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悪役令嬢と幽霊のお告げ  作者: 岩上翠


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40.救出の行路

「そんな…先に出撃した騎士達は…? それに王の元へ行くには、どうしたって外へ出ないと…!」


ソフィアが顔色を失う。


「外にいる騎士は皆、場数を踏んでいる。魔獣の数が増えたってすぐにやられるような事はないさ。それに団長が総指揮を取る以上、信じて任せて問題はないよ」


イェルクさんが冷静に部下であるソフィアをなだめる。

エアハルト様が頷き、後を引き取った。


「問題はどうやって俺達が王のいる離れへ行くかだが…ソフィア、結界魔法を張りつつ移動する事は可能か?」

「それは…すみません、結界を張りながら移動するとなると、わたしの力では自分自身の周囲に小さな結界を張る位しか出来ません」

「…となると、やっぱり外に出た途端20体からの魔獣に群がられて、身動きできなくなっちゃうよなあ。どうする、エアハルト?」


イェルクさんが軽い調子で言った。口調はいつも通りだけど、顔つきはかなりピリピリしている。

同じように難しい顔をしているエアハルト様が言った。


「…今考えられるのは2つの手段だ。1つは当初の予定通り各自騎乗し、魔獣を振り切りながら全速力で離れを目指す。もう1つは馬車に弓兵と攻撃系の魔導士を配置し、馬車全体に結界を張りつつ前方の魔獣を攻撃しながら前進する」

「前者は死にに行くようなものだし、後者は残念ながら、馬車も魔導士も本部を出払っちゃってるってのがネックだな」


腕組みをしてイェルクさんが呟いた。


「分の悪い賭けだが、王を助けるには魔獣達と命懸けの乗馬レースをする以外、方法はなさそうだな」


ソフィアが悲愴な表情で唇を噛む。


どうしよう。

どうすればいいんだろう。

外はリアル『ジュラシック・パーク』みたいな、恐ろしい生物が蠢く危険地帯になっている。

だけど、早くヨハン王を助けに行かないと、間違いなく王妃達に殺されてしまう。

王の死は魔獣のせいにされて、おそらく、「魔女」だと噂の立てられたソフィアに罪がなすりつけられる。


そうしたら今の王家は終わりだ。

ディートリンデとケリー男爵という悪党どもに乗っ取られて、貴族も平民も、誰もその事を知らずに王家を敬い続ける。


想像するだけで、ぞっとした。




「…ここでこうしていても仕方がない。行くぞ」


エアハルト様がそう言って廊下を歩き出した。

イェルクさんも軽くため息をつき、それに従う。


「ま、それしかないよなあ。それじゃあ、麗しい騎士の役目をしっかり演じますかね」


イェルクさんは屈託のない笑顔で、ソフィアに手を差し出した。


「行こう、ソフィア。君の事は、俺達が全力で護るから」

「…でも…、」


躊躇うソフィアに、イェルクさんが真剣な眼差しを向ける。


「…シャルロット王女。王を助けたいんじゃないのか?」


ソフィアの瞳が震えた。


ほどなく、そこに決然とした光が宿り、覚悟を決めた声が響いた。


「…行きます。よろしくお願いします」


イェルクさんがにっこり笑った。


「喜んで」




わたしは痛いほどの動悸を感じていた。


みんな行ってしまう。

外は魔獣で溢れているのに。

無謀すぎる出撃だ。生きて離れにたどり着ける可能性の方が低い。


――もしかしたら、これが最後のお別れになるかもしれない。


先に歩き出したエアハルト様が、廊下の角を曲がった。

姿が見えなくなる前に、わたしはとっさに彼を追いかけた。


「待ってください!」


エアハルト様が立ち止まり、こちらを振り返った。


その大きな体が、温かな手が、金茶色の短めの髪が、優しい青灰色の瞳が――彼のすべてが、たまらなく好きだ。

婚約破棄したとか、まだ怒ってるかもしれないとか、そういう事は全部吹き飛んでしまって。

ただ、死んでほしくなかった。絶対に。

だけど同時に――彼ならどんなに危険な任務だって、絶対に投げ出したりはしないだろう。


わたしは、せめて武運を祈ろうと口を開きかけ――。


そのまま、あんぐりと口を開いた。


エアハルト様が訝しげな顔をする。


「…リーゼロッテ? 急いでいるんだが…」

「あ…あの…そ、そこに…」

「そこ?」


わたしはエアハルト様の背後を指さした。

薄暗い廊下の片隅。


そこには、フェリシテ様が立っていた。


白い手で、おいでおいでとしきりに手招きをしている。


エアハルト様が振り返って背後を見た。


「…何もないが」


わたしは泣きたくなった。


幽霊が手招きしてるってことは…。

おいでおいでして、呼んでるってことは…。


つまり、あの世に呼んでるんですかフェリシテ様!?

エアハルト様がもうすぐ死んじゃうって、そういう意味ですか!!?


すぐにイェルクさん達も追いついて、わたしとエアハルト様を交互に見やる。


「…何やってんの? リーゼロッテ」


エアハルト様の後方を指さしたままのわたしに、イェルクさんが変な顔をして尋ねる。

誰一人として、フェリシテ様に気付いた様子はない。

その間にも、フェリシテ様の幽霊はしきりに手招きを続けていた。

わたしは半ばパニックになって叫んだ。


「やめてください、フェリシテ様! みんなを連れて行かないで!!」


「フェリシテ様…?」

「嘘…いるの、そこに?」

「…お母、様…?」


わたし以外の人達が、見えないフェリシテ様を見つめる中。

彼女はゆっくりと口を開いて、わたしに言った。


「急ぎ、わたくしについて来てください。王族のみが知る隠し通路へご案内いたします。そこを通って、陛下の元へ」


「…か、隠し通路…?」


思ってもみない言葉に拍子抜けする。

な、なんだ…黄泉の国へ手招きしてるんじゃなかったのね!


「リーゼロッテ様、フェリシテ様はなんと?」


ソフィアが勢い込んで尋ねてきた。

そうだ、もたもたしている暇はない。


「王族のみが知る隠し通路へ案内するから、ついて来て、と。陛下の元へ行けるみたい」

「本当か!」


エアハルト様はイェルクさんと視線を交わし合った。

イェルクさんがピューと口笛を吹く。


「さすがソフィアの母上、気が利くぜ。じゃ、急ぎますか!」



〇〇〇〇〇



わたし達はほとんど走るようにしてフェリシテ様の後をついて行った。

騎士団本部の長い廊下を渡り、階段を下り、さらに下りて地下室へ。


地下室は倉庫になっていて、古い武器や防具の入った木箱や、書類の束などが雑多に積まれていた。

その一見するとがたくたの山のような場所へとフェリシテ様はまっすぐ歩いて行き、すっ、とその中へ消えた。


「あっ…フェリシテ様!?」

「どうした、リーゼロッテ」


ここへ来る途中、廊下の棚から防具をひっつかんでいたエアハルト様が、手早くそれを身につけながらわたしに聞く。


「あの…この中へ入ってしまいました」

「この中?」


エアハルト様ががらくたの山を一瞥して、ちょっとだけ笑う。


「ああ、地下貯蔵庫だな。今は誰も使っていないから、どんどん上に物が積み上げられてしまったが」

「この山をどかせって?」

イェルクさんがうんざりしたように聞く。

「そのようだな」


答えながら、エアハルト様は早くも木箱や紙束をどかし始めた。

イェルクさんとその部下の人達も、やれやれという顔でそれを手伝う。

見事な連携プレーによって、がらくたの山は瞬く間にきれいに片付き始めた。

わたしとソフィアが手を出す隙などほとんどゼロだ。


彼らの手際の良さに見とれているわたしに、ソフィアが遠慮がちに話しかけてきた。


「あの…リーゼロッテ様…わたしの、お母様は…どんな方なのですか?」

「ソフィア」


不安と期待の入り混じった目に見つめられる。

そうだよね…自分のお母様の事、そりゃあ気になるよね。

わたしはほほ笑んで言った。


「とてもおきれいで、聡明で、お優しい方よ。あなたの事を心配して、いつも見守っていらっしゃるの」

「わたしを…?」

「そうよ。宮殿の離れにある星の間に、フェリシテ様の肖像画が飾られているわ。これが終わったら、一緒に見に行きましょうね」

「…はい!」


その時、撤去作業が終わった。

エアハルト様が床に設置された四角い蓋の取っ手を引き上げる。

ずしん、と音がして鉄製の重い蓋がどかされ、人が一人通れる程の四角い穴が、ぽっかりと開く。

ソフィアが急いで倉庫にあったランタンに火を灯し、わたしに手渡してくれた。


わたしが一番最初に簡素な梯子段を下り、フェリシテ様を探した。

貯蔵庫の中は真っ暗闇だ。

ランタンをかざしてみると、何もないかび臭い空間の隅に、フェリシテ様が佇んでいた。

そちらへ駆け寄る。

頭上の倉庫から、他の人達も一人ずつ下りてきた。


「フェリシテ様!」


側まで行くと、彼女は壁の窪みを指さした。

わたしは勢い込んで尋ねた。


「ここから離れへ行けるのですか?」

「はい。この窪みに手を当て…」

「こんな感じですか!?」


言われた通り、急いで窪みに手を当てる。

手はぴったりと嵌まったけど、何も起きない。

フェリシテ様が穏やかに言った。


「ごめんなさいね。ソフィアが、です」

「あ…すみません」


一人で先走ってしまったわたしは赤面しながらソフィアを呼んで、場所を譲った。

王族のみが知る隠し通路だもんね…そりゃあ王族しか開けられないよね!


ソフィアが窪みに手を当てると、ジッ、と通電したような音がして、目の前の何もない壁が、見えないハサミで長方形に切り取られたかのようにふっと消えた。

同時に、長く整然と奥へ延びる通路が姿を現す。

ご丁寧にも、通路の壁には等間隔の燭台まで明るく灯っていた。

だけどそこにゆらめく炎は、間違いなく魔法で作られた炎で。


これも結界魔法、なんだろうか。

それがあまりにも眩惑的だったから、わたしもエアハルト様もイェルクさん達も、一瞬言葉を失った。


ソフィアは振り向くと、呆けたようになっているわたし達に向かって、力強く言った。


「さあ、行きましょう!」

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