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59 俄二日目 本祭 04


小雪が急いで楓のいる細い路地に体を滑り込ませると楓はそのまま大通りに背をむけ細い路地の奥へと進んでいく。


「楓!霞がッ……」


小雪が先ほどあった出来事を楓に説明して協力してもらおうと口を開くと楓は全てを知っているかのように頷く。


「何があったかは眷属(けんぞく)の目を借りて見させてもらいました。凛が珍しく術を使って連絡してきた時は驚きましたが……貴方を見張っていて正解だったようですね」


「凛が……」


「ひどく心配していましたよ。それより、蒼紫さんは大通りの妖の群れに紛れてそのまま大門を抜ける気でしょう。鬼の一族の管理する地に入られると手も足も出ません……先回りします」


楓はそう言うと懐から一枚札を取り出しふぅッと息を吹きかける。


楓の息がかかった札はするすると表面の呪文が浮き出て目の前に広がる細く暗い路地の奥へと進んでいく。


「奉納演舞が終わり、裏路地は再び動き出しました。あの文字を追えば最短距離で大門前までいく事ができます。急ぎましょう」


小雪は無言で楓に頷き返すと二人の姿は暗い路地へと消えていった。



◇◇◇


俄の本祭で最も重要となる奉納演舞はつつがなく終了し、観覧客は口々に御当主様がたの素晴らしい奉納を称えながら帰路についていた。


拝殿には三家の御当主とその側近のみが残っており、そのまま妖狐と鬼の一族の協定の締結へと移る。


月天が従者たちが忙しなく部屋の準備をしている姿を見ていると、白桜の側近である蒼紫の姿がないことに気づく。


「白夜、蒼紫の姿がないようだが?」


「どうやら演舞の最中に姿を消したようで影に行方を探させております」


月天は相変わらず無表情のまま座っている白桜の方を一瞥して思案する。


(このタイミングで蒼紫がいないのはおかしい……紫苑は夢幻楼の月光花の間に閉じ込めているから大丈夫だとは思うが……)


どうも嫌な胸騒ぎがして月天は自分の周囲にいる全ての者の気配を探る。


月天が蒼紫を含め怪しげな者はいないか気配を探っていると一箇所だけ気配が感じとりにくい場所があった。


(これは……極夜の術か?)


「白夜、極夜を呼べ」


白夜は頷き礼をするとすぐに極夜を呼びに姿を消す。


月天が気配を探るのに気を削がれていると、どうやら準備が整ったようで、先ほどまでは拝殿だった場所が今では立派な座敷へと変わっている。


「月天様、準備が整いました。他の御二方も既に待っておられます」


月天は極夜がなぜ術を使っていたのが気がかりではあるが、さっさとこの面倒な仕事を終えてしまった方が良いだろうと判断し部屋へと足を向ける。


月天が廊下を進み部屋の前まで来ると、一つ結界が弾けそこに三つの気配が現れたことに気づく。


一つは先ほどから姿を探していた蒼紫のもの、そしてもう一つは紫苑の側につけたはずの小鉄のもの、そして最後に紫苑のものだ。


月天は一瞬何が起きたか分からずに混乱したが、小鉄の気配が非常に薄くなっているのと紫苑の気配も急に薄くなったのを感じで踵を返す。


「月天様!どこへ行かれるのですか!?これ以上お待たせするのは……」


月天をここまで案内してきた従者が慌てて月天を呼び止めるが、月天の鋭い殺気を向けられて口を紡ぐ。


今にもこの場にいる全ての者を殺し尽くさんとばかりに殺気だっている月天の元に白夜と極夜が姿を表す。


二人はひどく顔色が悪く視線を伏せたまま月天の前に膝まづく。


「白夜、極夜。これはどう言うことだ?紫苑は月光花の間にいるのではなかったか?」


凍てつくような冷たい声色で二人に問いかけると白夜が口を開く。


「申し訳ございません。極夜が紫苑様をこちらにお連れしていたようで……」


月天は怒りを抑えることなく白夜と極夜に向ける。


「私の言葉は随分と軽んじられたようだ。いつからお前はそんなに偉くなった?なぁ……極夜?」


月天の瞳に宿るのは怒りと殺意だけで返答次第で極夜はこの場で命を奪われるだろう。


極夜が意を結したように言葉を発っそうとすると月天の背後にある障子が開き琥珀と白桜が顔を見せる。


「さっきから何をそんなに殺気立ってるっていうのさ、こっちは待ってるって言うのに」


琥珀が早くしてくれとばかりに月天を急かすが、月天は既に協定のことなどより紫苑のことで頭がいっぱいだ。


琥珀の後ろから相変わらずの無表情なまま月天を見ていた白桜が僅かに口角を上げ見下すような笑みを浮かべ月天を挑発する。


「当主であるお前がこの場から去るとはどういう意味を持つかわかっているはず、なぁ……月天?」


「ッ!貴様!」


白桜が一瞬見せた微笑を見逃さず全てを察した月天はこの場で白桜を引き裂かんと言わんばかりに鋭い爪を持った手を白桜に伸ばす。


身じろぎもせず立つ白桜との間に割って入ったのは琥珀だ。


「何があったかは知らないけど、俺の目の前で殺し合いはやめてよね」


「……ッチ!……白夜、極夜、後を追え決して園から出すな。お前たちへの処罰はおって伝える」


月天は怒りのあまり逆立つ毛並みを抑え自分の後ろに控える双子に命じる。


月天が命じると双子は一瞬でその場から姿を消し、蒼紫と紫苑の元へと向かった。







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