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14 動き出す影


紫苑が座敷を後にすると凛と紅が心配そうな表情をして小雪のもとにやってくる。


「姉さんあんな言い方しなくても……」


「霞姉さんはきっと甘え方がわからないんでありんすよ」


紅と凛はここに来てから一度も弱音を吐かず、妖に襲われた時さえも泣き言も言わずにいた紫苑がほろほろと何も言わずに涙をこぼしたのをみて幼いながらも胸が締め付けられるような気分になる。


「だからだよ、きっとあの子は今までもずっと独りで抱え込んでたんだろうさ。けどこの幽世からでて人里に本当に戻りたいなら独りでは到底無理な話さ。わっちのような生粋の妖でもこの曼珠の園から出るのがやっとなのに人間の非力な小娘が自分独りで何ができるってんだい」


小雪は険しい表情をして煙管を吹かしながら先ほど見た紫苑の泣き顔を思い浮かべる。


(前の時もそうだが、泣き方も忘れるほど独りで抱え込むなんていったいどんな育ち方をしたんだか……)


声もあげずにただぽろぽろと涙を流してでて行った紫苑のことを心では心配しつつも、先ほどの失態で接待がダメになったユウキが戻ってきたらどう上手く話をまとめようかと思案する。


凛と紅がひっくり返った御前や食器類を片付けていると廊下からユウキ様が戻りましたと声がかかる。


小雪は手早く着物を整えると先ほどまでの険しい表情を消し、申し訳なさそうな表情を浮かべてユウキを迎え入れる。


「小雪花魁悪かったね、どうもあの二人は短気なところがあってね。霞は大丈夫だったかい?」


「いいえ、こちこそすいんせん。 霞は僅かばかり気分がすぐりんせんので部屋に下げんした」


お職花魁ともなると滅多なことでは頭を下げることはないのだが、目の前にいる男はどうにも裏がありそうな雰囲気を感じる。


下手に目をつけられるよりはここは頭の一つでも下げて穏便にことを済ませたほうが霞のためにもいいと思い小雪は深々と頭を下げた。


「いやいや、人の子と分かっていながら座敷に呼んだ私が悪い。また後日、霞にも直接会って詫びたいから時間をあけておくれ」


「まことユウキ様はお優しい。そういいますれば 大店の旦那さんが霞から鬼のにおいがすると申しておりんしたがユウキ様は何か気づきんしたかぇ?」


ユウキの正体が犬神ならば霞に会った時から気づいていたはずだ、しかしユウキは何も言わないところか観月のことをただの人間の娘と言ったのだ。


「さてね、私には鬼の匂いなど感じなかったが?だいぶ酒も進んでいたし間違えたのではないか?」


今日ユウキが連れてきた妖は入道と濡れ女に近い蛇の姿を持つ妖たちだ、蛇に近い姿をした妖は総じて鼻がよく効くため酒が入っているからと言って人間の匂いと鬼の匂いを間違えるなんてことは絶対にない。


(あまり深く首を突っ込まない方が良さそうだね……)


これ以上その件については話す気はないと言わんばかりに笑顔を向けてくるユウキに小雪も笑みを返して今日はこの後どうなさいます?と聞く。


「今日は小雪花魁も霞が心配だろうからこれで帰らせてもらうよ、また後日来るからその時は霞も座敷にあげておくれ」


ユウキはそういうと座敷を後にした。



小雪はユウキが帰ると凛と紅にもういいから観月の様子を見てやっておくれと頼み自分は自室で今日あった出来事をまとめて手紙に記し宗介に送る。


(鬼の匂いねぇ……)


どこからどうみてもただの人間の娘にしか思えないが、ただの人間にしては色々と珍しい術を扱える紫苑はこの見世にきた時から何かひっかかる感じがあった。


もし鬼の血が流れているなんてことが分かったら人里に戻るところか、鬼の一族を嫌う妖狐の一族に殺されてしまうかもしれない。


「厄介なもん拾っちまったねぇ……」


小雪の呟きは暗い闇夜に吸い込まれていくのだった。


◇◇◇


場所は変わってここは上ノ国にある妖狐のお屋敷。

屋敷の母屋には濃藍の着流しをゆるく着付けその上から白の長羽織を肩にかけた月天が今しがた曼珠の園から届いた手紙を読んでいた。


「鬼の匂いか……」


初めて観月と会った時にも僅かに鬼の匂いを感じたが、蛇の妖に連なる者がそう言ったとなるとやはり観月はただの人間ではなく妖の血が混ざっているのかもしれない。


しかし混ざる血が鬼となるとただの妖と人間の混血児と言うだけでは済まなくなってくる。鬼の一族は血脈を重んじる傾向が強く、外部から嫁をとることは滅多にない。


それこそ今から数百年前に一度だけ、当時の鬼の当主が人里に降りたときに見染めた人間の巫女を召し上げた時以外に人間の女を娶ったと言う話は聞いたこともない。


(やはり観月はシオンと関係がありそうだな……)


「白夜、極夜。下の里にある犬神の一族にユウキと言う男がいるか調べておくれ、あとこの数百年で鬼の一族の中で人間の女を娶った者がいないかもね」


「畏まりました。月天様、鬼の当主より協定の件で催促の手紙が来ておりますがそちらはいかがなさいますか?」


ここ百年ほど鬼の一族と妖狐の一族は一触即発の険悪な仲のままだ、それが数日前にいきなり今までのことは水に流して協定を結び直そうと鬼の一族から提案があったのだ。


正直、七妖の中でも特に神通力の高い鬼の一族とは荒波を立てずに大人の関係を築きたいところだが、過去の因縁がそれを邪魔する。


月天が幼い時、現在の鬼の当主の襲名披露に参列するため鬼の里に行った時、月天と現在の鬼の当主である白桜は里を巻き込んだ大騒動を起こしたのだ。


激しい激闘の末、月天は重傷を負っただけではなく当時の当主の側近であった青鬼の妖に神通力を抑え込まれる呪印まで受けその呪いは百年以上経った今でも月天を苦しめている。


「この時期にいきなり協定など何か裏があるに違いない。表向きは話を進めておいて引き続き動きを探るように」


白夜と極夜は頷くとすぐにその場から姿を消した。







ここまで読んでいただきありがとうございます。

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