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00 序章

初めまして!前回連載していた短編小説の本編となります!これからよろしくお願いします!

 清搔(すがが)きが鳴る暮れ六ツ時、大門から続く仲之町(なかのまち)にはずらりと見世が立ち並び怪しげな光を放つ。


 格子越しに手招きする遊女たちは誰もが美しく見る者の足を止めさせる。


 ここは神から与えられし土地の上ノ国(かみのくに)にある里の一つである妖狐の里が治める花街だ。


 深い堀と高い塀に囲まれたここには人間や妖といった多種多様なモノが行き来する。


 唯一外の世界と通じる大門から仲之町をしばらく進むと正面には朱色の立派な太鼓橋がかかっており、そこだけ灯篭や提灯などの灯りで昼間のごとく煌々と大きな楼閣が照らし出されている。


 ここはこの花街、曼珠(まんじゅ)の園にある夢幻楼(むげんろう)だ。楼閣をぐるりと取り囲むように曼珠沙華の花が咲き乱れ(うつつ)を忘れさせる様な風景が広がる。


 夢幻楼は曼珠の園の中で唯一、御当主様が足を運ぶ聖域に近しい建物だ。そんな普通の妖では登楼することさえ叶わない夢幻楼の一室に紫苑(しおん)はいた。


 紫苑の目の前にいるのは七つの尾を持ち神にも近しい存在として妖狐の里で祀り上げられている月天(そうま)だ。


 ふかふかの大きな三人がけのソファに押し倒されるような格好で紫苑はただただ、なす術もなく月天を見上げる。


 大窓から入り込む外の灯りに照らされた月天の美しい白銀の髪がサラリと肩から滑り落ち、見る者全てを魅了するような美しい顔に影を落とす。


 紫苑を見つめる瞳は黄金色で獣の如き輝きを纏い目の前の獲物を逃す気はなさそうだ。


「あと何度季節を繰り返せば紫苑に会えるのかと来る日もくる日もただ一人で待ちわびた。桜が散る季節も、星が降り注ぐ季節も……どの季節も紫苑がいなければ何も意味をなさない」


 月天の美しく整えられた指先が紫苑の髪を一房救い上げ口元に近づける。


「この髪もその瞳も、愛らしい唇も全て私に捧げてくれるだろう?なぁ、紫苑……」


 月天の美しい顔が今にも唇が触れそうなほど近くまで近づけられ、空いた手で優しく顔の輪郭を撫でられる。


 月天のひんやりとした指先が紫苑の唇を軽く撫でると月天はその瞳に色を含ませる。


 紫苑は両手で懸命に月天の体を押し返すがびくともしない、それどころかなんとかしてこの場から逃れようとする紫苑を眺めて月天は意地の悪い笑みを浮かべる。


「そ、そんなこと言われても……あなたのような高貴な方の側にいることはできません」


 紫苑の言葉が気に入らなかったようで、月天は少しムッとした表情を浮かべると片手で紫苑の両手を長椅子に縫い付けるように押さえつけ、そのまま耳元で囁く。


「あなたではない、月天だ。もう月天とは呼んでくれないのか?」


 甘く恋人に囁くような声色で言うと月天はそのままぺろりと赤い舌で紫苑の耳元を舐める。


「なっ!なななんてことを……!」


 これ以上赤くならないだろうと言うくらいに顔を真っ赤にした紫苑はさっきよりもさらに慌てふためき、訳の分からない言葉を言いながらこれでもかと言うくらいバタバタと抵抗する。


 紫苑が全力で抵抗すると両手が解放されて、自分の上に覆いかぶさっていた月天が笑みを浮かべて長椅子にもたれ掛かるように座った。


 紫苑は乱れた襟元を両手でかき合わせながら月天から距離を取るように長椅子の逆端に身を小さくして座ると、月天はまるで子猫と戯れるかのように優しい笑みを浮かべて手招きするが紫苑は動かない。


「その様子だと、要らぬ虫がついたと言うことはなさそうだな……。まあ、いい。これから紫苑は私と一緒に過ごすことになるのだからいくらでも時間はある、今まで待った時間に比べればこれくらいのお預け大したことではない」


 月天は大きな瞳に涙を浮かべながらこちらを見る紫苑を見ると、ソファから立ち上がり小さく膝を抱える紫苑の頭を優しくひとなでして部屋を出て行った。



 一人部屋に残された紫苑は月天の気配が完全に部屋の近くから消えたのを確認して大きなため息をつく。


(なんだってこんなことになってしまったのだろうか……)


 紫苑がこの幽世にある花街に連れてこられたのは今から二ヶ月ほど前に遡る……。










ここまで読んでいただきありがとうございます。

十万文字は超える長編になる予定ですので最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

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