表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/106

05 捨てる神あれば拾う神あり

更新遅れました!


目的地まで表から行くと他の妖の目につくからと裏路地からまわってきたのだが、裏路地には見るからに怪しげな風貌の妖やどう見ても紫苑じゃ太刀打ちできないような危険な雰囲気をまとった妖が何匹もいた。


いざと言うときのために道順を覚えておこうと通ってきた道の特徴をぶつぶつと唱えていると、少し前を歩く宗介に道は変わるから覚えても意味がないと言われる。


(道が変わるって……?)


言われたことがわからず来た道を振り返るとまさに道が変わるところだったらしく、たどってきた道の奥がぐにゃりと歪み先ほどまでなかった店の入り口が現れた。


「ここは妖狐の当主の神通力で出来ているから、当主の機嫌次第で道も変わるし見世の位置も変わるんだよ」


「そんな!広い土地を自分の意のままに変えられるなんて聞いたことがありません。そんなことができるなんて神様か……」


「だから妖たちに祀りあげられているんだよ。ここに来るまでも君の手には負えないような危険な妖がいただろう?あんな危険な妖たちでさえも恐れ慄き平伏すのが七妖の御当主様なんだよ」


宗介はそういうと歩みを止めて、着いたよと目の前に現れた大きな建物を指さす。


宗介に連れられてやって来たのは幻灯楼(げんとうろう)と言う名の遊郭だった。


どうやらこの幻灯楼はこの曼珠の園の中でも三本の指に入る遊郭でここに通う客のほとんどはこの幽世でも名が知られた妖ばかりらしい。


「ちょっと!結局あなたも私を遊郭に売る気だったんですね!」


どこか安全な場所に連れて行ってくれるものと思っていた紫苑は連れてこられたのが遊郭としり宗介から逃げようとするが、紫苑が走り出すよりも早く宗介に手を掴まれ見世の中へと連れていかれる。


紫苑の手を引きズンズンと進む宗介に恨みがましい目で訴えると宗介は紫苑をなだめる仕草をして、見世の中で誰かを呼んだ。


宗介が声をかけるとすぐに従業員らしき女性がやって来て宗介に挨拶をする。


「まあまあ、宗介さん裏口から来るなんて珍しい、そこの子はどなたですか?」


「この子は訳あってこの花街に迷い込んでしまってね、見ての通り人間の娘だからお世話になるなら幻灯楼がいいかと思って連れて来たんだよ。女将さんか楼主に会えるかな?」


従業員の女は宗介が連れて来た謎の女である紫苑を爪先から頭の天辺まで何度かジロジロとみると、楼主様は今外に出ているから女将さんを呼んでくると言って宗介と紫苑を空いている部屋に案内して姿を消しす。


案内された部屋に入ると紫苑はすぐに宗介に詰め寄る。


「確かに私は今困ってますけど、遊郭で働くのは無理です!それにここは妖の世界なんですよね?人間の私が働くなんて……」


いくら男女のことに疎い紫苑でも遊郭がどのようなことをする場所かは知っている、困っているとはいえ妖の世界の遊郭で働くなど冗談じゃない。


「いいかい観月(みずき)ちゃん、ここから出るには御当主様にお願いするしかないと言ったよね?御当主様に会えるとしたらこの曼珠の園にある夢幻楼(むげんろう)と言う屋敷に行くしか会う方法はない。しかし、夢幻楼は妖狐の一族以外は基本的に登楼することはできない」


宗介は紫苑を落ち着かせるように淡々と言葉を続ける。


「どちらにしてもその御当主様にはここにいたら会えないじゃないですか!」


「それがね、この曼珠の園にはいくつもの年中行事というものがあって、その行事中は御当主様もこの曼珠の園にある夢幻楼に滞在するんだよ。しかも、行事の初日はこの曼珠の園の中でも番付上位三つに入る見世の花魁たちが御当主様に挨拶をすることが許されているんだよ」


「え……と言うことは、この曼珠の園の中で番付上位に入る幻灯楼で働けば御当主様に会う機会が巡ってくるかもしれないと言うことですか?」


「そうなるね」


宗介に言われたことが本当なら、この幻灯楼で働いていれば村にもどるための機会が巡ってくるかもしれない……紫苑がここに残るべきか逃げて他の道を探すべきか迷っていると宗介は続けて話す。


「けど、妖狐の里の御当主様は気難しい方だから普通にお願いするだけじゃダメだろうね……いい意味でも悪い意味でもこの世界は実力主義、この幻灯楼で何か大きな功績を残すとか見世一番の花魁になって名を轟かすとかしないと話も聞いてくれないよ」


宗介の方を見ると面白そうに瞳を細めながら紫苑の様子を伺っている。


「けど……私が遊郭で働くなんて……」


紫苑が俯き小さな声でそう言うと宗介が紫苑との距離をいつの間にかつめて右手で俯いた紫苑の顔を無理やり自分の方に向ける。


「でも、だって……そんな言葉を並べても君に残されている選択肢は僕の好意を受け取ってここで働きながら人里に戻る機会を待つか、今ここから逃げ出してどこぞの知らない妖に食われるかの二つしかないんだよ?少しは現実を見たら?」


無理やり視線を上げられて目に映ったのは先ほどまでの人の良さそうな表情ではなく、ひどく冷たい目をした妖の顔をした宗介がいた。


急に雰囲気が変わった宗介を目にして反射的に手を振り払い距離を取る、やはり目の前のこの人物も妖、うかつに信用したら酷い目にあうと先ほどまで呑気に信用してそばにいた自分を戒める。


宗介は紫苑が慌てて距離を取るとすぐに再び人の良さそうな笑顔を浮かべて、冗談だよと笑いながらパタパタと手に持った扇子をあおぐ。


二人の間に沈黙が流れるとそれを遮るように廊下から声がかけられる。


「宗介さん、女将さんをお連れしました」


声がかかると宗介はどうぞと言い寛いだまま廊下から女将が入ってくるのを待つ。


女の従業員を連れて部屋に入ってきたのは歳の頃、五十歳前後くらいの黒い着物をビシッと着付けたいかにもやり手そうな女性だった。


女将さんと呼ばれた女性は部屋に入ってくると宗介の前までいき丁寧に挨拶をする。


「いつも幻灯楼を贔屓にしていただきありがとうございます。して、今日は何やら人間の娘の働き先を探しているとか……」


女将は視線をスッと紫苑の方へ向けると舐めるように紫苑の様子を見る。


「この娘を売っていただけるので?」


女将の品定めするような視線を感じで紫苑は少しムッとするが紫苑が行動に移すよりも早く宗介が答える。


「女将、この子を小雪花魁の禿として雇ってくれないか?」


宗介が女将にそう言うと明らかに女の従業員と女将が驚きのあまり表情を変えて息を止めたのがわかった。


女将に無理難題を吹っかけた本人の宗介は相変わらずにこにこと笑みを浮かべ女将の返事を待っている。


「いくら宗介様のご紹介でもそれは……小雪は自分の気に入った者しか側におきませんので」


女将が流石に無理だと断ろうとすると宗介は人の良さそうな笑みを浮かべたまま女将に脅しとも取れる言葉を言い放つ。


「別に幻灯楼が無理と言うなら僕は構わないよ、曙楼に月紗楼も人間の若い娘がいるといえばきっと欲しがるだろうからね……僕は親切心から言っているんだよ?僕に借しをつけておいた方が幻灯楼にとってもいいんじゃないかな?」


女将は宗介の言いたいことを理解したのか、一呼吸おくと女の従業員に何やら指示を出し部屋から退出させた。


「わかりました、ではその娘は小雪花魁の禿としてウチで引き取らせていただきます。その娘の名は?」


「女将、ありがとう。この子は観月と言うんだよ、何か適当な名前をつけてやってくれ。あと、お詫びじゃないけど今日はこのまま小雪花魁のところに上がって行こうかな」


「ありがとうございます、ではすぐに小雪に用意させますのでしばしこちらでおまちください。この娘はこのまま連れて行っても構いませんか?」


「あぁ、よろしく頼むよ」


目の前でどんどん話が進んでいき、紫苑本人の希望などよそにどうやらこの幻灯楼の小雪花魁と言う人の元で働くことが決まったらしいと理解する。


紫苑がどうしたものかとソワソワあたりを見回していると、女将が紫苑の方を向き自分についてくるように言った。


紫苑が部屋を後にする女将に着いてそそくさと部屋を出ようとすると女将にたしなめられる。


「あんた、宗介様にお世話になったんだろちゃんとお礼くらいいいな」


慌てて紫苑は振り返り両手をついて宗介にお礼を言う。


「ここまで連れてきていただきありがとうございました」


紫苑が頭を下げると女将は宗介に商売人らしくにっこりと笑みを浮かべて礼をして部屋を後にした。









偽名のオンパレードすぎて書いてて混乱する私……


ここまで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク・評価・お気に入りしていただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ