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60 俄二日目 夜

珍しく今日は昼と夜の2本投稿です~!


日は沈み辺りは深い闇に包まれる頃、曼珠の園の中は俄の本祭日ということで様々な妖たちでごったがえしていた。


紫苑を封じ込めた巻物を胸に潜ませ蒼紫は変化の術で妖猫の姿となり何くわぬ顔で大門に向かう。


巻物の中に封じ込められた紫苑はというと……。


◇◇◇


「……うぅ……」


ひどい頭痛のせいで意識を取り戻した紫苑は自分の周りを見て唖然とする。


紫苑が今いる場所はただただ白く天と地の区別さえつかないような不思議な空間に一人佇んでいた。


「誰かいますかー?」


紫苑が思い切って大きな声を出してみるが声は広い空間に飲み込まれ木霊すらかえってこない。


紫苑がここに至るまでの記憶を必死で思い出そうとすると、意識を失う前に見たのは深い青色の髪が印象的な男とひどく傷ついた小鉄の姿だ。


(小鉄くん、大丈夫かしら……きっと今いる場所は何らかの術によって作られた空間のはず)


紫苑は必死に使えそうな術を考える。


紫苑の手元にあるのは札と人形と守刀くらいなものだ。こういった人を閉じ込める術に効果がありそうな札は持っていない。


このまま術に囚われていてはどうなるかわかったものではないし、何よりも自分を秘密で連れ出してくれた極夜が月天に怒られてしまうかもしれない。


「とにかく極夜さんか小雪姉さんに連絡が取れればいいのだけど……」


紫苑は懸命に何か使える術はないかと母に教わった術など思い返していると、一つだけ今の自分で何とか使えそうな術を思い出す。


「確か自分の髪を依代に自分の影を作り出す術だったはず……」


随分と昔に母に教わった術で、術具がなく身の危険が迫った時にだけ使いなさいと教えられたものだ。


術には自分の髪を束にして藁人形のような依代を作る必要があるので、自分の髪をかなりの量切らなければならない。


術者にとって髪は力を宿す大切なものだが、今の状況を考えれば惜しんでいる暇はない。


紫苑は懐から守刀を取り出すと思い切って長く伸ばした髪の一部を切り落とす。


左側だけ不恰好に髪が短くなってしまったが、これで自分の影を作り出すことができる。


己の髪だけを材料に依代を作り上げると最後の仕上げに呪文を唱えて息を吹き込む。


紫苑の髪でできた真っ黒な人形は紫苑の息が吹き込まれるとゆっくり地面に溶け込むようにして一つの影となった。


「私のことがわかる?」


紫苑は恐る恐る自分の影に話しかけると影は紫苑の言葉に反応するようにゆらゆらと揺らめく。


「私はここから出たいのだけど、自力では出られそうにないの……この空間から出て極夜さんか小雪姉さん、月天様でもいいから誰かに私がここにいることを伝えてきて欲しいの」


影は紫苑の話を聞き終えるとゆらゆらと陽炎のように揺らめいたかと思うとその場から姿を消した。


「これで誰か気づいてくれるといいんだけど……」


◇◇◇


その頃、蒼紫よりも先回りして大門前に出た楓と小雪は変化の術を使い適当な妖の姿に化て様子を伺っている。


「やけに鬼の眷属の者が多くないかい?」


小雪が小さな声で楓にいうと楓も同じことを思っていたらしくあたりを見渡して周囲にいる妖たちの様子を見る。


「大門付近にだけやたらと鬼の眷属のものがいますね……きっとこれも蒼紫さんの計画の一部なんでしょう」


「この量の鬼たちが暴れ出したらひとたまりもないよ」


「えぇ、どうにか蒼紫さんだけをこの場から離して紫苑さんを連れ戻す必要がありそうですね」


楓がどうにかして蒼紫を大門から逸れた四隅の神社の方へと誘導できないかとあたりを見ていると建物の屋根から下を見下ろしている白夜と極夜の姿を見つける。


「小雪さん、あれ……」


楓が指さした方向には気配を消して通りを歩く妖たちを見下ろしている双子の姿があった。


「あの双子も紫苑を探してる?」


「きっとそうでしょうね。紫苑さんは妖狐の御当主のお気に入りですから」


「なんで紫苑はそこまで御当主に気に入られているんだい?あの子はここにきてまだ日が浅いっていうのに……」


小雪が今までずっと感じていた疑問を楓にぶつけるが、楓は人差し指を口元に当て小雪に静かにするように伝える。


「あそこ……見えますか?妖猫の男」


大門からはまだだいぶん離れているが、確かに一匹で歩いている妖猫の男の姿があった。


「あの男がどうかしたのかい?」


「あの男、曼珠の園に来たというのに周りの見世には目もくれずこちらを目指して歩いてます。いくら何でも奇妙じゃありません?」


曼珠の園の中は俄の本祭ということもあり見世の前や通りの中も色とりどりの提灯や行灯が空を賑わせており、道行く妖たちは皆辺りを見ながらゆっくりと歩いている。


「ここは私が騒ぎを起こしますので、小雪さんは騒ぎに乗じてあの男の懐にある巻物を奪って術具屋まで逃げてください」


「懐にある巻物って……あんたなんでそんなことわかるんだい?」


「こう見えても私は多くの眷属を従える精霊ですよ、通りに植えられている木々の目を借りたんですよ。それより時間がありません、きっと妖狐の双子たちも仕掛けてくるはずです……頼みましたよ」


楓はそういうと小雪の元を離れ、術を使ってもすぐに分からないような見世と見世の間の細い路地に身を滑らせる。


小雪は楓の指示通りこちらに向かって歩いてくる妖猫の男の方へと向かう。


小雪と男の距離があと少しというところまで来ると、大門の付近に植えられている大きな木々たちの根がうねりを上げて大門前の地面を破り暴れ出す。


通りを歩いていた妖たちは悲鳴をあげて大門とは反対方向へ走り出す。


一気に道を逆走し始めた妖たちのおかげで小雪は怪しまれることなく男のすぐ近くまで忍び寄る。


男とすれ違う瞬間小雪は姿眩ましの術を使い男の懐へ手を滑り込ませる。


(やった!)


小雪が巻物を掴みそのまま立ち去ろうとするが、小雪の手首を男が掴み離さない。


「本当にしつこい方ですね」


小雪が冷気を放ち自分の手首を掴む蒼紫の手を凍らせようとするがそれより早く、一枚の札が飛んできて蒼紫は思わず手を離す。


飛んできた札は地面に張り付くと白い煙を立てて辺りを覆い尽くす。


「はぁ……やはり簡単には行かせてくれませんか」


蒼紫はため息をついてから袖に隠していた小さな笛をひと吹きする。


笛の音は小雪たち普通の妖には聞こえないが鬼の眷属の者たちには伝わったようで、大門付近にいた鬼たちが暴れ始めた。


小雪は何とか巻物を持ってこの場を離れようとするが次々と餓鬼たちが襲いかかってくるため全然前に進めない。


(とにかくこの巻物を持って大門から離れないと)


小雪は辺りを見渡し鬼たちがあまり居ない神社の方へと逃げ込む。


小雪が走って神社のある敷地に入ると後から三つの気配が追ってくるのを感じる。


自分一人で三匹を相手にするのは流石に武が悪い。とにかく姿を隠して楓と合流しなければと考え小雪は神社の祠の扉を開き中へ入る。


(四隅の神社は今朝、加護を授けられたばかり。きっとまだ御当主の妖力の痕跡が強く残っているから隠れていてもバレないはず)


小雪が息を潜めて格子の間から外の景色を見ていると蒼紫と双子の姿が現れる。




ここまで読んでいただきありがとうございますー!

夜にも1話更新してます!

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