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悪役令嬢と幽霊のお告げ  作者: 岩上翠


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23/50

23.状況を整理してみる

マルゴット様が退出されてからしばらくの間、わたしはベッドに横たわり、ぱんぱんに膨れたお腹を休めていた。


ちなみにハーマン先生に処方された丸薬はちゃんと飲んだ。

というかマルゴット様に飲まされた。

やっぱりマルゴット様は優しいだけじゃなく、厳しい方だった。側に立つ彼女の無言の圧力で、わたしは1粒も残さず薬を飲まされてしまった。

うええ、ちょっと吐きそう。


だけど、丸薬のおかげか肋骨の痛みはほとんど感じなくなった。

ハーマン先生を見直さざるをえない。


暇だし、痛みも感じず、3日も眠ったらしいから頭はすっきりしている。

わたしの考えは自然、礼拝堂襲撃からの一連の出来事へと向かった。

天上に描かれた美しい植物パターンを眺めながら、頭の中で状況を整理してみる。




幽霊が告げた、礼拝堂への魔獣来襲。

王立騎士団本部の一室から、わたしを連れ出そうとしたイレーネさんと、アンヌさん。

わたしはイレーネさんを警戒していたけれど、実際はアンヌさんこそが王妃の手下だった。


…ということは、イレーネさんは本当にただ単に、エアハルト様とわたしの話を聞きたかっただけということ?

わたしが女官の方々に話せるようなことなんて…話せるようなこと、なんて…!


エアハルト様と二人でいるときに起きたあれこれを思い出して、勝手に顔が熱くなる。

いや待って。別にエアハルト様とはそういうんじゃない。

紳士で礼儀正しい彼は、記憶を取り戻したわたしがソフィアに嫌がらせをせず、騎士団の魔獣対策なんかにも協力しているから、わたしにも親切に振る舞ってくれているだけだ。


単にエアハルト様がすごく優しいというだけで。

すごくすごく優しい、というだけで!!


わたしはシーツをぐっと握り呼吸を止め、ベッドの上を転げまわりたい衝動と必死に戦った。ゴロゴロ転がったりしたら、いくら痛み止めを飲んでたって今度は激痛で悶絶する。


十秒後、わたしは止めていた息をぷはっと吐いた。


…はい。

イレーネさんは本当に王妃と関係ないのか今度それとなく探りを入れてみるということで、この案件については終了!!




次に、王妃はなぜわたしを西の離宮へ連れてこさせたか。

わざわざあの場所で、王妃はわたしを待っていた。

しかも、あの恐ろしくて忌々しい大男、ホルガーを傍に控えさせて。


護衛の騎士は見当たらなかった。

王妃と女官のアンヌさん、庭師のホルガーだけ。

王族のようなやんごとなき方々は、普通、王宮内のどこへ移動するにしても護衛を連れて歩く。

それを下がらせていたということは、護衛にも知られたくないような後ろ暗いことをしようとしていた、ということ。

――たとえば、わたしに「予知魔法だと嘘をついて王立騎士団をマルムへ差し向けさせろ」という命令をして、断ったら殺す、とか。


ホルガーの手の感触が一気によみがえり、わたしは気分が悪くなった。

…ええい、腹立たしい。

この案件も終了!


…だけど、ふと何かが頭にひっかかった。

これは、さっきマルゴット様と話していたときにも気になった何かだ。

喉に刺さった魚の小骨のようで落ち着かない。

何だろう、ええと、王妃のことと関係があるとしたら…。


『誰かに言えば、あなたと、あなたの家族の命はないと思いなさい』


王妃はわたしに、そう口止めをした。

だけどわたしが逆らったから、ホルガ―にわたしを締め上げさせた。


…締め上げさせ、た?

ん? あれ、ちょっと待って? 誰か、他にもいたよね、首に、痣が…。




ソフィアだ。


わたしの頭の中で、カチリ、とピースが繋がった。

ソフィアの首にも痣があった。荷物を運んでいて怪我をしたといっていたけど、あれは嘘だ。


あの痣が、わたしと同じように、ホルガーに締め上げられてできた痣だとしたら。




王妃が、ソフィアに結界を破壊させたんだ。

きっとわたしにしたように、ソフィアと、ソフィアの家族――彼女は孤児だから、孤児院の人かもしれない――に危害を加えると脅して。


『わたくし、ソフィアがあなたに教えたのではないかと思っているのよ』


王妃は、そう言っていた。

あれは、強要されてソフィアが結界を壊したけれど、どうしてもそのままにしておけずに彼女がわたしに話し、わたしが予知魔法というふれこみで王立騎士団を動かした…と、王妃が深読みしてのことだったのか!


そういえばこの間、ソフィアが騎士団を解雇されそうになっていた。

魔獣騒ぎで結局うやむやになったみたいだけど、ギュンター様はそれが上からの圧力であるようなことを言っていた。

エアハルト様はソフィアの解雇に反対したわたしにソフィアと王妃の関係を示唆し、気をつけろ、と警告までしてくれていた。

それも、用済みになったソフィアを王妃が早々に宮廷から厄介払いしたかったんだと考えれば、辻褄は合う。


王妃がソフィアを魔女呼ばわりしたことに反発して、わたしは結界の破壊とソフィアとの関りを全否定していた。

だけど、黒幕と実行犯が同じとは限らない。テレビドラマでもよくある話だ。




――手首を持ち上げると、ブレスレットの水晶がきらりと光った。


ソフィアはいい子だ。

王妃とホルガーに脅されたなら、誰が断れるっていうんだろう。ホルガーが王妃の後ろに控えているのに気づかなかった、迂闊なわたしみたいなのはともかく。


…だけど、結界が壊されたせいで、魔獣に大切な人を奪われた人は?

仕方がなかった、と言って納得できるんだろうか。


わたしはエアハルト様に、仇討ちの手伝いをすると約束した。

だから、このことを彼に伝えないといけない。


でも、なんて言えばいい?

「ソフィアが結界を壊して全国を回っていたようだけれど、黒幕は王妃です、王妃をやっつけましょう」って?

公爵家とはいえ一貴族が、王妃を相手に父親の恨みを晴らすことなんて、できるんだろうか。

そもそも、礼拝堂の結界を壊した人間と、王国各所の結界を壊した人間は別かもしれないし…。




とにかくソフィアに会って、話を聞くのが先――なんだけど。


わたしはしばらくの間、この屋敷で療養させてもらうことになっているらしい。

わたしの両親にも既に連絡が行っている、とマルゴット様が教えてくれた。

そもそも肋骨骨折のせいで、あまり身動きも取れなそうだ。


だからソフィアに会うには、彼女にここへ来てもらうしかない。

でもそれには、この屋敷の当主であるマルゴット様と、わたしをここへ搬送してくれたエアハルト様の了解が不可欠なわけで。

もちろんソフィア自身の承諾も。


今は夕方。

エアハルト様がもう仕事から帰っているなら、このお屋敷の中にいるかもしれない。




そっと体を起こし、ゆっくりとベッドから降りる。

痛み止めが効いているとは言え、動くと胸に痛みが走る。

そろそろと立ち上がり、歩いてクローゼットの前まで行った。


部屋にあるものはなんでも自由に使っていいとマルゴット様に言われていたので、わたしはクローゼットのガウンを借りて羽織った。

そして、壁の鏡に映った自分を見て、愕然とした。


わたしの首の周囲に、くっきりと、指の形の青痣が浮かんでいる。


うっわあ…首を絞められたのが一目瞭然っていう…これ完全に締め殺されかけた人だよね…他の人に見られたら気まずいなあ…。

マルゴット様とハーマン先生は、あえてこの痣には触れないでいてくれたのかな。大人の対応だ…。

クローゼットにスカーフがあったので、わたしはそれも借りて首に巻いた。


鏡でスカーフの位置をチェックする。

…よし、ほとんど隠れた!

これでもう痣は見えな…い…?


鏡の中に、痣は見えない。

でも、何か違うものが映っている。




見知らぬ女性。

白いドレスを着て、わたしの後ろに立っている。

顔も手も真っ白で。

血の気がまるで感じられない。


さっきまでは、確かにこの部屋にはわたし一人しかいなかった。




彼女はわたしを見てかすかにほほ笑み、聞き覚えのある声で言った。


「ごきげんよう」




それは、あの幽霊との3度目の対面だった。

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