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悪役令嬢と幽霊のお告げ  作者: 岩上翠


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29.作戦会議(後編)

この程度で追い詰められるなんて思ったのが間違いだった。


王妃の権力は強大なのに、わたしは丸腰も同然。

そしてわたしは既に王妃に目を付けられている。




誰も、リーゼロッテ(わたし)を助けてはくれないのに――。







不意に、右手に温もりを感じた。


円卓の下で、わたしの右手が、大きな手にぎゅっと握られている。


驚いて右側を見ると、エアハルト様はまっすぐ正面を向いたままで。

口を開いた。


「…これまでのところ、有力な証拠も証人も皆無ということだな。しかし、このまま王妃を野放しにしておくわけにはいかない」


わたしの手をそっと離すと、エアハルト様は一同に向けて、滔々と話し出した。


「王妃は以前から、王立騎士団の廃止を王に進言している。そのため情報班の騎士達が密かに王妃の内偵を続けていたが、今回の件によって王妃が王国内、さらに王宮内に魔獣を呼び込み、王に叛逆するつもりであることが判明した。魔獣討伐を使命とする王立騎士団としては、総力を挙げてこれを阻止しなければならない…そうですね、団長?」


エアハルト様に水を向けられ、ギュンター様は難しい顔をしたまま頷いた。


「ああ、もちろんだ。オラシエ王国に仇なす逆賊ならば、たとえ王妃といえども魔獣と同じくわれらが王立騎士団の敵。きっちりと対処せねばならん」


ぽかんとしているわたしを尻目に、ギュンター様はイェルクさんに指示を出した。


「イェルク、早速だがお前の人脈を使って王妃周辺の情報を集め、陛下の御身の安全を確保してくれ」


「サーイェッサー! これからは本気で王妃と対決ってわけですね? 相手にとって不足なし! 腕が鳴るぜ!」


イェルクさんが楽しそうに指をポキポキ鳴らすと、ソフィアが呆れ顔で言った。


「師団長、子どもの喧嘩じゃないんですから、慎重にお願いしますね。団長、わたし達魔導士隊は、引き続き王宮城壁の結界の二重化に取り組む、ということでよろしいですか?」

「うむ、頼んだぞ」


ギュンター様は、急な展開について行けずにいるわたしの方を見て、ニヤリと笑った。


「いや、すまんな。証拠だなんだと言って不安にさせてしまったかな? 元々、わが騎士団としても王妃とは対立しており、尻尾を掴もうと独自に調査していた。だが、事ここに及んで、いよいよ悠長なことは言っていられなくなった。今後は王立騎士団が本腰を入れて対応するから、安心しなさい」


「…はい!」


よ、よかった!

なんだ、そういうことだったのか。最初から王立騎士団は王妃と対決姿勢で、わたしの作戦なんかなくても、王妃をどうにかしようと動いていたんだ。


…あれ、それなら、わたしなんかが騎士団のお偉方を招集して会議を開くなんて、もしかして時間と労力の無駄だった?

結局、何も有力な情報は提供できなかったし!

忙しいエアハルト様達の貴重な時間を、むざむざ浪費させてしまったのかもしれない…!


「ごめんなさい。そうとは知らずお呼び立てしてしまい、出過ぎた真似をいたしました!!」


慌てて謝罪すると、イェルクさんが明るく言った。


「何言ってんの、君が謝る必要はないよ。むしろ感謝したい位だ。君がソフィアを公爵邸に呼んで話をしたからソフィアも俺達に王妃の話を打ち明ける気になったんだし、こうして腹を割って会議を開いたことで、こちら側の手持ちの札も明白になった。…ま、俺達は何も持ってない、ってのがわかっただけだけどさ。それなら、これから集めればいいだけだから」


イェルクさんがウインクしてくれる…いい人だ!


「さて、それではこの件については、引き続いて各自、鋭意対応を頼む。何か新しい情報が入ったらすぐに知らせるように。以上で本日の臨時会議は解散とする」


ギュンター様が結びの言葉を述べて、円卓に着いていた一同はそれぞれ立ち上がった。




わたしはすかさずソフィアに話しかけようとした。

でも、イェルクさんの方が早かった。


「ソフィア、裏門の結界の件だけどさ」

「はい。裏門については第二班が担当していて…」


二人は話しながら、会議室を出て行ってしまった。

くっ、今日こそはソフィアとエアハルト様の件について話したかったのに…。


「どうした、リーゼロッテ」

エアハルト様に声をかけられ、わたしはぎくりとした。

「いえ、あの、ちょっとソフィアに用事があって…」

「では、呼び戻すか?」

「いいえ! また今度で結構です!」


わたしは慌てて断った。

ここに呼び戻してもらっても困る。

当のエアハルト様がいる前で、ソフィアとエアハルト様がどうなってるのかなんて話、絶対に聞けるわけがない!


それに今、エアハルト様はわたしのことを「ロッテ」じゃなく「リーゼロッテ」と呼んだ。

彼はきちんと公私を区別する人だ。

所構わず「トリス」を連発するわたしのお父様と違って!


だから騎士団本部にいる今は、あんまりエアハルト様に面倒をかけちゃいけない――と、思っていたら。


「そうか。…俺はこれから執務室で仕事をするが、お前も来るか?」

エアハルト様が、思いがけないお誘いをしてくれた。


「いいんですか?」

「ああ。退屈かもしれないが」


急に、さっき握られた手の温もりを思い出して、頬が熱くなる。

あれは、わたしを励ましてくれたんだよね? 後でお礼を言った方がいいのかな? でも改めて言うのも恥ずかしいような…。


だけどどっちにしても、エアハルト様が仕事をしている姿は見てみたい!

ぜひ行きたいです、と言おうとしたら、ギュンター様の声が飛んできた。


「ちょっと待った。リーゼロッテには、私に付き合ってもらいたいんだが」

「…どういうことですか」

エアハルト様の表情が、急激にかき曇る。


「そんな怖い顔をするな。老齢に鞭打って友人の倅に加勢し、でかい翼竜と戦って腰を痛めたものでな。美しいお嬢さんに、ちょっとそこまで車椅子を押してもらいたいだけだ」

わたしは慌てて言った。

「もちろんですわ、ギュンター様! 気がつかなくて申し訳ありません。どこへなりと、このわたしがお連れいたします!」

エアハルト様も、低い声で言う。

「…わかりました。リーゼロッテ、すまないが、よろしく頼む」

「ええ、お任せください!」


眉間に皺を刻んだまま、エアハルト様は会議室を出て行った。

それを面白そうに見送っていたギュンター様が、わたしを振り返って言った。


「…では行こうか、リーゼロッテ」

「はい。どちらへ?」


ギュンター様は、口の端を上げて笑った。


「王の元へ」

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