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49 俄初日 一日目 09


紫苑がなんとか御当主様と距離をとりドキドキと今にも飛び出してしまいそうな自分の心臓を落ち着かせていると御当主様は脇息にもたれかかり嬉しそうな顔をしてこちらを見てくる。


「私のことは月天と呼んでくれ」


「え……?」


「だから私のことは月天と呼ぶんだ」


「いえ、あの……御当主様をそのような……呼び捨てにするなど」


紫苑はいきなり自分のことを呼び捨てで呼べと言ってくる目の前の人物を見ていよいよ訳が分からなくなってくる。


「私たちは夫婦となるのだ、妻が夫のことを呼び捨てにして何が悪い?」


「いや、立場というものが……って!えぇー!!!」


当たり前のことのようにしれっとした態度で言い放った言葉に紫苑は今日一番と言っても過言ではないほどの衝撃を受ける。


「誰と誰が夫婦になるのですか?」


「紫苑と私が夫婦になるのだ」


「……」


紫苑はあまりの展開についていけずについに現実逃避を始める。


ふらふらとその場から立ち上がり中庭が見える場所に座るとぶつぶつと何かを呟きながら月天に背を向ける。


「おーい!戻ってこーい」


月天は口元に手を添えて紫苑に自分のそばに戻って来るようにというが現実逃避している紫苑の耳には届かない。


「仕方がない奴だ……」


月天はその場から立ち上がると紫苑の後ろに座り紫苑を抱きしめそっと耳元で囁く。


「私を無視するとはいい度胸だ……きついお仕置きが必要かな?」


色っぽく耳元で囁かれ、紫苑は両手で耳を塞いでその場で飛び上がる。


「わ、私を揶揄っているのですか!?」


恥ずかしさや緊張など色々なものがごちゃ混ぜになって思わず月天を突き飛ばしてしまったが、自分が言った台詞に既視感を覚える。


(あれ?この台詞前にも言ったことがあったような……)


紫苑に突き飛ばされて畳の上に転がる月天はその場でごろんと体制を変えて横になりながら面白そうな笑みを浮かべてこちらを見ている。


「あ……そうだ。宗介様にも同じことを言ったんだ……」


紫苑は今まで感じた既視感の正体がわかると思わず口に出して言ってしまう。


それを聞いていた月天は感心したように小さく声を上げると身を起こす。


「気づくのはもっと後になると思っていたが、その姿でも洞察力はなかなかあるようだ」


月天はそういうと左手に持った扇子を広げて顔を隠すと一瞬で宗介のものへと変化させる。


「そうだよ、僕だよ霞」


紫苑の目の前には先ほどまであった月天の顔ではなく黒髪に濃紫色の瞳をした宗介の顔があった。


驚きのあまり口をぱくぱくとしていると再び扇子で顔を隠しあっという間に元の月天の顔へと戻る。


「宗介様が月天様で、月天様は宗介様で……」


紫苑があまりにも色々とありすぎて混乱していると月天は側に寄って、よしよしと紫苑の頭を撫でる。


「宗介とは私が曼珠の園へ降りるために作った存在だ。実際にそのような者はいない」


「今まで私たちを騙していたんですか!?」


紫苑が徐々に冷静さを取り戻してくると、今まで宗介と過ごしたことを思い出して悔しさやら悲しさやらが込み上げてくる。


「よせよせ、泣かないでおくれ。流石にこの姿のままでは下の里では目立ちすぎる。紫苑を騙そうとしたわけではないんだよ」


月天は瞳に涙を溜めて自分を睨みつける紫苑をあやすように猫撫で声で機嫌を伺う。


紫苑がなんとか落ち着きを取り戻すと、月天と距離をとって座り直す。


自分の側から紫苑が離れて座ったため月天が側に行こうと手をつくが紫苑の言葉でそれを止められる。


「それ以上近寄らないでください。まずはきちんと全てお話してください。そうじゃなければ私は自力でここを去ります」


紫苑が真剣な表情で月天を見つめてそういうと月天は参ったなぁ……と呟き頭にある耳をぽりぽりとかく。


「仕方がない。本当は姿見の鏡を使ってからと思っていたが……本当のことを全て話そう」


月天はそういうと話が少し長くなるからこちらにおいでと自分の近くに大きく分厚い座布団を用意して手招きする。


紫苑は一瞬躊躇うがここで拒否しても意味がないと思い従う。


「私と紫苑の出会いは今から百三十年以上前のことになる……」



ここまで読んでいただきありがとうございます!

次回は過去のお話になるので短編読んでいる方はあー!そう言えばそうだね~って感じで読めるかと…。


引き続きお付き合いいただけると嬉しいです~!

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