角に目をやると先ほどまで生えていた角はいつの間にか消え白髪の美しい髪も毛先から徐々に黒く戻っていく。
月天がなす術もなく紫苑の姿は元の人の子の姿へと戻ってしまった。
「やはり、背中の呪印を消さない限りは完全に元の姿には戻れないというのか……」
月天が苦しそうに表情を歪めていると、廊下から声がかかる。
「月天様、月光花の君のお召し替えにきました。入室してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、入れ」
侍女たちはするすると部屋に入ってくると月天の褥に横たわる紫苑を見ても動じずにテキパキと準備を進める。
「月天様、いくら月天様と言えども嫁入り前の女子の着替えを見るのはいかがなものかと思います」
月天はじろりと侍女を見るが侍女は全く気にも止めずににこにこと笑みを浮かべている。
「身体を清めて着物を変えたら黄金は残りそのまま様子を見ているように」
月天は自分に意見を言ってきた侍女の黄金にそう言いつけると渋々部屋を後にした。
◇◇◇
月天は白夜と極夜がいつも使用する夢幻楼の執務室に入ると、どさりと大きな一人がけのソファに座る。
月天が目を閉じて休んでいると、白夜と極夜の気配が部屋の外に来るのを感じる。
「入れ」
月天はそのままの姿勢で二人を見ることなく言うと双子はすぐに部屋に入り月天の足元にひざまづく。
「結界の方は問題はなかったか?」
「はい、どこも問題なく動いておりました」
極夜がすかさず返事をすると目を瞑って天井を向いていた月天が双子の方を見る。
「白桜と琥珀は園を出たか?」
「はい、御二人とも儀が終了すると側近を連れて下の里のお屋敷にお戻りになりました」
「そうか……」
月天は報告を受けるとそのまま少し考え込む。
「……お前たち二人の処分は紫苑が目覚めてから決める。二人と今日は自室に戻り休め」
紫苑を許可なく連れ出し、あんな目に合わせたのだからこの場で尻尾の一つは刎ねられるだろうと思っていた双子は月天の言葉に驚く。
「どうした?」
双子は慌てて頭を下げると、月天の言うとおりに執務室を出て自室へと戻った。
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